第十一話 野生のモンスターが飛び出してきた!



「で?」

「……ん?」

「いや……どっち?」

「あぁ。そんなことか」


 門から出て数分、目の前で道が二つにくっきりと分かたれていた。中央に、妙に角張った模様の書いてある看板があるだけで、他に何もない。あるのは、草原と、草の生えていない道だけ。


「いや、行き先どうするの。俺なーんも知らないんだけど?」

「私だって知らないよ」

「リョクが知らないならどうすんの」

「だって、記憶の欠片って言われても知らないもん」

「にしたって泊まれるところとか街を探すとか、色々できるでしょ。そうだ、じゃあとりあえず一番近い集落に連れてってよ」


 それを聞いてうつむくリョク。


「わ、わかんないっぴ」

「へ?」

「方向音痴でさ……王都内の地図は気合いで覚えたけどそれ以上はムリだった」

「魔法で地図出せないの?出せるでしょ出してよ!」


 次の瞬間、両腕をクロスして全力で否定の事実を伝えてきたリョク。そのまま腕の上にニンマリした顔を乗っけてきたので、デコピンしてお返しした。


「あいてっ」

「もういいや、左行こう」

「なんで?」


 と言われても、なんとも言えない。ただなんとなく胸騒ぎがすると伝えると、


「分かるのかい?」

「まぁなんとなくね」

「なるほどねぇ。んなスピリチュアルなこと君以外なら信用できないな」

「どうする?」

「行くに決まってるじゃん、どうせアテもないんだし」

「いや、なきゃ困るんだけど」


 さっきまで俺を振り回して、問答無用で脳をいじらされて、一を聞くと百を返してくるような解説好き。今みたいに楽観的なようで、記憶喪失と知った時のように、少し不安定さも感じる。


 そんなめんどくさい性格をした緑の眼のヒトといて、色々気付かされた。一つはこの人は無理してるんじゃないかと言うこと。ここ最近、とんでもない情報量で圧迫されて、感情すらも潰れてしまったように起伏が少なくなっている自覚がある。思えば、この世界で笑ったことは、あんまりない気がする。


 この人は、そんな俺を無理やり笑顔にさせようと、色々な話をしてくれている気がする。気持ちは嬉しいし実際興味深いが、残念だけどさらに情報で圧迫してくるという点では逆効果と言わざるを得ない。


「ほら、言い出しっぺから先に行ってよ。タイチョー!」

「誰が隊長だよ、あと責任押し付けるな」

「ヘイヘーイ」


 まぁ絆されつつあるのは事実。


 それと気づいたことの二つ目は。


「ふふ」

「あっ笑った。なんか私言ったかい?」


 まだ言葉にするのはやめよう。確信もないし。





 昨夜の会話を思い返す。


「……つまりだね、モンスターというのは我々が植物や動物全てひっくるめて生物というような大きすぎる括りであってもちろん君が今日出会った知的な種もいれば猛獣のような凶暴なモンスターもいるということなんだけれどそもそもモンスターと生物を分けるものは何かという問いはとても興味深いものg聞いてる?」

「聞いてますよぉ」


 俺はそう言って空返事をした。正直、話全部は聞いていられないので要点だけ聞いていた。それにしても、よく一息でここまで喋れるなと素直に感心した。


「昨日言っただろう?聞いてないとは言わせないよ」


 その『猛獣』と鉢合わせた今になって、要点だけでも聞いておいて助かったと思う。


「聞いてはいたよ。たしか、モンスターに襲われる危険性が市外だとあるんだよな」

「じゃあモンスターと生物の違いは?」

「……はぇ?」

「細胞構造の違いと言ったでしょ。やっぱり聞いてないじゃん!」


 察するに、俺にとっては要点ではなかったのだろう。リョクはため息をついて、


「まぁいい。とりあえずこいつらをなんとかしないとね」


 そう言われて、辺りを見渡す。気がついたら三日月の弧の形をした陣形で迫ってきていた。青色の体をして、ぷにぷにした見た目をしている。


「十二体、昨日話していたモンスターの『スライム』で合ってるか?」

「That's right!真正面の一際デカイそいつが群れのリーダーだ」


 スライム、体液には毒性がある種もあり、固体とも液体とも言えない不定形のモンスター。色によって分類されているがほぼ同色でも生態が異なることもある。基本的に単独行動をしていて……


「あれ?」

「何だ、ちゃんと聞いてるじゃん。君が疑問に思った通り、通常スライムは群れをなさない」

「言いたいこと全部言わないでリョク。じゃあ何で……」

「知らないけど推測はできる。もし新種なら興味が湧くけど、多分そうじゃないな」


 リョクは押しが強い。基本喋りたいことを押し付ける感じだ。話すことが面白いから、たまにしか不快感は感じないけれども。


 話してる間にも、スライム達が迫ってきている。約、五メートルぐらいだろうか。


「とにかくこういう時は逃げるに限る」

「危ないから?」

「それも無くはないけど、万が一絶滅危惧種とかがいたら戦うと罰金なんだよ」


 色々面倒だな、と思うが、実はそうも言ってられない。


「ごめん、その時は罰金払って」

「んえ?」

「多分どっかのスライムの中に欠片がある。取ろう」


 えぇぇぇぇぇ、とため息と抗議が合わさったような声が聞こえる。


「ホント君は変わらないなぁ」


 それから、一度緑の瞳が覆われて、また姿を表す。その目には、魔法陣みたいな文様が。


「任せなさい。今日は全部やってあげる!」


 さっきまでの頼りなさは、気がつくとスライムに怖気付いて逃げ出したみたいだ。

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