パチンカスだった男、ダンジョンの出現によりダンジョン依存症になる。

蜂谷

第1話 プロローグ

 男がガチャを回す。10連ガチャ最低レアSR保証の通常ガチャだ。


「出ろ出ろ出ろ!これで150連目だぞ!なんで天井ついてねぇんだこれは!」


 男の叫びも虚しく、NとRそして最後に一つSRのアイテムが出る。


「また被りじゃねぇか!排出率どうなってんだよこれ、責任者だせ責任者!」


 男が暴れると黒い服を着た屈強な男たちが裏手から出てくる。そのまま男は黒服の男たちに連れられてバックヤードへと消えていく。別に死にはしないだろうが、何をされているかは知らないほうがいい。


「さて、俺はおとなしくダンジョンに潜るとしますかね」


 それを見ていた冴えない男がゆっくりとダンジョンの入口へと向かう。


「今日はどんなレアドロップちゃんがお目見えしますかねぇ」


 この男も立派なダンジョン中毒者だ。その目は虚ろで、今から命を懸けてダンジョンに潜ろうとしているとは到底思えない装いだった。体格も貧弱、髪はボサボサ、上下スウェットの男はパチンコ店に入るようにダンジョンへと潜っていった。


「まずは小手調べのスライム占いから行きますか」


 スライム占い、この男が勝手に呼ぶそれは、スライムからドロップされるアイテムで今日の運勢を占いというものだ。ドロップのレア度はそれぞれ、N、R、SR、SSR、UR、LRに別れており、モンスターを倒すと出現するアイテムのことを指す。


 1階に設置されている休憩所を抜けてスライムのいる1層に向かう。さっそく一体目を見つけるとアイテムボックスからSSRの剣を取り出しスライムを倒す。ドロップ品はNスライムの核だ、魔石もなし。


「まぁ一発目はこんなもんよ、10体までにはいい結果出てくれよぉ!」


 そう言うと男は全身を限定イベント時のSSR装備にしてスライムを乱獲する。結局出てきたのはNが9つ、Rが1、魔石が小1だ。すべて素材アイテムだったので換金するにも大した値段はつきそうにない。


「今日は外れかな、せめて武器の一つくらい落ちてくれればよかったんだが、まぁそういう日が意外とレアドロップしたりするからな」


 結局のところ男がするスライム占いとは結果など二の次なのだ。いい結果が出れば喜び、悪い結果でもそういう日もあるけど実は、と喜ぶ。要はダンジョンに挑む前の準備運動と捉えてもらっていい。


 男は駆け出す。もっと下の階層へ、未だ目にしたことのないドロップと魔石の為に。






「まずい、囲まれてるわ」


 優菜が剣を構える。隣にはぐったりとした様子の杏、弓を構える和人の姿があった。


「どうする?杏を抱えて逃げるには遠すぎる」

「私が囮になって時間を稼ぐわ」

「でも、それじゃあお前が!」

「大丈夫よ、これくらいの相手ちょっと本気を出せば逃げ切れるわ」


 そういう優菜の足は震えていた。しかしもう現実的に全員生還することは困難を極めることは分かっていた。


「すまん」


 和人がそう言って杏を抱えて一層の階段へと走る。続いてその後ろに優菜が続く。目の前にはゴブリンが迫ってきていた。


「どきなさい!」


 優菜がゴブリンの出鼻をくじく、このR剣は特に特殊な効果はないが、耐久力だけはある。ゴブリンを横へはじくと、先を和人達が走っていく。それを塞ぐように優菜が立ちはだかる。


「さぁどっからでもかかってきなさい!」


 後続から十体近いモンスターが登場し、狭い通路を埋め尽くした。あとは時間を稼ぐだけ、そうすれば二人は助かる、そう思い必死に剣を振るう。しかし3体ほど倒したあたりで横っ腹に思いっきり蹴りを食らってしまう。N防具が壊れる。体にケガするほどの攻撃ではなかったが、装備としての防御力を失ってしまった。

 戦況は悪くなる一方だ。それでもこれだけ時間を稼げば充分か、彼女は満足して剣を下ろす。戸惑ったモンスターたちだが、相手が戦意を失っているのを見るとグヘヘと

下卑た笑いをして襲い掛かろうとする。しかしモンスター達が襲ってくることはなかった。


「なぁこれ倒してもいいか?」


 なぜ襲ってこないのと優菜が不思議に思っていると、不意に後ろから声を掛けられた。


「なぁいいか?いいよな?いいって言ってくれよ」

「…はい、いいです…よ?」

「よっしゃ、あとからナシってのはだめだぜ」


 そういうと男はモンスターの群れに向かって駆け出す。敵は怯えるかのように散り散りに逃げ始めた。


「おいおい!逃げんじゃねぇぞ!!今日のドロップはお前らから始まるんだからなぁ!!!」


 ざくざくと男がモンスターを蹂躙していく。手に持ったSSR雷の剣を使い、遠くまで逃げた敵も、電撃を飛ばし逃さず回収する。


「おっR装備品とはなかなかじゃないか、2層にしては上出来だな」


 上機嫌な男はドロップ品を回収してさらに奥へと進んでいく。


 呆気に取られている優菜が、お礼を言おうと彼の姿を探したがもうそこにもう誰もいなかった。

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