第十二話 最強
1
「今から私の声に全て従ってくれ。いいかい、声にだよ。」
リョクがそんなことを耳打ちする間にも、スライムの群れは近づきつつある。
「4、3、2、」
「ねぇリョク、どういう……」
「静かに。」
ふっと目を閉じるリョク。こんな行為になんの意味があるのかは知らないが、その横顔に一瞬息を呑んだ。
「前方に走れ!」
『走れ!』
声が、言語魔法が、二重になって脳へ届けられる。刹那スライムの群れへ突進する。
「うぉぉぉ!」
後になって振り返ると、なんでこんな無茶が出来たのかわからない。相手はドロドロの化け物で、体液にどくがある種もあると聞いてた。
いつからこんなにこの人を信頼していたのか。あるいはこの人しか何も信じれなかったからか。とにかく我ながら随分盲信的みたいだ。
「ジャンプ!」
『ジャンプ!』
聞いた同時に跳ぶ。世界がスローに見えて、これまでの思い出が走馬灯のように……流れるほどのものが無かった。
「回りながら着地して合図したらOKって返答して!」
『回りながら着地!』
……ん?なんか指示が多い、というか言語魔法と伝わってくる情報が違う?
「うおぉっしゃーい!」
まずい、考える間もない。てかなんで出来たんだ。そのまま走り続ける俺に。
「Are you ready?」
「…っおぉーけい!」
瞬間、体にとてつもない逆向きの加速度が加わる。後ろに引っ張られたと気づいたとき、目の前を炎の矢が横切った。
そのまま一瞬で吸い込まれ、気がついたら……
「私の
リョクの手のひらの上にいた。
2
「!?!?」
「あはは、驚いてる。」
「これは……?」
「手のひらの上に
ボックス……どこかで聞いたことあるような、と考えて、一つ思い当たるものがあった。
「あぁ、あの持ち物を入れるあの魔法か。」
言いながら、ステータス画面を開く。ボックスの欄に、さっき買ったものやミュラーさんから受け取った武器などが入っていた。
ちなみにさっき武器を取り出そうとしたら、下手に使うと危ないと言われたのでやめた。
「あれ、元は私の固有魔法なんだ。あとで説明するよ。」
そう言って、リョクは俺を『放り投げ』た。文字通り。
「うわっ!」
手のひらから離れると、一瞬で元のサイズに戻り、着地。なんというか、ファンタジックだ。実際にはないはずの、ポンッという効果音までも聞こえる。同時に、燃え上がるような演出までも……
「おーい、この辺燃やすと罰金だぞー。」
「ちょ、ちょっとこれ、脳が追いつかないんだけど。」
「うーん、じゃあ整理s、ほいっと、しながら対処してくか。」
会話中にも炎の矢が飛んでくる。スライムとは違い、明らかな殺意が向けられたその矢を、この人は軽く止めた。文字通り空中で停止させている。
「まず、なんで俺を突撃させたの?」
「カワイくて初々しいリュウを見たかった、と言ったら?」
「それなりの報いを受けてもらうね。」
「おぉ、怖い怖い。冗談だよ。」
命を狙われてる状況で冗談を言っている余裕があるのか、とも思うが、この人は本当に余裕そうだから多分大丈夫だろう。
「欠片がスライムの体内にあると言ってただろう、君を近づければ特殊な動きをする個体がいるかな、と思ってね。」
「……手段にはつっこまないけど、結果は?」
「大成功、ここに。」
そう言って、リョクは背中に回していた左手をこっちに差し出す。手のひらのなかに、サイコロの形をしたスライムがいた。
「こいつが君が走ったときに吸い寄せられてたんだよね。だから
「確かに、異様な気配を感じる……」
「そうなのか、解体しないとわからないな。」
「物騒なこと言うの止めて……他に理由は?」
「スライムが群れてる理由にも関連するんだけど、これは私か君を狙った計画的な犯行な気がしてね、君を走らせれば釣れるかなぁって。」
「俺の安全 is どこ?」
まぁじで勘弁してくれ。
「いいじゃん、無事だし。」
「結果論で全ての物事を語らないでくれ、そのうち結果もついてこなくなる。」
「まず目の前の結果を最大効率で優先したんだよ、未来の勇者君。」
「何が……」
「それに、私がいる限り死なないって!だって、」
その時、突風が起きる。何かが顔に当たって落ちた気がして、落下箇所を見た。
「私がこの国で最強だもん。今のところは。」
そこには箱が十二個。
もう矢の音は、聞こえない。
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作者です。初めてルビ振ってみたんですが、どうなんですかねこれ。
誤字脱字や内容について(特に戦闘描写)の意見お待ちしております。
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