第14話 ヤバイ。こんなの、めっちゃ恋じゃん。
「アイリーン、前、君は薬草園なんて興味も持たなかったけど、本当に見たいの?」
敷地内だというのに、馬車で出掛けるなんて大げさな! と思っていたけれど、馬車でも15分ほどかかる場所、歩いたら1時間以上はかかっただろう。王家の敷地の広大さは、愛理の想像をはるかに超えていた。
初めて乗る馬車の揺れに少し気持ち悪くなるのを我慢しながら、到着するのを待つ。ガラガラと音を立てていた車輪がゆっくりと止まった。
窓から柔らかな光が差し込む。馬車の扉が開くと、まばゆい光が中に入ってきた。
セイがサッと立って地面に降りる。そして、私の手を取った。
元気になって初めて降り立つミスティリア王国の土地。日本だったら、梅雨が始まる前につかの間爽やかな風がふく、初夏の季節に似た気候。その風はとても爽やかな香りがした。セイに無理矢理かぶせられた帽子が風でゆらゆらゆらめく。
セイの黒髪は光にとても映えるんだな・・・・・・。白のサテンのシャツに黒いパンツ。短剣を腰に下げて、少し長めの髪は光に当たると艶めいてとても色っぽい。
いやいやいや、さっき、ショウにプラトニックを貫くっていったばかりなのに惚れ直してどうすんのよ。愛理のバカバカ!
「・・・・・・アイリーン?」
セイにのぞき込まれて思わずのけぞる。もう、ドキドキするじゃない・・・・・・。
深呼吸して気を取り直し、顔を上げる。
正面には、一面に紫の花が揺れていた。
「うっわ・・・・・・すっごい!!! そうか、この香りは、この花から来ているのね」
握る手に力を込めた、その手が少しの間を置いてからゆっくりと同じくらいの力を返してくれる。景色に感動して思わずセイの手を握りしめていた。彼が握り返してくれて、この世の幸せを全部かき集めたような極上の笑顔を思い浮かべたので、手が離せなくなってしまう。
握られた手が緊張で汗ばんでいくのがわかる。心臓もバクバク言っている。
ヤバイ。こんなの、めっちゃ恋じゃん。
でも、ドキドキが高鳴っても、その高鳴った分だけ心の傷がえぐられる。乱高下する心拍数で吐きそうだ。
でも、間違いなく目の前の景色は最高だった。
「ミスティリア王国は、薬草の輸出が交易の要です。国立の薬草園では、すべての季節の薬草を育て、その生産技術を各地に伝えることで、国力を上げているのです」
「この美しい紫の花が、ラベールです」
薬草学のステラ先生の説明に私はうなずく。
この香りは間違いなく日本で言うラベンダー。薬草学で学んでいるときに植物の名前が似ているなと思ったけれど、リンクしているので間違いなさそうだ。名前はある程度の覚え直しが必要だけど、実地で薬草さえ見れば、その効用はほとんどわかる。
その日は夕方くれるまで馬車で移動しながら薬草園をずっと見て回った。
「もうそろそろ、帰ろう。また来ればいい」
セイが言ったときには、遙か遠くの地平線に日が傾いていた。逆光で彼の表情はわからない。それでも、彼のことをじっと見つめた。
「アイリーン、そんな風に見つめられると照れるよ」
セイがくすぐったそうに笑う。「さあ、帰ろう」出された手を取ると、私たちは馬車に乗り込んだ。
「国の薬草園をアイリーンが気に入ってくれてとても嬉しいよ」
セイが馬車に揺られながら嬉しそうに微笑む。薬草園は控えめに言っても素晴らしかった。間違いはないので、大きくうなずく。そう、たとえ日本に帰れなくても、・・・・・・セイのもとにアイリーンが戻って、彼女が万が一セイを選んだとしても。
私は、どうにかして薬草師になって、生きていけるならば。
「ねえ、セイ。今日、結婚の約束、したでしょう? 結婚するにあたって、2つお願いがあるの」
「お願い・・・・・・もちろん。僕が叶えられるものならば」
彼は、長い髪をかき上げた。その仕草も色っぽくてうっとりする。
私は、ゆっくり目を閉じて深呼吸する。
「お願いというのはね・・・・・・」
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