第6話 なりすましがバレて追放の危機?!

私がアイリーンじゃないって、ショウにバレてんじゃん。


どうして? どうしよう??

これ、今すぐ追放? それともなりすまし罪(?)で殺される?


私、異世界に来た途端に死ぬの……。

どうしよう……シラ切る? 泣き落とす? どうしたらいい??

とりあえず、記憶喪失のフリをそのまま続けることにした。


「あの、私……」


と話そうとした瞬間、ショウがそれを遮るように頭を下げた。大男が縮こまってほんの少しだけ小さく見えた。


「スマン!! 俺がアイリーンさまを止められなかったから……もしも呪術が成功してアイリーンさまと入れ替わっているなら、あなたはとばっちりでこの世界に来たんだ」


「はぁ?! ちょ、ちょっと待ってください。全然意味がわからないんで、最初から知っていることを教えてもらえませんか?」


「ああ、スマン。何から話したらいいのか……」


ショウはおそろしく口下手な男で、どうにか聞き出した頃には、お昼も近くなっていた。


彼の話によると、セイ王子とアイリーンとショウは幼なじみらしい。セイは昔からアイリーンが好きで、絶対にアイリーンと結婚する、と言っていた。けれど、アイリーンはショウのことが好きで、セイのことをすげなく扱う。ショウはアイリーンのことは悪くは思っていなかったけれど、両親からもいずれセイとアイリーンは結婚するのだから、節度を持って付き合うようにと叩きこまれていた。


だから、アイリーンとも2人きりにならないようになるべく気を付けていたのに、雷雨の日に、思いつめたアイリーンが、もしもショウが自分の気持ちを受け入れてくれなくて思いが遂げられないのなら、別の世界に駆け落ちしようと言い出す。


アイリーンの家に伝わる呪術があって、雷の夜に別世界に通じる道が開く。その別世界で望んでいる人がいれば、その雷の道を通じて人が入れ替わるらしい。


アイリーンは雷の日に屋敷を飛び出し、引き止めようとショウが追いかけた。アイリーンは雷の道を通ってしまった。でも、ショウは追いつこうとしたけれど物凄い力で弾き飛ばされたのだそうだ。そして、いつの間にか意識を失っていて、気づいた時には、横に私がいた。服装が違うから、アイリーンと入れ替わった人なんだということに気づいたそうだ。


ショウは、2人でいたことを誤解されるのを恐れ、考えた挙句に、セイの屋敷に私を連れ、客室で看病にあたった、ということらしい。


「じゃあ、ショウさんは、最初から私がアイリーンじゃない、っていうのを知っていたのね?」


「スマン……ただ、最初に王子に殴りかかった時には、あまりにもアイリーンさまに似ていて、つい、いつものように言ってしまったが」


「なるほど。少しだけ状況が理解できたわ。ショウさん、私、本当は愛理と言うの。確かに別世界に住んでた。でも、セイ王子にはまだそのことを言えなかった。だって、いきなり追い出されたり、下手したら殺される可能性だってあると思ったから」


ショウはゆっくりとうなずきながら、セイ王子に限ってそんなことはしないと思うがとつぶやく。


「単刀直入に聞くけど……私は、この先、とりあえず生きていくならアイリーンとして結婚するのが一番良さそうなのだけど、……セイ王子と結婚してもいいと思う?」


「そりゃあ、アイリーンさま……いや、愛理さまがいいというなら止める理由がないです。きっと王子も喜ぶでしょうし、でも……」


ショウは言葉を探しているようだった。


「やっぱり、だましているような感じに、なるよね? 図らずともこの状況もだましているのかもしれないけど」


彼は改めて頭を下げる。


「それは、100%、俺の責任だから……すまない。王子は、とても素晴らしい方なんです。小さい頃から傍で一緒に過ごしていて、人望もあるし、勉学も武道にも長けていて。アイリーンさまは結婚したら絶対に幸せになれたのに……」


それから彼は少し黙って言葉を選んだ。


「愛理さまも結婚したら間違いなく幸せになれると思う。でもだからこそ、俺は結果だますようなこともしたくない。かといってアイリーンさまがいなくなったと知ったらどれだけ心配されるか……。結論を先延ばしするようだが、もう少し、婚約者のまま様子を見てもいいんじゃないだろうか。またいつアイリーンと入れ替わるかもわからないし、時間が経つうちにお互いのことを理解できるかもしれないし」


「……そうね。今、セイには記憶喪失ということにしているから、少しずつ考えていくわ。ショウさん……いや、ショウと呼んだ方がいいよね? セイとのことは様子を見つつ、しばらくアイリーンとして生きてみようと思う。でも、私も、いざという時のために自分で働けるようにしておきたいの。1人で生きていくために。だから、これからこの国のこと色々教えて」


「もちろんです。改めて、アイリーンさま、よろしくお願いします」


セイの書斎に行くというショウの背中が寂し気に見えた。


ねえ、ショウ! と声をかけるとショウは後ろを振り返った。


「いなくなったアイリーンのこと、心配?」


その時のショウの顔をなんと表現したらいいのだろうか。その顔を見て、ショウもまた、アイリーンのことが好きだったんだなと確信した。王子の婚約者なんて、かなわない恋だっただろうけど、恋は理屈じゃない。最初に見た時には私の前に立ちはだかる大男だったのに、今や見る影もなく肩を落として、部屋の扉が閉まる音だけが静かに聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る