第3話 グロリア先輩
ペネロペの一つ年上となるグロリア先輩は、アリカンテ魔法学校に院生として通っている秀才でもある。
侯爵家の三女で膨大な魔力を持つグロリアは、家の内情も豊かだし、二人の姉は無事に嫁いでいるし、兄は結婚して子供もいるし、自分の結婚は急がなくても良いと家族から言われている関係で、魔法学校卒業後は院に通い続けているのだった。
ちなみに侯爵家の令嬢だったグロリアにもかつては婚約者が居たのだが(アストゥリアス王国の王子がグロリアの婚約者だった)卒業パーティーで婚約破棄と断罪を行おうとした相手の足元を掬い、完膚なきまでに叩きのめし、破滅に追い込んだ過去がある。
その鮮やかな手並みに惚れ惚れとした淑女たちの憧れの的となっているグロリアは、昔からペネロペと仲良くしてくれるお姉様でもある。
「ペネロペ!婚約破棄おめでとう!」
そう言ってくす玉が開き、紙吹雪が舞い飛び、クラッカーの音が炸裂するのを聞きながら、サロンに集まった十人近くの令嬢に囲まれて、
「私たちの仲間入りね!」
「おめでとう!」
と、ペネロペは盛大に拍手をされることになったのだ。
グロリアのサロンには上は二十八歳から下は十二歳までと、多種多様な人が参加する。ここ数年で婚約を解消または破棄した令嬢たちばかりで、今日は特別に大きなケーキを用意して集まっていたのだった。
その特別に大きなケーキには、集まった令嬢それぞれがナイフをぶすりと刺しこんでいる。
「さあ!さあ!ペネロペも早く!」
みんなに促されたペネロペは、ああ、ついに自分もこのサロンの会員になってしまったのかと密かに落胆をしながら、大量のナイフが突き刺さったクリームたっぷりのホール状の大きなケーキを見下ろした。
このケーキ、結婚の披露パーティーなどで用意される類のもので、新郎が新婦に自らケーキを食べさせることで、生涯、食べ物には困らせませんと誓うのが最近の流行だったりするわけだ。
フェレとの婚約は3年程度のものではあったけれど、誕生日のプレゼントも交換しあった仲ではあるし、仲が良い時には、それなりにデートにも行っていたのだが、
「あいつ・・殺す・・・」
そんな元婚約者を思い出したペネロペは、ナイフをケーキに躊躇なく突き刺した。
財務部に勤めるエリート様は女性関係が派手だったらしく、父にちょっと調べてもらうだけで、出るわ、出るわ、浮気の証拠は山のように集まった。そのため、婚約は破談にしたくないとフェレがごねてはいたものの、意外にあっさりと婚約破棄は成立したわけだ。
「こんなことで浮気が判明するだなんて!もっと早くにグロリア先輩に相談しておけばよかったわ!」
ペネロペは思わずワッと泣きながら後悔の声を上げたものの、いくら泣いてもフェレの為に潰した三年間が戻ってくる訳がない。
世間一般的に二十歳になるまでに結婚するのが当たり前だし、二十三歳を越えれば嫁き遅れと認定されることになる。最終的には未婚を貫くか、年上で子持ちの後妻となるかの二択を迫られることになるわけだ。
「ペネロペ様!大丈夫ですよ!絶対に良い人が見つかりますから!」
そう言ったのはバシュタール公爵家の令嬢、カルネッタ様十二歳。初等部に通うカルネッタ様は最近、公爵家の令息である婚約者に婚約破棄をされたのだが、その令息は、同じクラスに通う男爵令嬢と結婚するのだと息巻いているらしい。
カルネッタ様は元々、自分の婚約者が好きではなかったので、破棄されても何の痛痒も感じないし、なんならちょうど良いからと隣国に留学に行くことを即座に決定。
最近、留学先である隣国の学園まで下見に行ったところ、隣国の王弟と出会って意気投合したらしい。
「あの方の国で沢山学んで、新しい恋を楽しもうと思っているの!」
と言い出すほど、充実した毎日を送っているのだった。
「「「まだ十二歳なのに婚約破棄からの、隣国の王弟とのランデブーって、その年ですでにヒロインムーブをかましているだなんて!」」」
十二歳とまだ先に余裕があるというのに!すでに!スンバラシイ恋人候補がいるわけだ!羨ましい!と、集まったみんながみんな、羨望の眼差しをカルネッタに送ったのは仕方がないことだろう。
なにしろ、相手の有責で婚約破棄になったとしても、女性の傷の方が大きくなるような風潮にあるわけで、
「男が浮気をするほど魅力がない女性なんだから、仕方がないんじゃないの?」
みたいな目で見られることになるわけで、
「ああーー〜!これから婚約者探しとか無理!無理!無理!無理!」
ペネロペが自分の頭を抱えながら声を上げた。
「まあ!まあ!そんな風に嘆かなくても、きっと良い人が見つかりますよ!」
と、言っているこのサロンの主催者であるグロリアは、とっくのとうに結婚なんてものは諦めている。
何時でも何処でも、気さくに恋愛相談に乗ってくれるこの先輩は、何時でも嘘を見抜く方法を教えてくれて更なる嵐を巻き起こすし、自分の仲間を増やし続けているのだった。
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