第9話 初めての出会い

 思いあがっていたのだろう。強くなったと。その気の緩みが油断を生んだ。

 今の状況がそれを物語っていた。


 

 今日で最後にしようと10層の探索を進めていた。まだ10層への出口が見つかっていないので移動しながら探す。

 周りは相変わらず小さな噴火を繰り返している火山が、ぽつぽつと存在してる。間欠泉から湧き出た水蒸気や熱湯が溢れだしている、とても高温で温泉みたいにつかることは出来なさそうだし、何よりこんなところで温泉に入っていられるわけがない。


 そんな温泉に浸かる者がいた。レッドリザードマンである。

 気持ちよさそう浸かるモンスターを遠目で見つめる。


「モンスターも入浴するんだなぁ」


 アホみたいな感想が浮かんだ。

 遠距離攻撃手段を持たない、いや実際にはSSR雷の剣を持ってはいるのだが使うつもりはなかったのでそのままリザードマンを無視をする。しかし周囲の警戒を少し怠っていたせいで敵の接近に気づけなかった。


 突然全身に強い衝撃が走る。


「おえっ」


 えづくと共に後方へと飛ばされた。目の前には初めて見るレッドリザードマンがいた。通常の個体より二回りほど大きく、持っている剣はSRレッドリザードマンの剣だ、おそらく盾もSRなのだろう。さしずめキングレッドリザードマンといったところか。


 俺は吹き飛ばされ地に伏した状態から力を入れて立ち上がる。相手の攻撃をまともに食らったのは久しぶりだったうえ、相手が装備しているのはRではなくSRの武器だ。

 俺はRの防具が壊れていないことを確認し、剣を構える。


 自分より小さく貧弱な装備を付けた俺を格下と判断したのか、キングはゆっくりと距離を詰めてくる。俺は舐められたと感じたが、頭は冷静に相手を分析する。


 装備は相手が確実に上、あの巨体だがスピードはどうだ。不意を突かれたから分からなかったが、スピードも上回っていたら負けてしまう。

 逃走も視野に入れて攻撃を仕掛ける。軽くフェイントを入れて右から切りつける、ガキンとあっさり盾で防がれてしまう。武器だけはSRなので当たり負けはしない。

 しかしそれに合わせるように反撃してきたキングの攻撃をこちらはいなしきれなかった。強い攻撃が盾にあたると体勢が崩れる。そのまま相手の連続攻撃を受け縮こまるように防御を固める。ガンガンと殴るってくる相手に、なすすべなく防戦一方となる。


 つえぇ!!装備の防御力も低いし、このまま攻撃受け続けていたら装備が壊れてしまう!それだけは嫌だ。


 まずいと思ったのでSSR装備に切り替えようとアイテムボックスを開いて装備しようとするが、奥にしまった上に相手の攻撃が苛烈でその隙が出来ない。


 俺はどうすればいいと焦っていた。その時、遠くから声が聞こえた。


「ウォーターボール!」


 キングレッドリザードマンは水の塊に飛ばされて、その場に倒れる。冷たい水によって急激な体温変化が起こり動きも止まっていた。

 その隙を逃さず、SSR雷の剣を装備して相手に向かって攻撃する。数発殴るとキングを倒れた。


「大丈夫ですか?」


 魔法を放ってくれてくれた人が駆け寄ってくる。


「助かりました。ありがとうございます」


 俺は助かったと思ったのと同時に、アイテムドロップこの場合どうなるんだろうとのんきに考えていた。


「いえ、冒険者は助け合いですから」


 どこかで見たような赤い髪をした女性は、魔法のステッキのようなものを持ち、腰にはナイフを帯刀している。この階層に来るには俺と同じくらいの軽装をしている。ここは熱いので金属の鎧や熱がこもるような装備はあまりよくない。


「あ、ドロップ!!SRキングレッドリザードマンの盾じゃん!!!すげぇ!」


 助けてもらってなんだが、羨ましい。SR出るとかあああああああああああああああああ

 俺も豪運もどしてぇえええええええ


「勝手に横殴りしちゃいましたけど、これ貰ってもいいですか?」

「……はい、助かりましたし、権利はあなたにあるので……どうぞ」


 俺は断腸の思いでドロップの所有権を諦めた。そもそも所有権は相手にあるのだが、勝手にとられたとごねるのはさすがに恥ずかしくてやめた。


「それでは」


 彼女に挨拶をして10層の出口を探す。


「あの、よかったら一緒に探索しませんか?」

「え?」


 思わぬ彼女の提案に俺は驚く。


「あのモンスターがまた現れないかも分かりませんし、私も一人だと対応できるかわからないので、お願いできますか?」


 美人から上目遣いから言われる。これを断る男などいるのだろうか、いやいない。女っ気もない生活をしていた俺は二つ返事で了解し、一緒に探索することにした。

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