長い旅時
日が落ちて来る頃人が少なくなった道を二人横に並んでいる中、フロイラインはミレアに頭をわちゃわちゃされながら説教されていた。
「…………あのホントまじ舐めた態度とってすいませんでした」
「許さんっ・・・!っていうのは嘘で、そんな畏まらないでさっきみたいに気楽に話してくれていいよ!私もそっちの方が楽しいしね。でも女の子なんだからもっと綺麗な言葉で!」
ミレアが七燈天だとはつゆ知らず、さっきまでの舐めた態度をしていた私を殴りたい。
今思えば七燈だと思う様子が多少なりともあったはず・・・、はずだ・・・。……いやないな。
未だに信じられない。
おちゃらけの明るい笑顔。適当な会話。まるで品格がない。
でも、この人がこの国で信頼されていることは街を、周りを見ればよく分かる。
彼女がそこに居れば街の人がに気さくに話しかけ、彼女がそこを通れば振り向く人全員が話しかける。
彼女が親しみやすいからじゃない。そこに信頼と尊敬があってこそ有るものと言える様に見える。
その姿は国の王と言ってもなんらおかしくない。
そんな事よりアリスが見つからない。
「……アリス見つからないですね」
「この国は広いからね。気長になが〜く辛抱に」
ミレアがそう言うが、一通りこの近くは見たはずだ。
だいぶ探しているが、時間がいくら経とうと見つかる気配がない。
こんなに広いから見つからないにせよ、何か情報ぐらいはあってもいいはずなのに──────
静寂が流れ、しばらく歩いていると二人は人気の無い道へと入っていく。
「君は国と国民どっちが大事だと思う?」
二人横に歩きながら静寂が広がり続ける中、いきなりこんな事を言われた。
「なんで、そう急に訳の分からない質問をするんですか。一国民でもない私がアドバイス出来ることなんて何一つないですよ。ましてや七燈のあなたに」
「大丈夫。君の意見が聞かせて欲しいだけだから」
ミレアはニコッと顔をしながらフロイラインへと質問する。
「まー、それだったら国民じゃないですかね。人が居れば国なんてものはいくらでも作れますよ。人がいて人は成り立ちますから。中途半端が一番ダメです。誰にも愛されなくなったらその人はそこで終わり、国も人も何もかもなくなってしまうから」
私はよく分からない質問にそう言い放った。
それを聞いたミレアは「これは、重症だねぇ・・・」と訳の分からない事を言った後に、私の手を握ってきた。
「うわぁ、なんですか」
「いいから、手ぐらい繋いでて」
いきなりでびっくりしたが、繋いでいていいと言うので文字どうり私は甘えることにした。
フロイラインはぎゅっとミレアの手を握った。
誰かに握られるなんて久しぶりだ。
だが、不思議と嫌じゃない。
とても暖かい。握れば握るほど悲しくなるくらいに。
「そんな難しい顔しないでよ〜。君の表情を見てると思い出すよ……」
「何をですか?」
「君の母親のことだよ」
「・・・えっ?」
「すっごい似てる。困った顔も笑い方も全部、まるで同じみたいに」
私が難しい顔をしているといきなりそんな事を言われた。
何を言っているんだ……?
「君の母親はねぇ、昔は色々と可愛かったんだよ〜!もー、人懐っこて──────────」
「ちょっと・・・!」
「でも、たまによくわかんないこと喋って、口が悪くて変な人で。でもでも可愛くてっ・・・!」
「ちょっと待ってください!どうゆうことですか!?なんで私のお母さんが今出てくるんですか」
「なんだい?どうもこうも、私はあの人に昔色々とお世話になったからね」
お母さんがミレアさんと知り合い?私は一度もそんな事は知らない。聞いたことすらない。
ましてや、七燈天と交友があれば一度くらいは耳にしてもおかしくないはずなのに。
「それで、今母親は元気かい?」
「お母さんは・・・、私が幼い頃に死にました。小さい時誰か──────────」
「知ってるよ。だって私が殺したからね」
私の言葉を遮ってミレアはそう言った。二人の空気が止まった。
「何……冗談ゆってるんですか……?」
「私が君に何も無いのに近ずくと思うかい?この私が一般人の馬鹿な君に」
笑顔の奥に、ヘラヘラと馬鹿にしたような目。
「それ以上は怒りますよ……」
「すまないねぇ、あの時は色々と時間がなかったんだ。雪の中ひとりで寂しかったでしょ。今でも君のお母さんから貰った花は持ってるのかな?」
彼女はそう、一本の花を取り出しにたにたと純粋な笑顔で言った。
「ねっ、フロイラインちゃん!」
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