第10話 まぬけ
(レイスを苦にしない男があの程度の相手に苦戦?おかしいわね、装備も普通だし…)
舞はそのあまりに貧弱な装備に新庄誠の資質を疑っていた。いや正確には計りかねていた。
レイスは物理攻撃無効、実際には物理攻撃低減(極)なのだが。
それを相手にしていた雷の装備をしていない。先ほど取り出した剣を見るに失ったわけではなさそうだ。
それに6層はレイスだけではない。アンデット系が闊歩している。
5層を終えた冒険者が一度ぶち当たる壁になっている。魔法だけでも物理だけでもだめなのだ。人間と同じように剣術を使ってくるスケルトンの存在も侮れない。
(レイス狩りに飽きたのかしら、いやギャンブル好きならSSRドロップもそれに付随する巨額な金も手放すはずがない。そもそもどうやって大量のSSRドロップをしていたかも掴めていないのに)
彼がSSRレイスの魂を大量に納品するようになって一か月ほど、監査団が送られ、狩りの様子を観測したが、目立った行動は見受けられなかった。R雷の剣から雷撃を繰り出しレイスを倒していく。神に愛されているのか、彼が倒すレイスはほとんどSSRドロップアイテムだった。問い詰めて最悪他のダンジョンに行かれても困るので詰問することはなかったが、結局卸してくれるならいいと結論づけられて監査は打ち切られた。
(あの時キチンと調べていればこんなことにはならなかったのに、仕方ない。私がバレないようにそれとなく探ってみましょう)
舞は隣にいる新庄に笑顔を向けながら他愛のない話を続ける。どこで、どうやって聞き出そうか、そのことで頭をいっぱいにしながら。
10層を舞と誠が周囲を警戒しながら歩く。さすがに二人いれば先ほどのような不意打ちを食らうことはないし、前衛と後衛がいることで戦略的にも幅が生まれる。ソロよりも安全になったことで二人の会話も弾む。
「まだ名乗っていませんでしたね、私、後藤舞といいます。普段はほかのダンジョンで冒険者をしています」
「新庄誠です、しがない冒険者やってます」
自己紹介がまだだったなと思い、舞から話しかける。
誠はしがない冒険者と自称するが、その収益だけならもうトップ層と遜色ない。ただ儲けたお金をタラーに変換しているため、現金での収益はサラリーマンが生活できる程度だが。それでも冒険者として生計を立てていられるだけで充分強いことになる。
「他のダンジョンを冒険してるなら、今回はどうしてこのダンジョンへ?」
「ガチャがあるダンジョンとして一度はいってみたくて」
「それでですか、ここの魔石じゃないとガチャ出来ないですからね、でも強いですね10層をソロなんて」
SSR装備の力に頼っていた誠とは違い、舞の装備するアイテムはRのほうが多い。
SR鋼のロッド、SR水のローブ、SR鉄のナイフくらいなものだ。
「その装備10層のレッドリザードマンの装備ですよね、ソロならもう少し上の階層のほうが安全じゃないですか?」
「そうですね…」
実は誠の体は非常に丈夫に強くなっている。なので10層同等の装備でも充分に戦うことが出来る。半年間レイスを倒し続けたことでダンジョン内での体は変質している。そのことに誠は気づいていない。しかし誠の脳内で刺激が足りなくなった事実はある。
舞の問いかけに、実際には稼ぎにしていた敵が出なくなったので仕方なく、と言うのが恥ずかしく、誠はちょっとかっこつけてそのことを隠してかっこいいことを言う。
「ちょっとレイスじゃ刺激が足りなくてね」
「そうですか、でもさっきのはちょっと刺激が強すぎますよね」
「ハハッ、少し危なかったですね。でもなかなかいい刺激でしたよ」
相手から出たレイスというワードに舞が反応する。ここだと思い自然に問いかける。
「レイスといえばレイス魂の相場あがりましたよね、レイス狩りはもうしないんですか?」
「それは……神のみぞ知るってやつですよ」
「髪のみぞ……へぇ、そういうものなんですね」
帰ったら早速検証するよう情報を上げなければと舞は考える。対する誠は10層の出口を見つけ、この美人さんとももうお別れかと少し残念な気分になっていた。誠が問いかける。
「あ、出口がありましたね。今日はもう帰りますか?」
「そうですね、魔石も溜まりましたし、ガチャ体験していこうかと思います」
そう言って二人は11層に降りワープゲートに触れる。1層に戻った二人はそこで別れた。
舞は一応ガチャを回してから施設の裏口から中に入りなおす。そして直属の上司に電話をかける。
「はい、後藤です。例の彼に接触しました。レイスについて重要な情報を得ました。はい、レイスにある髪を狙って倒すことでSSRレイスの魂をドロップする可能性が高いです。はい、あの小さな髪を毎回狙って倒していたということになります。監査団は何を見ていたんですか。はい、よろしくお願いします」
この推測が正しければ自分は更に上の役職へと就くことが出来る。内に秘めた野望をメラメラと燃やし、誰もいないことを確認しガッツポーズをする。
◆
「あ~舞ちゃん美人だったなぁ、最近ダンジョンばっかで女の子との交流がなかったよな」
そう呟いて周りを見るが、俺は冒険者の女の子の少なさに愕然とする。そういえば最初の頃女の子いた気がするけど、あれ以来みてないなぁ。見渡しても俺みたいな虚ろな目をしたやつ多いし、舞ちゃんこのダンジョンに定住してくれないかなぁ。
俺は少し奮発して現金に換金して、夜の街に消えていった。
何がよかったかは言うまでもない。
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