第3話 出現

「なぁ、これって演出なんだよな? どうして司会者まで驚いてるんだ……?」


 当たり前の疑問を投げかけるが、アカリは青白い顔でステージを見つめたまま何も答えない。


 うるさく鳴り続ける拍手の音が不気味に感じる。


「……大丈夫か?」


「……あ、うん、ごめん。びっくりしちゃって……へへっ」


 心配させないように無理に笑顔を作るアカリは今にも泣き出しそうで守ってあげたくなる。


「そうか、良かった……」


 本物の勇者レイなら気の利くセリフで安心させることもできたのだろうが、同じ衣装を着ても所詮俺は偽物、素っ気なく答えることしかできなかった。


 会社にいる時の癖で何かあるとすぐに自己嫌悪してしまい、そんな自分が更に情けなくて自己嫌悪する……直さないとな。


 そんなことをぐるぐると考えていると、遠くから女性の叫び声が聞こえた。


 ――全員の視線が一斉に向けられる。


 女性の足に薄緑色の半透明な物体が絡み付いているのが見える。


 え、あれってどう見てもスライムだよな?


 近くにいた騎士衣装の男性が自前の大剣で何度か叩くと、辺りに粘性のある液体が飛び散り、小さな石だけが残った。


「ねぇ……これってドロップアイテムってやつじゃない?!」


「ついに俺たちの冒険が始まるのか?!」


「もしかしてスキルとかも使えたり….」


「うおおおお!!!!!!!」


 有名コスプレイヤーが登場した時とは比にならない程の歓声が上がり、空気が震える。


 この場にいるコスプレイヤーの大多数がゲームの世界に入りたいと思った事があるのだろう。


 興奮で手の震えが止まらない、ずっと憧れていた世界が目の前にある。


 ゲームといえばステータスとか見れたりしないかな。


 期待を込めて身体のいたるところを触ってみるが反応は無し、次は空中で手をスライドさせてみる。


――空中にウィンドウが表示される


――――――――――――――――

黒田 怜(くろだ れい) Lv1


装備 :勇者の剣

スキル : 無し

――――――――――――――――


 思ったよりシンプルな表示に拍子抜けするが、装備欄に書かれた文字を見た瞬間に心臓が跳ね上がる。


 装備にある勇者の剣……これってもしかして俺が作った剣のことか?!


「コスプレの剣でも装備判定になるんだな……アカリはステータス画面に何か表示されたか?」


 ステータス画面は自分にしか見えないらしく、俺から見るとアカリの目の前には何も表示されていない。


「んー名前とレベルくらいかな、装備もスキルも何も書かれてないよ」


「手に持ってる杖は装備欄に表示されてないのか?」


「そうだね〜これはただの小道具だからかな? それに実際に戦えるような物じゃないし……」


「そうか……」


 じゃあ、どうして勇者の剣は表示されているんだ…? 確かに他の人とは比べ物にならないくらい時間をかけて作ったけど、それが理由な訳ないし、まさか――


「おーい、レイ! 私達も早くスライム狩りに行こうよー!」


 自分の世界に入って考えを巡らせていると、アカリに腕を引っ張られてハッとする。


 辺りでは既に多くの人が嬉々としてスライムを狩っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る