君にとどける花束
三冠食酢
プロローグ
第00話 プロローグ
「むかしむかしあるところに……」
それは絵本の決まり文句だ。呪いのように、まるで当たり前のようにあるものに過ぎない。
だが、人はその言葉によって締め付けられている
まるでそれが重要かのように。物語の哀れな悲劇のその先に何があるかなんてこの目で見ればいいのだから
「あぁ、本当に……」
私はこの結末を知っている────────
これも、これも、これもこれもこれも
何度も見た結末を読み返して、読み返して
それでも結末は変わらなかった。
あの日のことはよく覚えている。
灰色の雪かも分からない何かが降り続け、頭がおかしくなるような悲痛が続く毎日。
「いい加減忘れなよ」
鬱陶しいくらいに耳に付く。
そんな光景をフロイライン・スターチスは何度も見た──────────
◆◇◆◇◆◇◆
私のお母さんは神様だった。この世界を創った神様。
比喩とかじゃ無い。本当にこの世界を創った神様。
みんなから慕われて、尊敬されて、敬われる存在。
それがお母さんだった。
そんなお母さんは私の幼い頃、殺された。あっさりと。
あの人は、誰もが羨む完璧な人。失敗なんて一つもない、完璧な人。
だから、恨みを買うことも多かったのだろう。今思うと別に不思議じゃない。
お母さんは花が大好きな神様だった。
花咲アリア。皆からはそう言われていた。家の周りが花で埋め尽くされてるほどお母さんは花が好きだった。
そんなお母さんだが私に構わず、ほとんどの時間を花に費やして一日を終えていた。
世の中の基準で考えれば、はっきりいってお母さんはダメな方だ。クソだクソ。
ろくでなしと言ってもいい程に。
私が遊んで欲しい時も、何か理由をつけては花のことばっかりで私を振り回すばかりで遊んでもらえない。
聞き飽きる程に花の話を聞いた。
だけど、別にそんなに嫌では無かった。
私はお母さんが楽しそうに話すそんな花が好きだからだ。名前は知らない。種類も何もかも、全部知らない。
でも、大好きだ。
一度だけ、お母さんから花を貰ったことがある。お母さんから貰った唯一の花。
私はその貰った花が今でも大好きだ。今でもその花は姿を変えず机飾ってある。
だけど、そんな花の名前は今でも知らない。
私に構ってくれた時間なんてものはは微々たるものだったが、少しの時間だけ頭を撫でられ、話して、触れ合うというのが、私のあの時の唯一の楽しみであり、ただ嬉しかった──────────
本当に凄い人だった。
ダメなお母さんがただ、私の憧れで、尊敬で、神様みたいな私のお母さん。
今の私でも、いくら手を伸ばそうが届かないところにいるだろう。
でも性格は・・・、ちょっと子供ぽかったのが残念。
誰にでも甘える犬みたいなそんな人。
でも、そんな所も含めて全部が好きだった。
だがそれが変わったのはいつだっただろうか。もう覚えてすらない。
空から雪が降って街へと積もる中、一人寒かった。それだけは忘れない──────────
その日は雪が降っていた。この辺りでは雪なんて滅多に降らないのに、その日だけは「何か」を祝福するように私たちの世界へと降っていた。
そんな事に気づいた小さい頃の私は朝早く起き、冷たい体を必死に起こしながら外服に着替え、階段を駆け下りながらお母さんと何をしようかなんて考えながら降りていると、足になにか当たった。
それは階段をゆっくりと落ちていき、甘い音をたてながら私の目をと映っていく。
私は最初それが何か分からなかった。いや、分かりたくなかったんだと思う。
私の目の前には、転がった右腕と、胸から血を流しながら私にくれた一本の花を握りしめたお母さんがいた。
白い息を吐きながら、声も出さず、ただ一人でいた。
それを見た私は、声も出ず、膝から崩れ落ちることしか出来なかかった。
当たり前だ。ただの子供だったんだから。
どうこう出来る程、私はできていない。
重い足を無理やり動かしながら近ずくと、お母さんは明らかに誰かに斬られた跡があった。
魔法で斬られた痕じゃない。乱雑に斬られた汚い跡。
子供の私でもわかった。お母さんは殺されたんだと。
必死に叫んだよ。ただ叫んだ。
返ってきた返事は、手に流れてくる血と白い息だけだった。
血の香りが部屋へと広がっていき、吐きたくなるような口を抑えながらただ必死に、何かに怯えるように部屋の隅でわけも分からず、頭が痛くなるほど一人で泣いていたのを覚えている。
その時にお母さんが何か言っていた気もするが、そこからは意識がなかったのか、すっぽりと記憶が抜け落ちていて何も覚えていない。
お母さんが……死んだ。
死んだ死んだ死んだ死んだ死ん……
受け入れられない結末。
母親がいなくなる現実。子供にとって最悪の終着点だ。
頭がおかしくなる様な感覚に何度も襲われた。
そして、気づいた時にはお母さんの千切れていた腕を握りしめて、外に出ていた。
腕から流れ落ちる血が、積もり落ちた雪へと滲んでいくのをただ呆然と立ち尽くしながら見ていた。
そしてその血が雪に覆い隠され、また雪に血が流れていく。それの繰り返し。
感情なんて無い。ただ訳もなく寒い世界に立って見ていた。
・・・・・・こんな事はどうでもいいか。
ただ私が言えるのは、本当に酷い一日だった。
そして……─────────
「そして……、なんだったんだっけ……」
「……また昔のこと思い出してたの?朝からその暗い話題辞めなさいって言ったじゃない」
朝から過去にふけっていると、不意に後ろから声がする。
「あっ、アリス!おはよー!」
そこに居たのは、同級生のアリス・アスターがいた。華麗で、煌びやか。長い銀髪にスラッとした体型。
たまに口が悪いのが欠点だが何だかんだ優しいので、まさに完璧と呼べる人物だ。
そして、神の子供という秘密を唯一知っている同級生だ。
そんな彼女だが、どうせ私が学校に遅刻しない様に迎えに来たとかそんなんだろう。
「あんたが遅刻しないように迎えに来てあげたのよ。感謝しなさい」
ほら的中。大体アリスの考えている事は分かる。単純だからなこの子は。優しくて分かりやすい。
「何その笑顔……、キモイんだけど」
「いや、幸せだなぁ〜って思っただけ」
本当に私は幸せだ。
もう昔とは違う。今は幸せ過ぎるほど幸せだ。
多分……、これからもこの幸せが続くだろう
「それじゃ、学校行こっか!アリス!」
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