第15話 変化
「私達も一緒に行きます!」
「そうよ、戦えるのはレイだけじゃないんだからね。1人で勝手にいなくならないでよ」
急いで森へ向かっていると後ろから聖来と光が追いかけてくる。2人とも帰還者としてそれ相応の覚悟を決めているように見える。
「いや、今回は俺だけで行くよ。巨大スライムを倒した時のこと覚えてるだろ? 危険度1ならどうにでもなるよ」
帰還者としての責任感もあるが、こんな俺と仲良くしてくれる2人を絶対に危険な目に合わせたくない。
走るスピードを徐々に上げていく。スキルによって強化された速度に2人が付いてこられるわけもなく、徐々に距離が広がっていく。
「っはぁ、せめてこれだけでも……!」
聖来の言葉と同時に全身が温かい空気に包まれ、先程までの疲労感や痛みが和らぐ。
これが聖来の――スキルには本人の性格や特性が反映されるという説は本当かもしれないな。俺にはこんなに優しいスキルを使える気がしない。
森の中を全速力で駆け抜けるとあっという間に洞窟に辿り着いた。
入り口を抜けて薄暗い道を壁伝いに進む。湿った冷気と点在する深い水溜りに足を取られて、一気に体温が奪われる。
「いくら何でも寒すぎる。ここだけ別世界みたいだ」
暖かい草原との温度差が激しすぎて余計に寒く感じているのかもしれないが、ダンジョンの環境は謎が多すぎる。
「くそっ! 効いてんのか?!」
そんな事を考えながら慎重に奥へ進んでいると、遠くから男の怒号が聞こえてくる。
おそらく、3人のうちの1人だろうな……急いで向かいたいが、足元が悪くて上手く走ることができないのが非常にもどかしい。
脛まで浸かる程の水溜りに苦労しながら何とか進むと、狭い道と対比するような広いフロアの中央で戦う3人組が見えてくる。
「ひとまず全員無事で良かった……。って、もしかしてあれがフロアボスか? できれば触りたくない見た目だな」
3人の奥には、体長3、4メートル程の黒く細長い生物が器用に体をくねらせながら移動している姿が見える。移動した後には糸を引くようにテカテカとした痕が残っており気味が悪い。ナメクジやミミズの仲間ってところだな……。
「もうっ、いつまで攻撃したらいいのよ!」
手前にいた女が手のひらをボスに向けた瞬間、小さな石のような物体が勢いよく放たれボスの胴体に直撃する。
少しずつでも確実にダメージが蓄積されているのか、ボスは細長い体をとぐろの様に巻いて守りの体勢になる。反撃もしてこないようだが、遠距離から攻撃すればそんなに危険はないのか……?
「おーい! 手伝おうか?」
「またアンタかよ……ふざけるな、最後だけ戦って報酬をもらおうって魂胆か?!」
はぁ、この人達のことは心配するだけ損かもしれない……。まぁ確かに、床を這うだけみたいだし、3人でも大丈夫かもしれないな。
「はいはい……でも油断はするなよ! 何人も死んでるんだからな」
「死んだって言っても一般人だろ? スキルで遠くから攻撃してれば何の問題も無いさ」
そういう油断が命取りなんだよ……。呆れて今すぐに帰りたくなるが、カッコつけてきた手前、大人しく戻るのも恥ずかしいので少し離れた場所から見守ることにする。
「んー動かなくなって5分は経ったが……死んだわけではないんだよな?」
今までの経験上、死んだモンスターは塵のみたいに消えるしな。
あれから何度か同じ様に攻撃をしているが状況に変化はなく、遠くから攻撃していた3人はしびれを切らしてボスに慎重に近づいていく。
「見れば見るほどグロテスクだな」
黒く細長い胴体、滴り落ちるぬるぬるとした体液、とぐろの隙間から微かに見える――
「え、指……?」
少し離れた場所から見ないと分からない側面にある隙間から、微かに吸盤のついた指先が見えている。さっきまでこんなのあったか?
「待て、3人とも近づくな――」
口を開くと同時に、一番近くにいた男がボスの体に手を伸ばす。その瞬間、勢いよくとぐろの隙間から出た緑色の物体が男の体に巻き付き、壁の端までいとも簡単に投げ飛ばした。
「きゃぁぁぁあ!!」
女の悲鳴に反応するようにボスがとぐろを解くと全身が露わになる。一回り大きくなった体からは、まるでカエルのように発達した足が生えており、先程とは比べ物にならないほど俊敏な動きで飛び跳ねる。
「2人とも一旦離れろ!」
何が起きたか理解できずその場に立ち尽くす2人に声をかける。急いで壁に打ち付けられた男に近づくと、頭から出血しており意識がない。
「脈はあるが、これは時間の問題だな」
俺が回復のスキルを覚えていれば……そんな思いが頭をよぎる。男を抱えて逃げられるか? いや、俺が戦っている間に3人で脱出してもらうのが最善か?
「2人とも!! この人を連れて脱出できるか?!」
近くで仲間がやられる瞬間を見たショックで震えながらも頷いて答えてくれる。
「危険度1とか何かの間違いだろ」
縦横無尽に飛び回るボスの瞳からは明確な殺気を感じる――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます