社蓄コスプレイヤー、勇者の剣を自作したら最強になりました~コスプレイヤーの聖地になったダンジョンが本気を出した結果、戦えるのは俺だけ?!~

そでまる

第1話 始まり

――暗転


――これより、ダンジョンは本番環境に移行します


 無機質な声で発せられた言葉と共に、ダンジョン内の景色が変わり始めた。花や木、川を流れる水、岩まで、全てが色を失い砂のように崩壊していく……。


 そして、まるでプログラムされているかのように、不気味な程に、全く同じ景色が再構築された。


 何も変わっていないはずなのに、ぼやけていた輪郭がはっきりしていくような、まるで今までのダンジョンが偽物だったかのような、不思議な感覚に襲われる。


――遠くから空気を切り裂くような女性の悲鳴が聞こえた。





――数時間前――

「なんとか間に合った……やったぞおおおおおお」


 感動と安堵で泣きそうになりながら、自作のコスプレ衣装を抱きしめる。


 くそ上司め、ダンジョン1周年記念イベント前日にまで残業なんてふざけやがって……。


 ダンジョンが出来たのが1年前、俺がコスプレを初めたのがその数ヶ月前か……あっという間だったな。


 俺、黒田 怜(くろだ れい)は社蓄限界コスプレイヤーだ。


 小さい頃からアニメやゲームの世界に入るのが夢だった。


 勇者になってピンチのヒロインを助けるなんて定番の妄想は何百回もしたし、かっこいい悪役にだって憧れた。


 学生の頃なんて、いつでも戦えるようにオリジナルの必殺技を毎日考えてたっけ。


 厨二病だって笑ってくれても構わない、俺が世界を救うんだって本気で思ってたんだ、社会人になるまでは……。


 大学卒業後、憧れのゲーム会社の面接で惨敗した凡人は、小さなIT企業に就職した。


 それからは毎日仕事仕事仕事……。

寝ても醒めても仕事に追われる日々、いつしかあんなに好きだったゲームやアニメにも興味が持てなくなっていた。


「……こんなはずじゃなかったのにな」


 当たり前のように休日出勤をした帰り道、自然と口から出た言葉に涙がこぼれそうになる。


 そんな時、ふと目に入ったのが職場の近くで開催されていたコスプレイベントだった。


「聖女ティシア……?」


 腰まで伸びた美しい銀髪、透き通るような青い瞳、金装飾が施された純白のワンピース。


 大ヒットゲーム『勇者伝説』に出てくる聖女ティシア……恋焦がれたヒロインがそこにはいた。


 衝撃だった――


 連日の残業で頭が回っていなかったせいかもしれないが、本気でゲームの世界に迷い込んだと錯覚したんだ。


 俺もこんな世界で生きていきたい、純粋にそう思った。


 憧れの勇者、かっこいい悪役、もちろん初恋のヒロインにだって、なんだってなれるのがコスプレの世界。


 そんな自由な世界にのめり込むのに時間はかからなかった。


 変わらず仕事は残業ばっかりだし、むかつく上司もいるけれど、コスプレや彼女の事を考えると何とか耐えることが出来た。


 残念ながらあれから彼女をイベントで見かけることはなかったけど、いつか会えたらいいな、と密かに願いながらイベントに通い続けている。


 そんな生活を続けて数ヶ月……。


 突如として、世界各地に謎の空間が発見されるようになった。


 ゲームに出てくるダンジョンにそっくりな空間は、そのままダンジョンと呼ばれるようになり、世界中が熱狂した。


 ニュースでも連日のように中継されたし、有志の探検隊まで結成されて調査が行われた。


 しかし、危険なモンスターも、オーバーテクノロジーや金銀財宝、なんてゲームでよく聞くお宝は発見されず、あるのは不思議で美しい景色だけ……。


 突然チートスキルが覚醒してモンスターを無双! クソみたいな会社を退職して伝説の冒険者に?! なんていう野望は打ち砕かれたわけだ。


 そんなダンジョンに目をつけたのがアニメやゲームなどの業界だった。


 ダンジョンの美しい景色を大規模イベントの会場やコスプレイヤーの聖地として利用したのだ。


 特に東京に出現したダンジョンにある、全面が青いクリスタルで埋め尽くされた洞窟は異次元の美しさで、コスプレイヤーの中で話題になった。


 撮影をしなくても、そこにいるだけで夢が叶ったような気がして幸せだった……そんなダンジョンの1周年記念イベントが、本日開催される。

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