パヴァーヌ

「さむいね」


「ちょっと寒いわね」


「ぶっちゃけ…………、めちゃくちゃ帰りたい……」


「分かる……。でも無理よ、カイル先生に上に行って来て見て欲しいって言われたから。どの道この高さから落ちたら死ぬわ」


「やばいじゃん……、私たち帰れないじゃん」


こんな無気力で退屈な会話を続けてはや三十分。普通にキレそうである。


もうすぐ島の上へと着きそうが……──────────長い、ただただ長い。

下の街から見て見ても結構な大きさではあると思っていたが、空を飛んでいると分かる。

島なんてものの大きさでは無い。これは一国そのものの大きさと言ってもいいほどのでかさ。

いくら飛び上がってもなかなか着かない理由がこれだ。


「それでなんでアリスさっきから私の足に引っ付いてるの?」


アリスは先程から私の足にコアラのように引っ付いて離れないでいる。


「なに私の事好きになったの!もー、フロイライン照れちゃうな〜!」


「あなたの事は好きよ。えぇ……、とっても。……とってもよ」



やけに素直だ。いつもの様に、あしらう様にではなく本心で言っている気がする。


いつもだったら今頃、溝打ちに何発かは打たれ悶え苦しんでているところだが、そんなこともない。


今考えてみれば、あの島が現れてからアリスは変わった。

まあ着けば分かるというものだ。

でも……──────、こんなアリスも可愛いからよし!

そんなこんなで上へ上へとと昇ることさらに五分、島を通り越し島の上の一面が見える所まで上がってきた。


上から見るとその島の一面には、大勢の人と無数の建物が並んでいるのが見える。それは一つの国と呼んでもおかしくないところ。


だが今は、そんな事を考えている時ではない。まずいことになった。


「ねぇ、これどうやって着地するの。ねぇヤバいってぇぇぇ"お"ぉ"ぉ"ぉ"風がぁぁぁ」


上へと上がって来れたのはは良いものの、どうやって降りるかの考えをしていなかった。


というか降りる場所が人が大勢いる街の中心しか見つからない。

そんなとこに勢いよく顔面着地なんて事は絶対にごめんだ!


「ちゃんと捕まっててよね!」


そう言うと、アリスが右手でフロイラインを掴み、左手で地面へと風魔法を放ち、勢い良く落ちていく体を風で相殺しゆっくりと地面へと下がっていく。

なんとか顔面ダイブは免れた。


地面に足がつく。


「……気持ち〜」


風が体を突き抜けていく。

辺りを見渡すと下から見る景色とは違い、大勢と人が行き交う広く賑わっている場所でだ。

落ちてきた私たちに、周りの人達が驚いた様子でこちらを見ている。


人が上から降ってくるなんて事は滅多にないからな。

驚かせたようで申し訳ない。


だが、そんな事は気にしないかのように私の手を取り人を避けながらアリスは前へと歩いていく。


「ちょっ……、ちょっと待ってよアリス!」


「パヴァーヌ……」


歩いていると、アリスが小さい声でぽつりと言った。

パヴァーヌ。

聞いたことがある。というか誰でも知っている常識的なやつだ。


パヴァーヌと言えば七燈が収める七つの国の一つだ。


地上の人々からは幻の国なんて呼ばれている国だ。昔はそんな名前で呼ばれてはいなかった。


そんな呼ばれ方をされ始めたのも10数年前で、最近になってからそんな名前がつき始めた。


昔、パヴァーヌは地上へと普通にあった国だが、いきなり空中へと浮き始め、そこからどこにでも現れてどこにも無い、というそんな存在になったらしい。


だから幻。まあ単純な話、空中にぷかぷかと飛び回ってるから見つからないだけである。


そんな国がアリスなんの関係があるんだ……。


「ここがパヴァーヌってところなの?」


「そうよ、広くて綺麗でしょ」


「今まで見た所で一番綺麗だね。まぁ、でもあたしはあの街しか知らないからなんとも言えないんだけどね」


「良かったわね、あの街の方がよっぽどマシよ。こんなとこ二度と来たくなかったわ」


「なんで?好きなんじゃないの?いい国そうじゃん」


フロイラインが聞くと、アリスは一瞬間を置き苦虫を噛んだ顔話した。


「……私の故郷だからよ」

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