第17話 後藤舞

 後藤舞は焦っていた。確信をもって伝えた自分の情報がまるで見当はずれで、SSRレイスの魂はドロップしなかった。そのことから上司の信用を落とし、彼女は降格され別のダンジョンの受付へと流されてしまった。


「全部あいつのせいよ、新庄誠……適当な嘘をついて私をだますなんて」


 勝手に間違った解釈をしたのは彼女なのだが、それを知るわけもなく恨みだけが積もっていく。そうした彼女の怒りは勤務態度にも現れ、従業員から避けられ孤立していった。ただえさえ、エリート街道を渡ってきた彼女に取ってそれは屈辱以外の何物でもなかった。


 私が輝ける場所はもっとある。こんな職場に縛り付けられるなんて意味のないことだ。そう思った彼女は受付の仕事をやめ就活を始めた。世の中が好景気に沸く中、ダンジョン職員、しかも役職についていたのだ。引っ張りだこだろう。そう思っていた彼女に現実が突きつけられる。


 受からないのだ。書類選考は大体通るのだが面接を行った後毎回落とされてしまう。

 どうして?

 控えめに言っても顔は整ってるしプロポーションも悪くない。不思議な現象の正体を掴めずに、面接に落ちるたびに彼女は荒れていった。


「どうして~、何がいけないのぉ~」


 朝からビールを開けて一人嘆く。部屋はゴミが散乱し、ビールの缶が転がっている。就活当初の輝いていた彼女の姿はもうそこにはない。


「あいつが、あいつに関わってからすべておかしくなったのよ、レイスの呪いでも受けたんじゃないの!?」


 彼女は沸々と沸いてくる怒りをぶつける相手を見つける。そうだ新庄誠に文句を言いに行ってやろう。どうせあいつのことだ、今もダンジョンに潜っているに決まってる。酔った勢いそのままに舞は部屋を飛び出していった。





 俺は急に声を掛けられ相手の方を見る、確か…後藤舞だったか?キングレッドリザードマンから俺を助けてくれた冒険者だったっけ。

 俺を呼ぶ顔は紅潮し、キッっと睨みつけてくる。美人は怒っても美人だなぁなんて思っていたら、ズカズカとこちらに歩いてくる。


 なんか怖い、俺は逃げようかと思ったけど、なんかもっとひどいことになりそうだったので、防御の姿勢を取って身構える。。


「なに構えてるのよ!乱暴でもする気!?」


 乱暴という言葉を聞いて俺は素早く態勢をかえ直立不動になった。なんだなんだと周りから野次馬が集まってくる。いやだなぁ目立ちたくないのに。後藤が俺の前に立ちはだかる。


「あんたのせいで、私は、わたしはぁ!!!」

「ちょっとなんですか急に、こんな往来で叫ばないでください」

「あんたのせい…、何もかもあんたが悪いのよおおおお」


 怒りの収まらない彼女を引き剥がすことも出来ず、こんなところで痴話喧嘩か?とか言われてるのに気づき、変な誤解が広まると面倒くさいなぁと思って、手を引いて手頃なカフェに入る。急に手を引かれた彼女は、ぶつぶつとなにかいいながらも一緒についてきてくれた。カフェの個室に座り、少し冷静になった後藤に問いかける。


「あの、全く心当たりがないんですけど、何か俺やっちゃいました?」

「……それは守秘義務があるからいえない。けど、貴方のせいで私は職を失いました。だからなんとかしてください!」

「なんとかって、理由も分からないのにそんなことできませんよ」

「いいから!!どうせお金持ってるんでしょう!あんだけダンジョンに潜っているんだから稼いでいるんでしょう!?」


 そんな無茶苦茶なことを言われても、と俺は困惑する。しかも俺がダンジョンで稼いでいることを知っている?まぁ冒険者なら情報交換や収集してるかもしれないし普通か?しかし半泣きになっても可愛いなおい。

 

「貴方がどういった人かは分かりませんが、俺はしがない冒険者ですよ、稼ぎもその日を生きるのに精いっぱい程度です」

「嘘よ!10層にまで潜れる人がそんな低収入なわけがないわ」

「逆に聞きますけど、貴方も10層まで潜れてましたよね、ご自分で稼げばいいのでは?」

「それは…そう!装備が壊れて、今はもうあそこまで潜る事も出来ないの」


 装備品の喪失か、確かにそれは痛いな。俺にも経験があるから気持ちはわかるぞ。そうか装備か…うーん、とりあえず手伝ってあげるくらいはいいか?急ぐこともないしな。俺は臨時パーティを組んで装備を整えることを提案した。


「本格的に冒険者に、いや悪くないかも」


 後藤はそういうと黙って考えをまとめるように注文したアイスコーヒーを飲み始めた。俺も手元にあるアイスカフェオレを飲む。もう秋になってもいい季節なのに今日も暑い。ダンジョンが出来てから温暖化進んでるんじゃねぇのか、元々進んでたから関係ないか。


「……いいわ、とりあえずその条件を呑むわ、ただし私が満足できる装備を調達できるまでね」


 なんでちょっと偉そうなんだよ。でも美人に言われてちょっと興奮する。よく考えれば寂しい冒険に彩りがつくと思えばむしろプラスなのでは?


「じゃあその条件で成立ということで、ダンジョンはどうします?俺が知ってるのはここのダンジョンしかないんですけど」

「そうね……前のダンジョンもちょっと行くのは難しいし、どうせなら貴方のホームグラウンドであるダンジョンで揃えてもらった方がいいかしら」


 こうして俺は後藤舞との臨時パーティを組むことになった。まず明日から5層を中心に回ることにして、連絡先を交換してカフェを出て別れた。

 全額奢りだった。まぁ大した金じゃないけどな。

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