第10話 説明

「続きまして、白沢から今後の生活について説明がありますので、帰還者の皆様はこのままお待ちください」

 

 司会者からアナウンスがあり全員がその場に待機しているとスタッフからスマートフォン型の端末が配られる。ちょうど全員に配り終わるころに白沢さんが壇上に上がり説明を始めた。


「お待たせしました。今後、皆さんの生活をサポートさせて頂く白沢と申します。まぁ簡単に言えば担任の先生みたいな存在ですね」

 

 白沢さんの穏やかな声と表情に張り詰めていた会場の空気が柔らかくなる。新しい暮らしに不安だったけど白沢さんがサポートしてくれるなら安心だな。


「まず、事前の説明にもあったと思いますが、皆さんにはこの施設で生活しながら悲惨な未来を変えるためにダンジョンについての調査をしてもらいます。それぞれの部屋番号についてはお配りした端末に資料がありますので、各自でご確認ください」


 端末を起動して資料を確認すると、部屋番号の他にも名簿や各フロアの説明、調査の日程などが丁寧に書かれている。名簿によると部隊に所属している帰還者は全部で30人で、基本的に週3日はダンジョンで調査、2日はこの施設で訓練、2日は休みというスケジュールで行動するらしい。


「皆さん、右下にある赤いアイコンをタップしてもらっていいですか? こちらには各ダンジョンの位置や危険度などを表示しております。危険度についてはこちらで3か月前の被害人数やフロアボスの情報から5段階でランク付けしておりますので、参考にしてもらえたらと思います」


 被害人数や発見されたモンスターまで地図上に分かりやすく記載されている。全滅したダンジョンもあるんだな……。


 俺が倒した巨大スライムのダンジョンは……危険度1か。フロアボス以外のスライムは無害だったし妥当なんだろうか? まぁこの危険度にどれくらいの信憑性があるか分からないし、あまり鵜呑みにしないほうがいいだろうな。


「フロアボスの出現方法についてはモンスター討伐数、特殊な場所への到達の2パターンが確認されています。しかし、日本にあるダンジョンのうち3か月前に出現条件を満たしたのはたった3カ所のみ、検証数が増えないとパターン化も難しいのが現状です……」


 たった3カ所ということはフロアボスが出現してないのにこの被害人数なのか……? てっきりどのダンジョンもフロアボスによる被害が大半だと思っていた。大量のモンスターに蹂躙される人々を想像するだけで全身に冷や汗が滲んでくる。


「まぁ、一刻も早く調査を進めたいところですが、長時間の移動で疲れている方もいらっしゃるでしょうし焦っても危険ですから、本日は自室でゆっくり休んでください。訓練は明日からということで、朝9時にトレーニングルームに集合でお願いします」


 白沢さんの説明が終わると、整列していた人たちは端末で自室の場所を確認しながら散らばっていく。俺達のように元から知り合いなのかここで仲良くなったのか分からないが、数人で話しながら出ていく人達もいる。


「「いぇーい!」」


 アカリとティシアは隣同士だったらしくお互いの部屋番号を見せ合いながら嬉しそうに飛び跳ねている。


「俺は……かなり奥のほうだな。男女で分かれているから2人とはホールを挟んで反対側だ」


「そっかぁ……残念……」


 ついさっきまでハイテンションだったアカリが大げさに項垂れてみせる。


「あっそういえば、コスプレもしてないんだしお互い本名で呼ぶことにしませんか? ずっとティシアって呼ばれるのも違和感があって……。私は都築 聖来(つづき せいら)っていいます。聖来って呼んでくれたらうれしいです!」


 ティシアが思い出したように提案してくる。確かにティシアの時の印象が強すぎて忘れてたけど、一人だけキャラクターの名前ってのも変だな。


「そうだな。これから一緒にダンジョンを攻略する仲間でもあるしな。ちなみに俺はレイが本名だからそのまま呼んでくれて大丈夫だ」


「えっ?! レイさんってキャラクターの名前じゃないんですか?! イベントに本名で参加するとか絶対危ないので止めたほうがいいですよ!! 住所特定とかされたらどうするんですか?!」


 いつもは大人しくて優しい聖来に捲し立てられてうろたえてしまう。


「うっ、何も知らないままイベントに参加し始めてそのままズルズルと本名のままで……でも、アカリも本名だよな?!」


 コスプレ界隈では身バレ防止や安全のために、コスネームでイベントに参加するのが普通らしい。別に本名でもいいかな~くらいの気持ちで参加してたが危なかったんだな……。あまりの勢いにアカリに助けを求める。


「え? 本名なわけないじゃん! 安藤 光(アンドウ ヒカリ)だからアカリだよ~。まぁアカリって呼ばれるのに慣れているし、そのまま呼んでくれてもいいけどね!」


 嘘だろ……ずっと本名だと思ってた。衝撃の事実にうろたえている俺を見て聖来と光が馬鹿にした表情で見てくる。


「そんな目で見ないでくれ……自分の無知が恥ずかしい。と、とりあえず自室に向かうぞ!」


 2対1では勝ち目がないので少々強引に話を終わらせて、とりあえず自室へ逃げることにする。これからコスプレを始める人にはイベント前にはしっかり下調べすることをお勧めする。


 ホームまで戻り、2人とは分かれて廊下をしばらく進むと遠くに自室が見えてきた。廊下にはホテルのように一定の間隔で扉が設置されており、中央に部屋番号が書かれている。扉に設置されている装置に手をかざすとロックが解除される仕組みみたいだ。


「隣の人とも仲良くなれたらいいな。何年ここにいるのかも分からないしな……」


 廊下を進みながらぼんやりと考えていると、自室の奥に明らかに他とは違う厳重な扉で閉ざされた部屋が見えてくる。


――なんだあれは?

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