第十八話 ミステリ回


骨の館


登場人物


上条拓哉 ……自称名探偵

安藤勝太 ……古生物学者

朝倉雄平 ……登山家

大久保雄平……会社員

大久保咲 ……教師

大久保壮介……小学生

上原康弘 ……館長




「犯人はこの中の誰かにいる!」

「……まぁ今回の事件の容疑者が全員集められているのだから、当たり前でしょう」

「まぁまぁ言わせてくださいよ。これ言うために探偵やってるんですから」


 そういって冗談めかしてふっと笑ったが、すぐに持ち直して、上条は表情を整えた。


「さて……」


 そう口にした上条は、まさしく名探偵といったようだと、その場にいた五人は思わず感じさせられた。


「今回の事件をもう一度整理しましょう。事件はこの博物館で行われていた特別展のある企画、『VRで白亜紀へGO!』のひとつのブースで起こりました。このブースは完全に閉鎖している訳では無いのですが、暗幕で区切られている上に監視カメラの死角から入るのは不可能です。にもかかわらず今回の犯人は誰にも見つからずに殺人をやってのけました。事実上の密室殺人です」

「何を今更。そんなことはいいので早く……」

「焦らないでください、朝倉さん。こういった当たり前の一つ一つの確認が、事件解決へと繋がるのです」


 そうして咳払いをすると、話を再開した。


「被害者は大久保雄平さん、34歳のサラリーマンで古生物ファンだったんですよね、大久保さん?」

「は、はい。今日も主人の提案で……」


 そう返答しながらも、夫を失った悲しみを堪えるかのような表情で、まだ六歳の子供を前に抱き抱えていた。


「事件が起こったのはVRを楽しみ終わった数分後、ブースを出た際に財布を無くしたことに気付かれた被害者が、もう一度ブースに戻った。そして戻らないことを不審に思ったあなたがご遺体を確認し、警察に通報したとのことですね。これは、防犯カメラの映像とも一致してます」

「そうだよ、警察に通報したんだから土砂崩れから復旧するのを待って警察に任せましょう。こんな『名探偵』とやらを名乗る怪しい人は申し訳ないですけど信用できません!」


 推理を続ける上条のショーを遮って、安藤が叫ぶ。彼は最も長い時間上条からの取り調べを受けていた。


「だいたい、素人が殺人事件にそんな積極的なんて、それ自体が怪しいですよ、むしろ貴方こそ……」

「そうですね、まずはそこの説明をすべきでした」


 犯人扱いされかけても平然とした顔で、上条は人差し指と中指を立てて天井に向けた。


「なぜこのタイミングでこの事件の犯人を突き止めようとしたのか、それは二つの理由があるんです。のうち一つは、館長さん、貴方の口からよろしくお願いします」

「承知しました」


 そうして一つ咳払いをして、


「つい先程、土砂崩れから復旧したと連絡が来ました。あと10分以内には、警察の方々も到着するそうです。昨日から本日にかけて、誠にご迷惑をおかけし、申し訳ございません」


 と、頭を下げながら老館長が報告した。それを聞いて、喜びの声をあげる者、声は上げずとも表情に解放感が浮かぶ者など、三者三様の反応が見られた。


 館長さんの責任ではありませんよ、と言いながら上条は次の話をし始めた。


「もう1つの理由は後でお話しするのですが……これによってこのタイミングで犯人を突き止めることにも納得していただけると思います。なぜなら、犯人によって反抗されるリスクを追うこともなく、逆に警察による捜査のどさくさに紛れて逃亡される可能性を消せるからです」


 誰か分かっているにも関わらず白々しいな、と上条は思った。だが、今自分で話したように今回の事件では時間が鍵だ。会話のペースにも気を使う必要がある。


「そう、時間です、今は我々にとってベストな時なのです。それは昨日犯人にも回ってきました」

「それが午後二時半だったということですか……」

「いや、違います。犯行時刻ではありません」


 一同に疑問の顔が浮かぶ。ある二人を覗いて。のうち一人が口を開いたが、もう一人には誰も気がつかない。


「残り七分、こうして時間が無為に過ぎ去ってくれないかと望む人がいます。我々はその方の思惑通りに動くわけには行きません。この辺で終止符を打ちますか」


 一気に緊張が走る。全員が、これから行われる宣告を察した。もはや上条のことを、ただの胡散臭い自称探偵と思う人間はいなかった。全員が息をのみ、彼の一挙手一投足に注目する。


 上条が人差し指を上げる、その指揮棒で奏でるメロディは、希望にも絶望にも聞こえるようだった。そしてその人差し指はある人物の方を向く。





 目が覚める、同時に絶望する。


「いや犯人誰だよ!」

「うわぁいきなり叫ぶなぁ!怖いよ!」


 音の聞こえないモンスターの彼女だけがキョトンとしている。起き上がると、ため息をつくリョクと、謎の銀色の箱があった。


「これ、何?」

「君の脳波を調べて記憶を読み取れないかなぁって思ってね」

「前から思ってたけどプライバシーって無いの?」

「ここに人のための法は無いのだよ新入り君……それはそれとして、何見てたの?」


 とりあえず、脳波とやらで詳細の内容が分かるわけではないっぽいので、簡単に説明した。村長さんにも分かるように言語魔法で。


「それは災難でしたね……」

「モンスターにも小説の文化あるんですか?」

「あぁ、人気ですよ。私の家にも何冊かありますけど、読みますか?」

「いやぁここの文字はまだ読めないので、また機会があれば読もうかなと」


 軽く会話しながらも、正直上の空だ。そんなことよりもある一点が気になりすぎる。


 犯人は誰だったんだ?


「……ぜってえ全部取り戻す」

「見てる分には愉快だねぇ。お気の毒に」

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