第9話 ドアの外で医者が行列して私を待っていた件
「なにこの人数、健康診断かっ?!」
ドアの外には、白衣を着た医者らしき人達がズラリと並んでいた。
健康診断だったら、普通は自分が医者の元に並ぶけれど、今回は、私の元に医者が並んでいる。
セイの過保護め! しかし、この状態だったら、逃げるわけにもいかない。ため息をついて、置かれた椅子に座った。
目、耳、鼻、頭、骨や筋肉、内臓の触診……一通りの診察が終わった後で、今度は全身のマッサージと薬草パック、ヘッドスパと身体のメンテナンスもてんこ盛り。終わった頃には日が傾きかけていた。
西から差し込むオレンジの太陽は、日本にいた頃と変わらない。
しかしなあ……なんというべきか。
診察はまだしも、リラクゼーションも詰め込まれると身体って疲れるもんなんだな。これは、こちらにやってきたダメージが回復してないからというのとはちょっと違う気がする。
一言セイに言ってやらないと。
そして、夕方になればちゃんとお腹が空いた。
「アイリーンさま、お夕飯はどうされますか?」
クロエの言葉に、口より先に、お腹が返事をしたので、彼女は吹き出し、そして、申し訳ありませんと謝る。
「いや、すごいタイミングよね。昼も夕方もクロエにお腹の音を聞かせちゃって。お昼よりもだいぶお腹が空いたみたい。夕食の量の普通が分からないけど……」
「元気になって良かったですよ。様子を見ながらお昼より多めに用意させましょう。それと、その、セイさまとは同席……されますか?」
クロエの言葉にはすぐに答えず、逆に尋ねてみることにした。
「ねえ、クロエ、聞きたいんだけど。私に教えてもらえないかしら?」
「はい、わたくしに分かることでしたら」
「クロエは、アイリーンがセイの家にいる時には身の周りの世話をしてくれていたってショウから聞いたの。クロエの目からみて、
クロエは、15年前からしか知りませんよ? と前置きをした上で話してくれた。
それによると、クロエがセイ付きのメイドとして特にアイリーンと接するようになった15年前、彼女はまだ5歳でセイは10歳だった。アイリーンはとにかくお転婆で、セイについていたショウやその他の少年騎士達に紛れ、剣を振るい、剣士になりたいとずっと言っていた。でもある時、セイ様がはずみでアイリーンにケガをさせてしまったらしい。
「私も聞いた話なんです。私が入った時には、既に溺愛状態だったので。でもそのケガをさせたのがきっかけで、過保護になったらしいですよ」
「溺愛するきっかけはそのケガだったの?」
「溺愛というよりは過保護ですよね。セイ王子がアイリーンさまのことを大切に特別に思っていることはわかるんですが、過保護がこじれたって感じがしないでもないですよね」
彼女は言い過ぎたと思ったのか、気まずそうな顔をした。
「誰にも言わないから大丈夫。教えてもらって納得した。今日のあれも、過保護が行き過ぎた形なのね」
クロエはうなずく。
「過保護がゆえに、アイリーンさまがやりたいことを、セイさまが止めてしまうんですよ」
アイリーンは剣士になりたかったくらいの性格なのだ。それを家に閉じ込めて過保護に扱っていたら、さぞ窮屈だっただろう。
「アイリーンさまの口ぐせは自由になりたい、でした。でも、御父上のレイノア伯爵さまとしては、こんな良い縁談逃せませんから、逃げ出そうとするアイリーンを捕まえてはこの屋敷に放り込まれていました」
話を聞いてみると、アイリーンのことが少しかわいそうになった。そんな理由があって、先祖代々に伝わる呪術を使って、この世界を飛び出したんだな。
クロエには、セイと一緒に夕飯を食べると言う。クロエは、心なしか嬉しそうだった。ショウの言う通り、セイは人気があるのだろう。そして、クロエは、かつてのアイリーンよりも、私の方がまだ取り付く島があると思っているはずだ。
本当のことを言えなくてごめんね。
私は心の中でクロエに謝った。
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