第7話 今更必死になってどうするの

 レイスの魂の大量買取により、医療関係の技術が大幅に進んでいた。

 レイスの魂を気化させ、患者に吸引させることで仮死状態を作りだし、安全な麻酔として活用されるようになった。

 

 更にレイスによって仮死状態になった影響か、外科手術を行う際に血が流れることがなくなり、輸血の需要が大幅に減少した。先進国での輸血事情は改善され、B型の血液が逼迫してますという車を見かけることはなくなった。

 さらに大量のレイスの魂を凝縮し、液体に変えると、悪性の腫瘍を撃退することが確認され、ガン治療に劇的な効果を示した。

 こうした魂系のアイテムは需要が高くなり、ここ半年で相場は10倍にも膨れ上がった。しかしレイスを安定して狩るには難易度が高かった。レイスは物理無効であり、高火力の魔法が必要になるからだ。そして同時に魔法のロッドや属性付きの剣などの需要もあがっていった。


 そして半年続いていた大量のレイスの魂の供給が大幅に減少した。納入していた新庄誠からの供給が途絶えたのだ。彼以外からの供給は続いているため未だにレイスは出現していることは間違いない


「おかしい、ここ半年で収入のほとんどすべてをこちらに落としていた上客、何故かR雷の装備でレイスを狩り続けていたのに、他に狩場を見つけた?ギャンブルに飽きた?そんな訳がない、あれは完全にギャンブル依存症の目をしていた。仮に他に狩場を探すとしても貴重な収入源であるレイスを狩らないはずはない」


 赤い髪の女、後藤舞ごとうまいは焦っていた。彼の今までの功績はすべて彼女の報告から始まったもの。役職もあがり、充分な給料も受け取っていた。現地捜査員となりダンジョン受付という職務から解放されたのに、このままでは職場を変えられてしまう。


 事の真相を確かめるために彼女はダンジョンアミューズメントパークへと向かった。






 装備の喪失という最悪の展開を避けるため、俺はダンジョンの攻略を再開した。

 この半年で出たガチャのアイテムは、装備品を含めてほとんどタラーへと変換していた。なので消耗品であるポーションは確保しているが、現状武器や防具はない。完全に慢心していた。

 手元にあるのはR錆びた剣だけだ。これは記念と戒めにとってある。いい話にだまされるな!!詐欺だぞそれは!


 普通に考えれば店売りされている装備品が補充されていることを考えれば分かることだが、SSR装備が出たことによる万能感、神と出会ったことで自分の幸運はこのまま続くと思ってしまった。


 神の排出確率のミス以降、ろくなアイテムが出ないガチャには頼れない。店売りされている装備品は軒並みR、SRはたまにしか流れてこない上に高い。昨日も元気にカジノに納金してしまったためまとまったお金が手元にない。


 俺は装備品のドロップを探しにダンジョンへと潜ることにした。

 1層にはスライムの剣がドロップすることを確認しているためスルー確定、それ以降の階層もSSR雷の剣でたやすく倒せるモンスターが多いので大した装備もドロップしないだろうと10層以降を目指すため8層へとワープゲートを使って転移した。


 9層の相手は俺の攻撃が2発で倒せるくらいには強くなったので、もう少し潜ることにした。10層に降りると、溶岩が広がる火山が噴火しているような熱い地層に遭遇した。


「あっちいなぁ、水の装備でもあれば涼しいだろうけど、ガチャで出たとき持っておけばよかったな」


 SR水の鎧を売ってしまったことを後悔しつつ、10層を見回ってモンスターを探す。レッドリザードマンとでもいうのか、大きな赤い色をしたトカゲ人間が目についた。剣と盾、それに革製の鎧を装備しているのでこれは当たりかと思い接敵する。


 こちらに気づいたリザードマンが襲ってくるがSSR雷の盾を使って防いで攻撃する。やはり一撃で倒すことは出来ず、反撃も食らってしまう。さすがに装備は壊れなかったが一抹の不安を覚えつつ戦闘を継続する。まともな戦闘は半年ぶりだったので勘も鈍っていただろうか、華麗な剣技を繰り出すリザードマンに苦戦してしまう。しかし装備の差は絶大で、リザードマンは倒すことが出来た。しかし出てきたアイテムに俺は落胆してしまう。


 Nリザードマンの肉


 しばらくドロップアイテムで見ていなかったNという文字に驚愕する。まぁ低確率を引くこともあるだろう、レア度が上がれば低レアも出にくいわけだし。苦笑しながらアイテムを拾い、リザードマンを再び見つけて倒していく。久しぶりの戦闘にも慣れてきて順調に倒していくのだがどうもドロップがおかしい。


「ここ10層だよな、なんでこんなにNのドロップが多いんだ?」


 レイスやアンデット系のを倒していた6層ですらRが基本だった。たまにNドロップが出ることももちろんあったがこんな確率で出てくることはなかった。もしかしてUR幸運のネックレスの効果が出ていただけだった…?そして運を使いすぎたせいでネックレスが壊れてしまったのではないか。そんな馬鹿な!!


 しかしそう予測を立てると納得できる部分が多い。おかしいと思ったんだ、SSR装備も揃って全部順調なんて、俺の人生にそんな幸運が続いてあるわけがない。

 しかし今更あのクソみたいな仕事を繰り返す日々には戻れない。俺は意を決して真面目に冒険者になって装備を整えてギャンブルすることを心に決めた。

 手始めにここのリザードマンを狩りまくってやる、それ以降もどんどん潜っていくぞ。


 この日は10層のリザードマンを倒しまくりRのリザードマン装備がドロップすることを確認した。帰りにガチャを回したがろくな結果は出なかった。

 俺はカジノ行くのを我慢して帰宅した。

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