第2話 霊能力者、異世界に困惑する。

「その前に、血で汚れた服を綺麗にします。クリーン」


 フラニーが言うと、煌希と仁志に付いていた血が消える。一瞬で、血が消えた。

 それを見て、煌希と仁志は目を丸くする。


「何をしたのこれ!? それと、何で彼の怪我がなくなってるの!?」


「魔法を使ったんですけど」


 煌希の言葉に、フラニーは不思議そうな顔をして首を傾げる。


「魔法?」


「魔法キタァァァアアアア!」


「ええ、魔法です。あなた達が暮らしている所では魔法を使う人がいなかったのですか? そういえば、その服装、見たことありませんけど、どの国の方ですか?」


「いや、俺の暮らしてた日本には魔法なんてなかってけど」


「そうですか。魔法が使える人がいない所ですか。でも、ニホンってどこの国ですか? マドリガルでは聞かない地名ですけど……」


 なんだろう、彼女と話しがかみ合わない。ってかマドリガルってどこの国だよ。


「ねえ、ここは俺に任せてくれないか。というか、俺が話した方がいいと思う」


 仁志が煌希の前に出る。


「初めまして。斉藤仁志です。聞きたいのですが、あなたは俺たちを召喚したということでいいですか?」


「ええ、そうです」


「そうですか。先ほど彼も言いましたが、俺たちは地球という世界の日本という国から来ました。そして、俺たちの住む世界には魔法という物が存在しません」


「はい? 魔法が存在しない? それにチキュウというのも聞いたことがないのですが……」


「俺たちは、この世界とは違う世界の住人です」


「違う、世界ですか? えっと、ちょっと意味が分からないんですけど」


「これを見てください」


 仁志はポケットからスマートフォンを取り出した。


「何ですかこれ?」


 フラニーは画面を見る。

 仁志は画面を操作する。


「! 絵が変わった」


「これでゲームなんかも出来ます」


 仁志はまた操作してゲームを起動する。


「凄い綺麗。しかも画面がずっと動いてる」


「これで、俺たちが異世界から来たと分かってくれましたか」


「ええ。こんなに凄いのは見たことも聞いたこともありません。本当に違う世界から来たのですね」


「フラニー様、よろしいでしょうか?」


「何かしら?」


 フラニーの後ろに控えていた鎧の女性が一歩前に出る。


「二千年ほど前に異世界の人物が召喚されたという記述を読んだことがあります」


「そうですか。あなたはこのことを伝えに行ってください」


 フラニーの言葉に鎧の女性は頷くと、部屋を出て行った。


「あの、あなた方が異世界から来たのは分かりました。詳しい話しはこの城の謁見の間でしますので、案内します。こちらへ」


 フラニーの後を、煌希と仁志はついて行く。


 部屋を出ると、広い廊下だった。人が五人横に並んでも余裕で歩けるほど広く、絨毯の毛は長い。窓から見える風景は日本では絶対見ることができないものだった。

 月が二つ。


「本当に異世界なのか。しかも、夜になってるし」


 煌希は二つの月を見て呟く。


「信じてなかったの?」


「そりゃそうだよ。というかあんたよく平然としてるな。ってか嬉しそうだな」


「異世界だよ。魔法だよ。勇者だよ。これでテンションが上がらない方がおかしいよ」


 仁志は笑顔で言う。

 テンションが上がらない俺はおかしいのだろうか、と煌希は首を傾げる。


「そういえば、君の名前は。俺は斉藤仁志」


「杉村煌希だ。よろしく」


 自己紹介が終わった時、目的地へ着いた。大きな扉の横には鎧を着た人が左右に一人ずついる。


「こちらが謁見の間です。では中へ」


「ちょっと待って。俺たちどんな態度でいればいいの?」


「斉藤様たちは普段通りで構いません。これは非公式なので緊張しなくてもいいですよ」


 そう言ってフラニーは扉の横の鎧の人に目配せをする。鎧を着た人は扉を開けた。


「杉村君。とりあえず俺が話しをするよ」


「ああ、お願いする」


 フラニーが中に入り、続いて仁志と煌希が入っていく。

 圧巻だった。豪華絢爛という言葉が似合うような部屋だった。左右の壁には部屋によく合う服を着た人が並んでいる。その奥。数段の階段の上に大きな椅子があり、そこには左右の人たちよりさらに豪華な服を着た初老の男が座っていた。

 フラニーの後に続いて、煌希たちは階段の手前まで来る。


「お連れしました」


 フラニーは頭を下げると、煌希たちを置いて横の列の先頭に立つ。


「この国の王のリーゼ・マドリガルだ。話しは聞いておる。お主たちが、異世界から来た人物か?」


「そうです。斉藤仁志です。こちらが杉村煌希です」


 仁志が言う。

 煌希はどうしていいのか分からず、とりあえず頭を下げておく。


「何も分かっていないと思うから簡単に説明する。この度、お主たちを召喚したのはその力を使ってこれから生まれる魔王を倒して欲しいからだ」


「分かりました。俺たちの力が役に立つなら協力しましょう」


 チョッ! えぇぇぇえええ! 何言ってるのこの人!


「おお! そうか、協力してくれるか。この世界中のあらゆる国がお主たちに協力する! 是非とも魔王を倒してくれ!」


「必ず!」


 仁志は誇らしげに頷く。

 王や、横に並んでいる人全員が歓声を上げる。中には涙を流している人までいる。謁見の間は歓喜とすすり泣く声で満たされる。

 この中で、やりません、なんて言えない。


「それで、お主たちのどちらが勇者なのかな?」


「え?」


 仁志の表情が固まる。


「俺たち二人とも勇者じゃないんですか?」


「過去、勇者は一名しか召喚されていない。たまに勇者に巻き込まれて来る者

がいるが、勇者は一人だ」


「……それはどんな方法で分かるんでしょうか?」


「魔法の適正を見れば分かる。水晶をここに」


 マドリガル王が言うと、横の列から水晶を持った老人が出てくる。


「召喚された勇者はその時点から光属性の魔法が使えるようになる。この水晶に手を置くと魔法の適正が分かるようになっていてな。光属性は白く光る。白く光ればその者が勇者だ。手を載せてみてくれ」


 老人は水晶を煌希の前に出す。

 煌希は恐る恐る水晶に手を載せる。


「光ってないですね」


「一つも光らないとは。お主には魔力がないということか。残念だな」


 首を傾げる煌希に、老人が申し訳なさそうに言う。

 申し訳なさそうに言われても、煌希としては魔力がなくてもどうとも思わないのでどうでもいい。

 煌希が勇者じゃないと分かると、仁志は誰から見ても分かるほど嬉しそうに笑みを浮かべている。

 老人は仁志の前に水晶を差し出す。

 仁志は躊躇することなく水晶に手を置く。

 水晶が八色の輝きを放つ。


「おお! 勇者様は光だけではなくすべての属性を使えるようですね! しかもこの光の強さ。今まで見たことのない魔力の量です」


「それは凄いな。さすが勇者だ」


 老人とマドリガル王の賞賛の声。それに続いて部屋中から拍手の嵐。

 それに照れながらも嬉しそうに応える仁志は誇らしげだ。


「聞くと、そちらの世界には魔法がないと聞く。勇者には魔王が現れるまでに魔法の使い方をマスターしてもらう」


「はい! 必ず魔王を倒して見せます!」


「うむ。すばらしい。それと、スギムラ殿についてだが、魔王を倒すという心意気は良いが、魔力を持たぬ者を魔王討伐に連れて行くことは出来ない。申し訳ないが分かってくれ」


 魔力なくて最高! と思っていても顔には出さず、煌希は神妙な顔をして頷く。


「お前の意志は俺が持っていく」


 仁志は煌希の肩を叩く。

 俺のどんな意志を持っていくんだよ!


「ああ。任せた」


 煌希は本音を隠して言う。

 仁志は歯を見せるように笑みを浮かべる。

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