第4話 浮気彼氏激似の人が、異世界では一途な王子様だった
長い夢から目覚めると、枕が濡れていた。
顔をぬぐおうと手を動かそうとしたのに、動かない。フカフカの布団の中でもがくように手を動かそうとして、自分の手が誰かに握られていることに気づいた。
包み込まれた右手の先に
もしかしたら、誠也が浮気していた方が、夢だったんだろうか。そうだったらいいのに。
でも、ここは? どこなんだろう。
とても広い部屋だった。窓も大きくて、きらびやかな装飾。重厚そうなベルベットのカーテンは金色に縁取りされている。気づかなかったけれど、ベッドには、天蓋がついている。
ディズニーの物語に出てくる西洋のお城の部屋のような造り。今は白いシャツに黒いパンツでラフな格好をしているけど、意識が切れる前、誠也は、学芸会の主役のような格好をしていた。
そう、まるで、お城の王子様のようないでたち。
動いてしまったからだろうか、誠也がかすかに動いた。
「アイリーン? 具合はどう?」
まだ夢うつつなのだろう、うわごとのように誠也はささやく。私は困惑しながらも答えた。
「私、どのくらい、寝てました?」
次の瞬間に、誠也はガバっと身を起こした。真っすぐな目で私を見る。
「アイリーン、もう動ける? どこか痛い所は? ここがどこか、わかる?」
「まだ、身体は痛いけど、だいぶマシです。ここは、どこなんですか? そして、あなたの名前は?」
誠也は、絶望的な顔をした。
「君は……何も覚えていないのか?」
覚えていないのではない、でも事情が分からない。そうか、記憶喪失のフリをすればいいんだ。私の疑問って、まるで記憶喪失の人の反応だもの。
「ここは、ミスティリア王国。そして、僕の名はセイ・エルムウッド、覚えていない? 僕はこの国の後継者なんだ」
名前と顔はとても似ているけれど、誠也ではなかった。
ってか、異世界キタ───!!! そして、この人王子様だった!!!
「セイ王子……と呼べばいいです?」
「王子なんてつけないで。君にはセイと呼んでほしいし、できればいつものように敬語も使わないでほしい。と言っても、記憶がないんではどうしようもないね。君の名前はアイリーン・レイノア。僕の婚約者、なんだ」
彼は、一度意識を回復した時に、私のことを何度もアイリーンと呼んでいた。あの時には、変な発音してと腹が立ったけれど、間違いじゃなかったんだね。
彼は、何度も、愛おしそうにアイリーンと呼んでいた。私は、セイの目を見ることができなかった。
ここは、ミスティリア王国。私が住んでいた日本ではない。
私、谷本愛理はアイリーンと呼ばれ、目の前にいる誠也は、浮気をしたバカ彼氏の誠也ではなかった。名前はセイ、しかもこの国の王子。
話を聞いて、ここまで判明。
名前が似ているのは何かの偶然なんだろうか? 夢を見た時にわかったのは、私は、誠也の家を出てからひどい雷雨の中飛び出してさまよっていたということ、それで雷に当たったんだろう。
「セイ……私はどこでどんな風に発見されたんですか? ……発見されたのかな?」
「僕が直接見たわけではないから、詳しくはわからない。城から城下町に出るための森に倒れていたらしい。しかも服装もなんだか変わった格好で、ところどころ焼け焦げた跡があったよ。その日は雷と雨がとにかくひどくて、近くにも雷で丸焦げの木があったみたいだから、雷のせいで、記憶がなくなっているのかも、しれないね」
なるほど、やっぱり私は雷の何らかの作用で、ここに来たんだ。
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