第11話 出発
誰の部屋だ? そっと扉に触れてみると、金属のようにひんやりとした冷たさが手に伝わる。
いくら眺めても部屋番号すら書かれていない扉から得られるものは何もない。一応、端末の資料にも目を通してみるが何の成果も得られなかった。
「なんだか不気味だな。後で白沢さんに聞いてみよう」
考えれば考える程に、根拠のない悪い想像が頭に浮かぶ。本気で怖くなってきた、よし一旦忘れよう。
ぶるっと体を震わせながら自室の扉を開けると、慣れ親しんだ匂いに全身が包まれる。
「ふぅ、落ち着く〜。思ったより再現度が高いな」
慣れない環境でのストレスを軽減するために、自宅を再現した部屋を用意すると事前に説明があったが、ここまでとは……。ゆっくり深呼吸すると先程までのネガティブな気持ちが消えていく。
「すごい、こんな物まであるのか」
コップや歯ブラシまで運び込まれている事に驚きながら呟く。ベッドや棚まであるがどうやって地下まで運んだのだろうか。
そのままベッドに倒れこむと、1日の疲れがどっと押し寄せてきて体が重くなる。お腹も減ったが今日はもう動きたくない。全身の倦怠感に身を任せて目を閉じると、すぐに意識を失った。
「ん……もう朝か。くっ止めてくれ……眩しすぎる」
強烈な光が直撃してなかなか目を開けることができない。おそらくベッド脇に置かれたランプのせいだろう。地下でも生活リズムが崩れないように日光を再現したと資料に書いていた気がするが、流石に眩しすぎるので少し離れた机の上に移動してさせる。
「ふぁぁ眠たすぎる……あと10時間は寝れるな」
眠たい目をこすりながら着替えや朝食を済ませる。食堂に行かなくても電話一本で部屋まで運んでくれるのはありがたい。
「そろそろ行かないとな」
時刻を確認すると集合時間まであと10分しかない。まさか初日からダンジョンに行くことはないと思うが、一応勇者の剣も持っていくことにする。
急いでトレーニングルームに向かうと、既に到着していた光と聖来が近づいてくる。
「おはよー! レイ、遅いよ!!」
「おはようございます。 ついに始まりますね」
「おはよう……2人とも朝から元気だな、俺なんてまだ半分寝てるよ」
光の元気な声が頭にガンガン響く、もう少しテンションを抑えて欲しい……。あくびが止まらない俺を見て聖来がくすくす笑っている。
「おはようございます。昨日はよく眠れましたか? 本日から訓練が始まりますので気を引き締めていきましょう!」
白沢さんも初日で気合が入っているのか、いつもより声が大きい気がする。
「本日の訓練内容についてですが、皆さんには早速ダンジョンに行ってもらいます。モンスターを倒してレベルを上げないことには、スキルも手に入りませんからね」
初日からダンジョンとはフラグが回収されたな。3か月前にスライムと戦闘してから一度も足を踏み入れていない未知の場所。どんな冒険が待っているのか考えるだけで眠気なんて一気に吹っ飛んでいく。
残酷な光景より先に、フロアボスを倒した時の歓声がフラッシュバックするのは俺が薄情だからだろうか――
「まずはここから北に少し行った場所にある危険度1のダンジョンに向かいます。資料にも記載がありますが、ここのフロアボスは森林の奥にある洞窟に入らない限り襲ってくることはありません。決して洞窟には近づかないようにお願いします」
説明があったフロアボスの出現条件のうちの1つか……。出現モンスターの欄には狼や猪のようなモンスターの説明が少し書かれているが、ほとんどの項目が不明になっている。
「危険度は1ですが、3か月前には多数の怪我人や死者が出ています。通常とは異なるモンスターの出現など少しでも異変を感じた場合はすぐに撤退してください。本当は基本的な訓練から始めたかったのですが、時間があまりないんです」
白沢さんが申し訳なさそうに微笑む。安心させようと無理に作ったぎこちない笑顔が不安を煽る。
「それでは皆さん、検討を祈ります――」
合図と共に全員が地上に向かって歩き始める。
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