心ゆくままに
「フロイラインほら走れ!」
「いゃぁぁぁぁ!しぬぅぉゥぅぅぉぉぉォォォォオ!」
つかれた。何故こうなった……。
なぜ毎朝毎朝こうも……。
何故毎朝毎朝!走って学校に行かないと行けないのか。
一学生の疑問である。
走りすぎのせいか、頭に酸素が回っていないせいか考える部分がダメになってきている。
私たちは今学校へと向かって走っている訳だが、かれこれ二十分近く走ってまだ半分。迷宮かと思うくらい目的地につかない。
家からの道のりが遠すぎるんだよ。誰だよこんな遠くに作ったやつ。馬鹿だろ
「ねぇ、学校遠すぎない?家の前に建ててくれれば良かったのに」
「馬鹿なこと言ってないで、フロイラインが魔法を使えないからこうして一緒に走ってあげてるんでしょ!」
アリスとそんな馬鹿な言い合いしながら走って学校に向かっているが、朝からドタバタしたせいで走っても今日は登校時間に間に合いそうにない。
まあいつもの事だから、遅刻ぐらいもう別にどうでもいい気もするが。
そんな疲れてヘロヘロの私とは裏腹に、空からは笑い声が聞こえてくる。
上を見ると、まるで当たり前かのように学生達が次々と魔法で空を飛びながら学校へと向かっていっている。
空の風が気持ちよさそうに、なんの苦労もなく友人と喋りながら。
私は毎朝汗をかきながら向かって言っているというのにこの差はなんだ、この差は。
そんな事言うなら、お前も飛べよと言われそうだがそうもいかない。
なぜ走っているかなんて、私が聞きたいくらいだ。
そもそも、この街で魔法を使える方がおかしい。
この世界というものは皆魔法を使いながら生きている。
だが、魔法と言えば魔法だが、厳密には皆が使っている魔法と言っているものは自らが生まれてからもっているものでは無い。
ややこしいが、要するに貰い物の力だ。
魔法だ何だと言われるものは、神とその七燈によって与えられ使えるとされている。
神と七燈とは、なんぞやと言うそこのあなた。
神はなんか凄い人である。凄い人としか私は知らない。
昔お母さんから聞いた話では───
「神は時間と空間を作り、そこに土地を作り、そこに自らの血を使い七人の生きるものを生み出した。その七人こそが七燈と言われる今の時代まで生きている神の代行者。
神はその七人に国を作らせ、世界を繁栄させて行った。とさ──────────」
だそうだ。
神と七燈はつまり、なんか凄い人達だ。
そしてそのなんかすごい人達によって、魔法が使えている。
魔法というのは要するに、七燈がいるその国でしか使えないのだ。七燈が居る国から出ればそこからは魔法使いではなくただの一般人。
人間は、魔法以前に魔力すら持っていない。人間皆平等な人という訳だ。
それでだ、おかしいのだ。
この街で魔法を使えるということは。この国は神も七燈も居ない。
だが何故か、私以外の人達は皆魔法が使える。
飛んでいる学生達が全員七燈かなんかだった別だが、そんなものは恐怖でしかない。
まあ、こうして色々と文句を言っている私だが、魔法が使えないからと言って別に不満という訳では無い。
多少生活に関しては普通の人達より不便ではあるが、ただ不便と言うだけだ。
別に魔法が使えないからと言って私の人生にはあれこれ関わる訳ではないし、私は何事も自分でやりたいタチなので、むしろありがたいというものだ。
──────────そして一分後。
「あぁ!私死ぬぅ〜!ダメぇぇぇ!」
「うるさい!」
さっきのは前言撤回だ。魔法は使えた方がいい。
朝から走る奴は頭がおかしいのか?
こんな事を毎日とよく続けれる。
だが、まあ私は女の子なんだからこれが当然と言えば当然だ。
か弱い女の子って酷だな〜。
「…………あ〜、ホントに倒れる〜」
……普通に考えて、朝からダラダラと汗を垂らしながら、顔を歪ませながら走る女の子なんて見たくないだろう。
一部の人達には嬉しいかもしれないが、そうゆうのはダメなんだよ。
とにかくダメなんだよ女の子的に。
「そゆことで!皆も朝は遅刻しないように時間を守るんだぞ!」
「……あんたは、一人で何言ってんのよ・・・」
こんな馬鹿な事を言っているうちに学校に着いた。
この町に唯一の学校。ザンドリッツ魔法学校だ。
お母さんが建てた学校で、お母さんの唯一残っているものだ。
大きな土地にでかでかと存在感を漂わせながらそびえ立ち、まさに学校というのにふさわしい外見と場所。
そんな、この学校は七ツの国から学生達が通う結構すごい学校である。
私の幼い頃、研究資金が足りなかったそうでお母さんはお金を落としてくれる人が欲しかったそうだ。言うなれば金づるだ。
いい方法がないかと考えた末お母さんが導き出した結果がこの学校だそう。
小さい頃、私がなんで学校なんか作ったのか聞いたところ、お母さん言わく、自分の名前だけは有名だから、「あれ?私の名前で学校作れば馬鹿な学生共が金落としてくれんじゃね!?」と思い作られたのがこの学校だ。
我がお母さんながら考えていることが結構な外道である。
だが、実際七ツの国から大勢の学生が集まっている事実があるんだ。何も文句が言えない・・・。
そんな学校だが、なんと今は門が閉まっているではないか。
「……今日って学校休みだっけ」
「普通に遅刻でしょ」
どうも私たちは遅刻したらしい。まぁそんな気はしていたが。
フロイライン達はその閉まっている門を、どうでもいいかのように軽々と飛び越え中へと入っていく。
この学校は元々は私のお母さんのものなのだから、私のものと言ってもいいものだ。なので勝手に入っても悪いということはない。
自分の城に入るのに裏口から入らねばならぬ理由があるかと言うやつだ。
─────
息を荒くしながら階段を上っていき、急いで教室の目の前へときた。
嫌な予感がするがここで立ち止まっても意味が無いのでドアに手をかけガラガラと音が鳴り響かせながらドアが開けていく。
「フロイラインさん、アリスさんおはようございます」
「・・・・・・教室間違えました〜。失礼しますぅ・・・・・・」
「合ってますよフロイラインさん」
「ですよね〜・・・・・・」
やっぱりだ。
フロイライン達は、教室のドアを開けるないなや背筋が凍るような声で話しかけられた。
「お、おはようございますカイル先生・・・」
目の前には私たちに魔法学を教えているカイル先生がいた。
めんどくさい事になった。
完全に忘れていた。朝から忙しくて、魔法学の授業があった事を抜かしていた。
──────目の前に立っているのは、カイル・バーン・ライデリック
カイル先生はうるさいことで有名で学生たちの間で、鬼だのなんだのと言われている評判が良いんだか悪いんだかよく分からない、よくトランペットを吹いてる先生だ。
カイル先生と言えば、という話がいくつもある。
この前、この学校の不良達が町で窃盗をした時真っ先にカイル先生が向かい、翌日には不良達全員がガリ勉君になっていた。
後、2,3人は膝が45度逆に曲がっていた気がする。
私も遅刻のせいで何度も捕まって、色々と面倒な事になった時、「反省文or反省文」という、理不尽極まりないもの貰ったことだってある。
遅刻をする方も悪いが、それにしてもやりすぎなとこがあるというのがカイル先生だ。
生徒の事を一番に思っているが、悪い事をすれば生徒でも容赦なく直すという先生である。
俗に言う堅物先生だ。
私はこういう先生嫌いじゃない。生徒をよく見ていてくれるから。
でも、反省文50枚だけはやめてくれ。あれ普通に吐くほどキツイから。
そして、そんな私は案外嫌いじゃない先生に絶賛叱られている。
そんな怒られる私が気になるのか、クラスメイト達がこちらをチラチラと横目で見ている。
クラスメイトたちよ。そんな哀れな目で見るなら助けてくれてもいいんじゃないか。
いや、今更文句を言える立場では無いか。ここは素直に罰を受けるとしよう。
そう思い、フロイラインは手を前に構え戦闘態勢をとった。
そう、フロイラインは素直に罰を受ける気など毛頭ない!
どうせ罰を受けるなら、いっそ私もやってやろうの精神だ。それで、いつもカイル先生に立ち向かっている。
あと私はカイル先生の事をボコボコにしてみたいからだ。嫌いじゃないとはいえ、よくお世話になってるからだ。
決して、私怨では無い。ボコボコにしたいだけだ。
まあ、それで勝ったことは一度たりともなく頭を床につけた記憶しかないが。
何度も挑んでいるが、この人に勝てる想像が一つも見えない。
そして、そんなフロイラインの姿を横目で見ているアリスはなんでこんな子と友達やっているんだろうと考え、ただ呆れていた。
「……カイル先生座っていいですか?」
「はい、早く座ってください」
ざわついている教室で一人カイル先生へとアリスがそう言うとフロイラインを無視して自分の席へと向かっていった。
教室が一瞬静まり返った。
フロイラインも何が起こったか分からず無意識に手を下ろした。
「なんっ……だと……!」
私は何が起こったか一瞬分からなかった。
クラスメイト達も何が起こったかわかっていない。
今日は、天変地異でも起こるらしい。
あのカイル先生がなんのお咎めもなく生徒を席へと向かわした。あの鬼と呼ばれるカイル先生がだ。
しばらく待っても何も起きない。
これ……、私も行っていいんだよね。アリスについて行っていいんだよね……。
とにかくだ、私が今日の学校で安心出来るのは確かだと思う。フロイラインはそう思うと何事も無かったかのように自分の席へと向かった。
「フロイラインさん」
「はい、なんでしょうか!」
「貴方はダメです」
「私の事嫌いなんですか?」
カイル先生がニコッと笑った
1秒後
フロイライン油断により瞬殺
カイル先生 win
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