第12話 若いっていいね

 次の日から11層と14層の間の探索を始めた。11層はアイススライムがよく出てきたが、ドロップするのはNやRのアイススライムの液体や核、1層のスライムと同じような内容だった。12層から14層を同じように探索したが、それっぽいモンスターは出てこなかった。しかしドロップしたアイテムに光明がさした。

 13層に出現したアイスゴーレムからNアイスゴーレムの靴がドロップした。これがスノーシューのような形をしており、レア度をあげれば充分役に立ちそうだ。この日はNしかドロップしなかったので、明日以降13層を中心にゴーレムを倒していこうと思う。



 俺がダンジョンを出ると女の子から声をかけられた。


「あの、すいません。覚えていませんか?」


 はい?誰だろう、逆ナンとか珍しいじゃん。しかしどうやら違うようだ、一緒に男と女がついている。


「半年前貴方に助けてもらった者です」


 はて?恩返しにきた鶴か?いや人間だけど、うーん、思い出せない。

 あ、そういえばモンスター群れを横取りした時、声を掛けたの女の子だったか。


「はい、あの時です。あれから探したんですけどどこにも見当たらなくて暇を見つけてはダンジョンの前で待っていたんです」

「それはご丁寧に、でもそんな大層なものじゃないですよ。あの時はダンジョンハイっていうんですか、気持ちが昂っててよく覚えてないですし」

「でも、あのおかげで私は助かりました。あの後和人と杏とも話して冒険者はやめてしまったんです。だから半年もかかってしまいました」


 そうか、やめてしまったのか。でもそれが正常なのかもしれない。死ぬを目の前にして冒険者を続けるのは俺みたいなギャンブル好きか、命知らずの一攫千金を目指す野心家くらいなんだろう。


「やめちゃったんだね、やっぱり危険だから?」

「それもそうなんですけど、私達まだ若いじゃないですか、それなのにこんな危険なことしなくても真面目に生きていけばいいかなって」


 そうか、そういう幸せの形もあるよな。


「あ、名前まだでしたね、伊藤優菜いとうゆうなといいます。今度よかったらお礼をしたいので空いているときに連絡ください」


 そう言って彼女は俺に連絡先を渡してきた。俺はそれを受け取ると名前を言って今度連絡するよといってその場は別れた。彼女は振り返るといつまでも手を振っていた。



 少し、眩しかった。




 次の日、アイスゴーレムを倒しに13層に転移する。昨日のことでちょっとセンチメンタルな気分になったが、気を取り直してモンスターを倒していく。その日はNアイスゴーレムの靴、アイスゴーレムの核、アイスゴーレムの鎧、銀貨しか出なかった。アイスゴーレムの鎧って、あいつ鎧装備してないだろ。それを言ったら靴もなんだが、その辺は適当だなあ。俺はいつも通り換金をして、いつもならカジノで遊ぶんだけど、ちょっと考えて帰宅することにした。


 どうも気分が晴れないので優菜ちゃんに連絡を取ってみた。メールでやり取りすると分かったのが彼女たちは大学生らしく、来年は就活を控えているらしい。

 あの日はダンジョンに潜って三か月くらいで、スライム狩りで充分な力を手にしたと感じ、初めて2層に降りたとのこと。それが早々に杏ちゃんが相手の攻撃で気を失ってしまい、敵に囲まれてしまったということだ。


 大学か……パチンコにハマってろくにいかなくなったな。そんなに前じゃないのに遠い昔に感じる。そういう場で楽しくキャンパスライフを送る日々もあったのかなぁ。あり得ない想像をして、いやいやないなと首を横に振る。


 明日は時間があるというので、ご飯を奢ってもらうことにした。命を助けたのだから体で、なんてゲスなことも一瞬考えたが、人の善意につけこむようなことをするのも気が引けた。ご飯とお礼の言葉でちょうどいいところだろう。



 次の日、待ち合わせの場所に行くと、優菜ちゃんと一緒に和人と杏ちゃんがいた。二人きりとも言ってないし、そもそも二人も当事者なんだからいても当然なんだが。若い女の子とパパ活、いや、お金貰ってるからママ活かな。


「今日は時間を取ってもらってありがとうございます。全部奢るのでどんどん食べてくださいね」

「そんなに食べれないよ、まぁせっかくだからちょっと高いお店に行かせて貰おうかな」


 優菜ちゃんと言葉を交わし、事前に調べておいたちょっとお高い焼き肉店へと向かう。


「俺らも出すから、お金の心配はしなくていいよ」

「私も、今日の為に、お金、降ろしてきたから、大丈夫」


 和人と杏ちゃんが優菜ちゃんとおしゃべりする。微笑ましいやり取りに、また少し胸がズキリとした。なんだろう、胃がちょっと痛いな。今から焼き肉だってのに、こんな状態で食えるかな。ハハハ……



「え、誠さんT大学中退してるんですか」

「そうなんだ、それからブラック企業を転々として、ダンジョンは渡りに船だったんだ」


 ギャンブルによって破滅した人生を送っていたことを隠して、人生の先輩として威厳を保とうとする。少し見栄をはった。


「これから就活だろうけど、俺みたいに変な企業入らないようにね、俺は中退だったけど君たちは新卒だし」

「実感こもってるっすね、気を付けまっす」

「私も、頑張ります」


 その後も自分の自慢話をしながら、皆に太鼓持ちをしてもらった。まるでキャバクラだよ、しかも無料、でもどこか虚しかった。

 俺もまだ前途ある若者のはずなのに、彼女たちとの違いはなんなんだろう。ダンジョンに潜ってること?それだけなのかな。なんか違う気がするけどとりあえず納得してその日は解散した。


「また連絡くださいね~、もっと奢らせてください」

「ハハ、そうさせてもらうよ」


 乾いた笑い声だけがその場に残っていた。

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