その右手に愛を

篠ノサウロ

0 白

 目が覚めると、白い空間にいた。

 ここから宇宙が始まったと言われても納得できるような、そんな白い、何もない世界。


「もしもーし」


 とソプラノの声が聞こえた。振り向くと、微笑を浮かべたギリシアの女神のような服を着ている女がいた。


「あなたは?」

「何者かなんてどうでもいいじゃない。」


どうでもいいものなのか。


「ここは死後の世界か?」

「いいえ、あなた『は』、まだ死んでない。」

「というと?」

「ここは時空の狭間、とでも言っておこうか。あなたは確かに本来死ぬはずだった。でもとある人物のせいで空間に乱れが生じて、今ここにいる。」

「そいつは?」

「何者かなんてどうでもいいじゃない。」


 どうでもいいものなのか、とぼんやり思ったが、どうにもふわふわした感覚で、思考が上手く回らない。

 女は話を続けた。


「災難だったね、私が見た限りざっと五十人ぐらい死んでたかなぁ、でもあなたの親しい人はほとんど無事だよ。」

「ほとんど?」

「覚えてないのかい?」


女は悪魔のような笑顔を浮かべた

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