第十六話 緑の瞳(二)



小火ぼやか」

小火ぼやだね」

「何が『燦然たる業火』だよ」

「いやぁ?おかしいなぁ」


 俺が文句を言うと、リョクは首を傾げながら、疑問の声をあげてる。背後で草がちょこっとだけ燃えていたので、水をかけに行った。


 戻ってくると、リョクは開口一番に言った。


「いや、そんなはずは無い」

「んなこと言われても実際今こうなってる訳で。まぁ俺が魔法初心者なのが良くないんだと思うけど」

「それだけじゃ説明できないショボさなんだよ。だって……」


 そういうと彼女は右手を構えて炎の銃を出現させる。そして、引き金を引いた、次の瞬間。


 轟音と、光と、熱が顔に直撃する。何が起こったか一瞬理解が追い付かずに、堪らずに目を閉じた。


「言わなくても!良いのかよ!あの中二病口上!」

「あはは、最初の感想それぇ?」


 なんでこの人こんなに余裕そうなんだ。そんなこと話してたら、取り敢えず轟音は収まったので目を開けると。


「うっわ」

「ちょっとー引かないでよ!」

「いや引くでしょ」


 着弾点と思われる場所には草原の面影はなく、ただ灰だけが残っているクレーターになっていた。その周辺の草から炎が燃え上がっている。


「燦然たる業火ってのは嘘では無いみたいだね」

「これが、最強坂井緑かよ……」

「ふっはっは、ひれ伏すがよいぞー、ってのは置いといて」

「置いとくんだ……」

「私の概算だと、君もこの半分ぐらいの火力は出るはずだったんだけどな。前に読んだ文献には、転移者は通常モンスターの約2.7倍の魔力があるって記載されてたから」

「ちなみにリョクは?」

「やや上。3.1倍」


 リョクの言うところには、俺達のような異世界転移をする人間は二十年に一度ぐらいのペースで現れてるらしい。もっとも、通常ならモンスターの国から人間の国に引き渡されているそうだけど。


「伝説の勇者って聞いてたからさらに期待してたんだけどなぁ」

「……やっぱり嘘なんじゃないか?その伝承」

「可能性としては否定できない。ただね」


 そこで一旦言葉を区切る。彼女の緑の瞳が、何かを求めるかのように光輝いた。


「君の特殊魔法の性能が重すぎるんじゃないかなぁ」

「性能が重い?」

「そ、スマホで動画撮りすぎて容量圧迫してるイメージかな。君の魔法は常時発動型だから、それだけでリソースが喰われてる」

「常時発動?そんなつもり無いけどな。具体的に何が起こってるんだ?」

「それを説明できたら苦労しないんだけどね。まったく、他者の発言をも妨害するなんて、規格外すぎる」


 そう、俺の特殊魔法の説明をどれだけ受けても、この世のものとは思えない音に変換されて何も聞き取れなくなるんだった。言語魔法でも、同じだったけど、周りのモンスターには聞き取れたみたい。


「お前まさか、『アレ』かよ。やべーな」


 って実験に協力してもらった通りすがりのモンスターが言ってたので、間違いない。だからその『アレ』ってなんだよ。


「まぁとにかく、君の魔力についてはもうちょっと研究がいるな。」

「俺はモルモットって訳か」

「そう。出来れば鳴き声まで再現してくれる?」

「……記憶喪失じゃない人間なら、モルモットの鳴き声なんて基礎教養なのか?」

「モルモット飼育員の基礎知識ではあると思うよ」





「あーるーこー、あーるーこー。わたしはーげんきー」

「朝から大声で歌うな」

「あるくの、だいきらーい」

「現代っ子め」

「そうげんーへいげんーくさはっぱらー」

「草しか生えてねぇ」


 歌を聞きながら歩く、その時、ふと気になったことがあった。


「リョクの目の色って元々なのか?」

「ん?」

「俺の記憶が無いからかもしれないけど、緑色の瞳って珍しい気がして」

「あぁ、これね」


 そう言って、いきなり立ち止まって顔を近づけてきた。よく目が見えるが、なんかこう距離感が近すぎる。


「綺麗でしょ。ペリドットに似てる緑色。ココに来てからなんだ」

「へ、へぇ」

「変異した理由は想像つくけど、ちょっと詳しく話すと時間が足りなさそうなんだよね」


 それってどういうこと?って聞こうとしても、気管に蓋がされてるように何も言葉が出ない。毎分110の振動を全身で感じる。


「君の瞳もほら」

「え?」

「ふふっ、あとで鏡見てごらん」

「……マジで?」

「名は体を表すとはこのことかな。いや、この体は身体的特徴では無かったか」


 名前?名字が赤井だから赤くなってるのか?確かにリョクは緑色になってる訳だし。


「異世界コワイ」

「普通に怪奇現象だよねー」


 なんかこの言い方、魔法関連じゃないのか?この怪現象。


 そうして、リョクは笑顔を浮かべながらゆっくりと元の位置にもどって、歩き始めた。


「よし、あるこー!」

「はいはい」


 こうして、二日目の記憶を求める旅が始まったのだった……!















「あのさ」

「……」

「何分ぐらい歩いたっけ?」

「……9分22秒」

「今目の前に見えてるものは?」

「昨日の本来の目的地の宿場町だね」

「昨日あとちょっと歩けば着いたじゃん」

「……」

「……」


 最大の危機、後悔と暇。

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