第17話 約束

――レベルが上がりました――

――スキル 斬撃を取得します――


 黒蛙の巨体が動かなくなり、横たわった頭から順にさらさらと崩れていく。


 まだ、物足りない。


 あんなに逃げ出したかったはずなのに、今はこの戦いが終わるのが残念でならない。体内が煮え滾るように熱く、荒い呼吸で肩が上下する。


 落ち着け、冷静になれ、戦いはもう終わったんだ――


 身体の震えを止めるために剣を握ったまま自分自身を強く抱きしめる。こだわって作った剣の装飾部分が、ガタガタと震える腕に鈍い痛みを与える。冷静になろうとすればするほど、抗うように心臓が熱くなる。


 絶対に生きて帰るって約束したんだ、止まってくれ――


 震えが止まらない。立つこともままならずその場にうずくまるが、全身を包む異常な熱が消えてくれない。自分の身体が自分のものじゃなくなるような得体のしれない恐怖が押し寄せてくる。


 いつまで耐えればいいんだ――


 身体を小さく折りたたみ、暗い洞窟の真ん中で耐え続ける。どのくらいの時間が経ったのか分からないが治まる気配がない。


「誰か、助けて――」


 ぽつりと呟いた瞬間、身体がふわっと温かくなり、さっきまでの熱さが消えていく。この感じあの時の――


「レイさん、聞こえますか?! こっちを見てください!」

 

 聖来が柔らかな手で頬に触れながら、涙でぐちゃぐちゃになった顔で覗き込んでくる。恐怖に押しつぶされそうになっていた心が軽くなる。


「2人とも、どうしてここに……」

 

 聖来の後ろには心配そうな顔の光が立っているのが見える。2人とも洞窟の外にいたんじゃないのか……? 


「入口で怪我をした人に会って聖来が応急処置をしたの。それでね、この人達みたいにレイも怪我してたらどうしようって思ったら、居てもたってもいられなくなって、気が付いたら2人で洞窟の中に入ってたんだよ」


「そしたらレイさんが地面にうずくまってて……私、どうしようかと……」


「心配かけてごめん、もう大丈夫。それにフロアボスも倒したしな!」


 目を真っ赤にしている2人に笑いかけると、ほんの少しだけ空気が軽くなる。

 

 2人が入ってきたのがフロアボスを倒した後で本当に良かった。あの時の精神状態で2人を守りながら戦える気がしないしな……。


 フロアボスが消えた後も漂い続ける生臭い匂いのせいで気分が悪くなる。一刻も早くこの場を立ち去りたい。


 ふらつきながらも何とか歩き出すが、足元の何かに躓いて転びそうになる。


 っと、危ない……そういえばドロップアイテムのことを忘れてたな――

 

 拾い上げてみると、黒蛙を彷彿させるような黒々とした石であることが分かる。片手に収まるほどの大きさだが、そこら辺に落ちている石よりの何倍も重量があるように感じる。


「何か分からないけど凄そうだね。まぁドロップアイテムは後で施設の人に見てもらうとして……とりあえず帰ろう~」


 歩き始めるが足に上手く力が入らずよろけてしまい2人に腕を支えられる。両側から密着されて気恥ずかしさから顔が赤くなる。


「なに~? 照れてんの?」

「別に、これくらい何ともない、し」


 光に揶揄われて反対側を向くと、同じように顔を真っ赤にした聖来と目が合い、咄嗟に視線を逸らす。


「は、早く行きましょう……! みんな心配してますよ!」


 聖来に腕を引かれながら慎重に洞窟を出ると、白沢さんと帰還者達が入口で待機していた。3人組の姿が無いのは治療のために先に施設に戻ったからだろうか。


「あぁ……良かった……私、黒田さんなら助けに行ってくれるって分かってて、あんなこと言ったから……」


 この短時間に様々な葛藤があったのだろう、かつての仲間を失った洞窟の前で待機していた白沢さんの顔は別人の様にやつれていた。


 俺達が戻ってくるまで、他の帰還者の安全も考えながら、ずっとここで待っててくれたんだな。


「白沢さんの言葉のおかげであの3人を助けることができたんです。自分を責めないでください」


「それに……俺、約束は守るタイプなんですよ――」


 腰に手を当てながら大げさに胸を張っておどけてみせると、白沢さんがいつものように穏やかな表情で少し困ったように微笑む。


「ははっ、本当に黒田さんは強い人ですね」


「生きて帰ってきてくれてありがとうございます――」

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社蓄コスプレイヤー、勇者の剣を自作したら最強になりました~コスプレイヤーの聖地になったダンジョンが本気を出した結果、戦えるのは俺だけ?!~ そでまる @rena1216

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