第12話 開始
「全く気付かなかった、こんな所にもダンジョンがあったなんて……」
地上に出て徒歩30分、施設に向かう道中にある山道から脇道に少し入った場所に、空間が切り取られたように青く光るダンジョンの入り口があった。
コスプレイヤーに人気のダンジョンしか知らなかったが、無名な場所や発見されていない場所を含めるとダンジョンは数えきれないくらいあるのかもしれない。
「ははは、車の中でご紹介はしたんですが、黒田さんはそれどころじゃなかったですもんね」
「もう忘れてください……」
白沢さんが笑いながら話しかけてくるが、全く笑い事ではない。今でも昨日のドライブを思い出すだけで気持ち悪さがこみあげてくる。
「あ、そういえば、このダンジョンでも多数の被害が出たって言ってましたけど、こんな山奥でも何かイベントがやってたんですか?」
「いえ、イベントは何も……」
「それならどうして」
言いづらそうに言葉を詰まらせる白沢さんに純粋な疑問を投げかける。正直、こんな山奥のダンジョンに人が集まるとは思えない。SNSで話題になった場所って訳でもなさそうだしな。
「……そうですね。昨日は3か月前と言いましたが、正確には被害が出たのはその直後なんです。前にも話したと思いますが、私達ダンジョン対策部隊は3か月前の事件の後すぐに結成されました。そして、結成されて初めての任務が施設を建築するために、このダンジョンを調査することだったんです。」
数秒の沈黙の後、白沢さんは覚悟を決めたように話し始めた。なるほど、だからこんな場所にあるのにモンスターの情報が分かっていたのか……
それにフロアボスの情報だって――
一瞬、嫌な予感が頭をよぎる。
「フロアボスの部屋で大勢の職員が命を落としたんです」
喉から絞り出すような声でぽつりと呟く。
「黒田さんが羨ましいです――」
ダンジョンを真っすぐに見つめる瞳には深い悲しみが映し出されているようで、呟かれた言葉の真意を聞くことはできなかった。
「はぁ……まぁ結果としてフロアボスの出現条件が分かっている数少ないダンジョンになったんですがね」
全く知らなかったとはいえ軽い気持ちで質問したことを後悔する。大勢の犠牲によって得られたフロアボスの情報、白沢さんの為にも決して無駄にしてはいけないな。
「さぁ、皆さん安全第一で行きましょう!」
いつも通りの穏やかな笑顔に戻り全員に呼びかけると、その声を合図に俺達はダンジョンの中へ入っていった。
入口を抜けると暖かい空気に全身が包まれる。目の前に広がる草原にはまばらに木や岩が設置されており、柔らかい芝生の上に敷かれた石畳が森の奥まで続いている。
先程の話を聞いた後だからかもしれないが、後方から吹き続ける乾いた風がまるで奥にある何かに誘導しているようで気味が悪い。
「おっ、思ったより広くて戦いやすそうだね! どんなスキルが手に入るのかワクワクが止まらないよ~」
「光さん、声が大きいです。モンスターに気付かれたらどうするんですか!」
やる気に満ち溢れた光に続いて、聖来も不安そうにダンジョンに入ってくる。対照的な2人だな。
「ごめんごめん。よし、まずは3人でパーティ登録しておかない?」
聖来に怒られて懲りたのか、ひそひそ声で話しかけてくる。
それよりパーティ登録って言ったか? ゲームでは定番だがそんな機能があるのか?
「あの……パーティ登録なんてできる、の?」
「レイさんは何も聞いていないんですか? 施設に行く途中に色々説明があったと思いますけど」
またか……信じたくはないが、俺が車酔いで死にかけている時に大事な説明が一通り行われたらしい。よし、聖来にもう一度説明をしてもらおう、それしかない。
「大変申し訳ないんですが、俺にも車の中での説明を聞かせてください……」
俺の三半規管が弱いばっかりに迷惑をかけてごめんなさい……。次からはしっかりと酔い止めを飲むようにします。
「しょうがないですね。まずパーティは4人まで登録可能、モンスターを倒した時の経験値は全員に分配されます。分配の割合は与えたダメージか貢献度順なのかよく分かりませんが……。あと、ドロップアイテムを施設に持って帰ったらお金に換えてもらえるそうですよ」
「更に、フロアボスの討伐者には特別報酬として多額の賞金が!! 危険度によって変わるけど、危険度1でも当分生活に困らないくらいは貰えるみたいだよ」
うわぁ、知らない情報が次から次へと出てくる。こんな大事な話を車の中でするなよ……。もしかしてスライムの討伐報酬も貰えるのだろうか。
「じゃあ、レイも賢くなったことだしパーティの申請を送るね!」
光がステータスを表示して空中で何か操作をし始める。
「送ったよ、レイもステータスウィンドウを表示してみて~」
――――――――――――――――
黒田 怜(くろだ れい) Lv 2
装備 :勇者の剣
スキル : 身体強化
アンドウ ヒカリさんより申請が来ています。許可しますか?
はい/いいえ
――――――――――――――――
ウィンドウを表示すると申請のメッセージが届いており、はい、を押すとスキルの下にパーティメンバーが表示された。
聖来とも同じ要領で登録を行う。これで準備万端だな。
周りでも帰還者のほとんどがパーティ登録をしており、一様に空中を指でタップしているのが見える。
「よし、行こう――」
2人が準備できたのを確認し、モンスターがいる場所へと向かう。念のため身体強化のスキルを発動し、背中の剣も抜いておく。
巨大スライムと戦った時には少し走っただけで息が切れたが、今は全身が羽のように軽い。
一歩踏み込む度にスピードが上がり、気持ちが昂る。
高まる鼓動に呼応するように、勇者の剣が一層強く輝いた気がした――
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