勇者召喚に巻き込まれた霊能力者 国のお金で自由気ままにスローライフ
桜田
第1話 霊能力者、殺傷事件を目撃する。
「ちょっと仁志聞いてるの!」
「あ、うん」
道路の真ん中で高校生ぐらいの若い男女が喧嘩をしていた。
あそこ通りたくないな。そう思いながら、杉村煌希(すぎむら こうき)は男女に気づかれないように道路の端を歩く。仕事で三日間の徹夜明けには真上で輝く真夏の太陽が堪える。高校の夏休みを利用して稼ごうと思ったが、いささか仕事を詰め込みすぎた。
「で! あいつらと私、どっちを取るの!」
「えっと……」
「何でそこですぐに答えないの!」
段々と喧嘩が白熱していく。
煌希がそばを通るときには女性が、仁志と呼ばれた男性を殴り始める。拳を握って的確に頬を打ち抜く。倒れた仁志に追い打ちをかけるように蹴り始める。
ちょッ! 昼間にあんな喧嘩を道ばたでするなよ!
煌希は横目でチラチラと見ながら通り過ぎようとした時、女性が持っていた鞄から包丁を取り出す。
「死ねぇぇぇえええ!」
女性は、倒れている仁志の首を包丁で刺す。すぐに抜き、女性は去っていった。
呆然とする煌希。
「ちょ! えー!」
数秒の後、煌希は悲鳴を上げると、血を流している仁志の元へと駆けつける。
「大丈夫!」
「……う、あ……」
仁志はうめき声を漏らす。
煌希はすぐに手で仁志の傷を押さえる。空いた手でスマートフォンを取り出し、救急車を呼ぼうとした時、うめき声を漏らしている仁志の体が光り始めた。
「今度は何!」
煌希は離れようとしたが、手を離すと血が流れ出すので離れることが出来ない。
仁志を包む光は段々と強さを増し、光は傷口を押さえている煌希の手を上り、体を包む。
次の瞬間、二人の姿が消えた。
煌希の視界が一瞬にして変わった。教室ぐらいの大きさの部屋は薄暗く、煉瓦の壁に掛けられているランプの明かりが室内を照らす。先ほどまで感じた夏の暑さはなく、半袖の煌希にはやや肌寒い。
「な! どこここ!」
煌希が辺りを見渡していると、後ろから声がかかる。
「●■●▲▼★」
理解できない言葉に振り向くと、十人の人がいた。煌希よりやや年上のドレスを着た女性を筆頭にして、後ろにローブや鎧を着た人たちがいる。
「鎧?」
現代日本ではまず見ない格好に、煌希は首を傾げる。
「うッ……う」
仁志のうめき声を聞いて、煌希は傷口を押さえている事を思い出した。
ドレスの女性もそれを聞いたのだろう。体をずらして煌希の後ろにいる血を流している仁志を見て顔を強張らせる。女性は後ろにいるローブの人物に一言言う。
ローブの人物が頭を下げると、煌希たちの所へ小走りでやってくる。
「医者ですか!?」
煌希の言葉を無視して、ローブの人物は血を出している仁志に向けて手を構える。
「●■▼」
ローブの人物が一言言う。そして、元の場所に戻る。
煌希は気づく。押さえている所から血が流れなくなっている。
仁志は目を勢いよく開けると、上半身を起こす。
「あれ? 痛くない」
仁志は刺された首を触る。
「怪我がない」
「は?」
仁志の言葉に、煌希は怪我があった場所を見る。血でよく見えないが、血が出ていない所を見ると、塞がっているのだろう。
「え、何で。俺刺されたよな……」
仁志は、煌希と周りの様子に気づく。
「ここ、どこ? あれ、君は?」
「さあ? 俺は君が刺されたのを見て、近づいたらこんな所にいた」
煌希の言葉に、仁志は首を傾げる。
「■●★■■★●■■★●■●★■■★●■■★●■」
先頭にいた女性が一歩踏み出してなにやら言う。
煌希と仁志は、意味の分からない言葉に眉をしかめる。
それを見た女性は後ろにいる人に一言言う。言われた人は、手に持ったお盆を差し出す。女性はお盆から指輪を二つ取る。
女性は煌希たちの前に来ると、手を差し出す。
「何これ」
仁志が手をのぞき込み言う。
女性は指輪を一つ手に取ると、仁志の手を取り指輪をはめる。
「●■▼★▲●●■▼」
「何言ってるか分かる!」
仁志は驚いて女性の顔をまじまじと見る。
が、煌希は変わらず女性が何言ってるか分からない。
女性はもう一つの指輪を取ると、煌希の指にはめる。
「私の言葉が分かりますか?」
「え? 日本語? 何でいきなり言葉が分かるの?」
「よかった。二人とも私の言葉が分かるのですね。これは言葉が違う物同士が意思疎通を図る為の魔道具です」
女性は胸に手を当て、ほっと息を吐く。姿勢を正し、煌希と仁志に向け直る。
「ようこそいらっしゃいました勇者様。私は第一王女のフラニー・マドリガル です」
「勇者?」
「勇者キタァァァアアアア!」
首を傾げる煌希に対し、絶叫する仁志。
「勇者様。早速ですが、陛下に会っていただきます。詳しい話しはそこで」
「陛下キタァァァアアアア!」
またも絶叫する仁志。
何で嬉しそうなの?
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