第8話 貴族の仕事ってなあに?

「アイリーン……貴族は、薬草園で働いたりとかは……しないんじゃないかな?」


「そうなの? じゃあ貴族って何が仕事なの?」


セイは、私が記憶をなくしているのを信じているから、ひとつひとつ丁寧に教えてくれる。起床したら、朝食、その後、領土内の政務や統括している地域との連携、国内に異常な事態がないか、各地の貴族たちから報告を受ける。また、税金などの徴収状況チェックするのだそうだ。


昼食後には普段なら、領土の視察や狩り、城や住居に異常がないか、先程話していた庭園に視察に行くこともあるらしい。歴史や風土に関する勉強も午後に行う。


夜は、夕食兼社交パーティーが行われることが多いらしい。各地のサーカスやショーなどがやってくることもあるそう。


「でもそれって、男性の仕事よね。女性はじゃあ、午前とか午後には何をしているの?」


「刺繡とか、ダンス習ったりとか、お茶や散歩したりとか、施設の慰問をしたり……そんな感じかな。アイリーンはどれもあまりしていなかったけど」


「ふうん……」


王族や貴族の女性たちは、きっと一番大きな仕事が嫁いで世継ぎを生むことなんだ。あとは、嫁ぎ先で恥ずかしくない程度の教養や知識を身に付けておけば大丈夫ということなんだろう。


でも、私は、もしもアイリーンじゃないとバレてしまって、ここから追放されたときに手に職をつけてないと困るんだ。


「とりあえずは、薬草園を見学したいです! なるべく、早く」


セイはだいぶ渋っていたが、最後には「アイリーンは記憶をなくしても、一度言い出したことは聞かないね」と苦笑いしながら、首を縦に振った。


「ただし」


「ただし?」


「もう少し万全になって、しっかりと動けるようになってからね」


がっくり。


昼食後、名残惜しそうなセイをショウが無理矢理引っ張っていくのを見て、愛理はため息をひとつついた。


片付けを指示し終わったクロエが、こちらに近寄ってきた。


「アイリーンさま、今日はセイさまの指示で、午後からはお医者様がいらっしゃいます。今の状態を見てもらいましょうね」


ありがとう、クロエ、と言うと、彼女は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに微笑んだ。


「ねえ、クロエ。セイさまはとても素敵な方だけど……ちょっと過保護すぎやしないかしら?」


本当にアイリーンを心配しているし、とても真摯で優しいけど……本音を言えば、少し疲れる。


クロエは苦笑いした。


「セイさまのアイリーンさまへの過保護ぶりは、私がこちらにお世話になり出した時には既にそうでしたから、少なくても15年以上ですね。結婚も両家は同意しているわけですから、セイさまがうんと言えばすぐにでも整う話なのですが、アイリーンさまが納得してくれるまでは結婚しない、と言ってもう、セイさまも25歳です。アイリーンさまが今年20歳になるので今年こそと周りも期待していますが」


こんな状態になっちゃって……言外にそう匂わされた気がして、うつむく。そんなこと言われても困るのだ。


でもクロエは特段含みを持たせたかったわけでもないらしい。片付けの状況を確認した後で、「ではお医者様を順番にお呼びしますね」と言った。


……順番?


ドアが開いた時、愛理は少し後ずさりした。

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