一章 勇者
第一話 はじまりのむら
『ここはどこ?私は誰?』
記憶喪失の人間のセリフの定型文だ。一周回ってむしろ目新しさがあるかもしれない。
一
目が覚めたのは、草原の上。頭を打ちつけたのか、少し痛む。でもそれ以上に、青空とそよ風が心地よい。まるで天国にいるかのように思えてくる。そのまま、目を閉じてみた。
数分仰向けになって寝転がっていて、ふと考えた。なんで俺はこんなところにいるんだ?俺は本来、□□に□□□□□□□□□。そもそも今は、いや、ここはどこだ?というか、さっきまで□□□と□□□□□□□□□□て、□□□と……
おかしい。なぜこんなに思い出せないんだ。頭を打ったのが影響しているのか?混乱で脳が乱されている。
俺の名前は赤井龍之介、15歳、母の名前は優香、父の名前は□□□。視力は右目が0.9で左目が1.0。□□□□□に通っているが、無事N県で二番目の高校に合格している。あと親友の□□や……
なるほど、記憶の一部を失っているが、時系列に共通性はない。だが、今のところ語彙や思考力などの記憶以外の欠損は無いらしい。15歳の若者が脳科学の専門家な訳がないから。正直あまり分からない。
そしてわかったことがある。ここは俺の暮らしていた世界ではない。少なくとも日本ではない。なぜなら、
「アッツ!!」
雪国N県の冬に適応したコートは、この陽気には暑すぎた。
二
コートを脱ぐ、静電気でパチパチ音がする。そうやって初めて体を動かして、気が付いた。右腕が動かない。肩を見ると、あるはずの空間に何もない。隣を見ると、左腕は無事残っているようだ。
困惑、疑問、絶望など、色々な感情が渦巻く。どうしてそれ以外の外傷は無いのか、痛みもどうして無いのか、これからどうやって生きるのか、左利きなのは不幸中の幸いだな、とか。ぐにゃぐにゃな感情が渦巻いて、喉からほとんどため息に近い、
「そっかぁ……」
という音が聞こえた。
切り替えろ、俺は両手で頬を叩くつもりで左手で叩いた。とりあえず何かしないと始まらない。見渡す限りの草原だが、遠くに建物が見える。とりあえず向かってみた。
三
歩いて4分、旧く寂れた西洋風の門の前に着いた。門と言っても扉がついている訳ではないので、導かれるようにその集落に入った。
違和感、何処と無く違和感を感じる。気候は春、日中、なのに誰もいない。住民が皆アルティメット花粉症の可能性も無くはないけど、それにしたっておかしい。どこを見渡しても人の気配を感じない。
気配というのは聴覚由来と聞いたことがある。確かに、耳を澄ませても風の音しか聞こえない。俺はそのまま村の中央の通りを歩いた。石造りの家が両側に何軒も並んでいて、まるで□□□き行った□□□□□□□□のようだ。
通りを歩いて、あるものを見つけた。指輪だ。緑色の、おそらくペリドットだろう、小さな、それでいて光輝いている宝石が埋め込まれている。詳しく見ようとして、近づいて屈んでみた。
四
目が覚める。でも視界が暗い。数秒して、床に伏せられていると気がつく。起き上がろうとしたが、何かに押さえつけられてて起き上がれない。両手両足が縛り付けられていて、完全に身動きが取れない。
「ひっさしっぶりー」
女性の、飄々とした声が上から聞こえた。
「いやぁ、驚きだよね。生き別れたーと思ってたリュウが急に空から降ってくるなんて。しっかし王国軍も仕事が早いねぇ発見から30分でここまで連れてくるなんて」
その人は早口で一気にまくし立てた。数秒後、押さえつけていた何かが消えた。
「さあ、起きて」
そのまま上体が引っ張られるように浮かぶ。声の主は俺と同い年ぐらい、つまり15歳前後の女子だった。
「さて、何か言うことあるよね?」
俺はストレートに答えた。
「すみません、どちら様ですか?」
「うぇ?」
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追記 2024/4/16
作者です。アルティメット花粉症です。冬の頃の自分をぶん殴ってやりたくなりました。
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