第7話  目を付けられたペネロペ

 卒業に必要な単位は全て取り終えているペネロペは、空いた時間を婚活に利用しようと奮起した時期も確かにあったものの、今は何もかもを諦めて、卒業までに結婚相手を見つけるということは到底無理だということを、無理矢理にでも理解しようとしている状態だった。


「ペネロペ、そんなに焦る必要もないわよ。大丈夫、貴女だったら、即座に素敵な人を見つけられますよ」


 結婚等というものについては完全に諦め切っているグロリアに声をかけられたペネロペは、グロリアの美しい顔を見上げてホロリと涙がこぼれ落ちそうになってしまった。


 長年、アドルフォ王子の婚約者として厳しい教育を受けてきたグロリアは、よくわからない子爵令嬢の所為で全てを失うことになってしまったのだ。


 王子を籠絡した子爵令嬢は、グロリアの罪を捏造し、彼女を破滅に追いやろうとしていたのだが、グロリアはそれを苛烈な手段で叩き返した。


 何をどうやって叩き返したのかというと、不特定多数の異性と肉体関係にあった子爵令嬢に、物凄く見た目の良い性病持ちを差し向けたわけだ。


 肉体関係を結ぶと案外簡単に感染するけれど、医師の診断を受けて薬を飲めば治るもの。


「子爵令嬢とその取り巻きたちが痛い目を見れば良いのよ!」


 という発想から生まれた彼女の一手は、周囲に人には言えない病を広げていく結果となった。


 卒業パーティーで婚約破棄宣言と共に冤罪をかけられそうになった彼女は、子爵令嬢が性病に罹った事実と共に、その時、彼女を守るようにして並び立つ四人の男たちが全て同じ病に罹っていたのだと暴露。その場に医師の診断書まで提示して、会場を混乱の渦に巻き込んでしまったのだ。


 しかもその後の調査で、王宮の医師に診察を受けるのは体裁が悪いと判断したアドルフォ王子が町医者を受診し、投薬された薬の服用をし続けたものの治りが悪いまま放置、結果、病状が悪化したことが判明。


 王子としての役割は果たせないと判断されたアドルフォ王子は廃嫡されて辺境へ追放処分。グロリアの繰り出した一手があまりにもえげつない結果を導いたことにより、求婚する男性は見当たらない状態となってしまっている。


 ちなみに、グロリアが性病男を子爵令嬢に差し向けた事実は極秘事項でもあり、現在、その事実は闇に葬られている状態になっている。


「私・・グロリア様と同じ道を歩もうかと思います」

「うん?どういうことかしら?」

「一緒に老後は過ごしましょう!二人で仲良くしていたら、孫や子がいない寂しさなんて感じないんじゃないかなとも思いますし!」


 うるうるした眼差しを向けるペネロペは、年齢よりも幼く見えるし可愛らしい容姿をしている。グロリアは自分とは違って、ペネロペにはすぐに良い人は現れるだろうと考えている。


 一緒に老後を過ごしましょうと言いながら、愛する男性を見つけていってしまう友人たちを送り出してきたグロリアとしては、

「はい、はい、そうなったらいいわよね」

 いつでも話半分で聞き流すことにしていた。


「もう!グロリア様!私は本気で言っているんですよ!」

「はいはい」


 院生となって空間魔法の研究をしているグロリアが山のように積まれた資料を手に取ろうとすると、彼女に与えられた研究室の扉がノックされたのだった。


 春が終わって夏が到来し、夏が終われば秋が来る。今は秋が深まって来て、もうすぐ冬の訪れを予感させるような秋風と共に現れたのはパチェコ理事長の秘書であり、

「ペネロペ嬢、今すぐ理事長室までおいで下さい」

 と、言い出した為、ペネロペは顔をくちゃくちゃに顰めて見せたのだった。



 後輩であるカミラの恋人事件以降、ペネロペは大人気となっていた。


「私のお付き合いしている人も見て下さいませんか?」

「私の婚約者を紹介したいんです!」

「お願いします!」

「お願い!」

「お願いです!」


 女子生徒に囲まれ、懇願されることになったペネロペは、暇つぶし程度の気持ちでお茶会などに顔を出すことになったのだ。


 親が用意したお見合い相手を蹴散らした結果、出会いが極端に少ない状態に陥ったペネロペは、友人の恋人、もしくは婚約者と顔合わせをすることによって、その人物の友人を紹介して貰えたら良いな、程度の気持ちでいたのだけれど、

「ええ?世の中には碌でもない男しかいないってこと?」

と、驚くほどに、世の中には不誠実な野郎で溢れかえっていたらしい。


 魔法学校に通っている生徒は、大概、入学前には婚約者がいる状態だったりするのだけれど、相談に乗って欲しいと言い出す女子生徒たちの約七割程度が、浮気されている状態だったわけだ。


 家の都合で結婚を決められた子弟たちが、学生時代くらいは自由に遊ばせてよという風潮にあるのを頭では理解出来るけれど、アドルフォ王子、クリストバル小公子と、最近立て続けにヘマをやらかした高位の身分の方々がいるわけだ。


 今くらいは自重しろよという時期に自重できない奴は、一生自重が出来ないのに違いない。


 ちょっとの浮気ならまだ許されたという時代は過去のもの。いくら家同士で決めた結婚、契約上決められた相手だったとしても、後々、想像も出来ないような泥を塗り込められるという未来を考えるのなら、

「手を切って次に行こう」

 と、女子生徒側の親も考えるようになっている。


 そうして婚約破棄や解消が連続して起こる引き金となったペネロペはパチェコ理事長に目をつけられて、度々、呼び出されるようになってしまったのだった。


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