第3話 霊能力者、洗礼を受ける。

「スギムラ殿の生活は我が国が死ぬまで保証する」


「生活ですか? あの、それよりも元の世界に帰して欲しいんですけど」


「ううむ……。申し訳ないが、それは出来ない」


「え! 帰れないんですか!?」


「召喚の魔法は一方通行なんだ。召喚は出来ても、元の場所に送ることは出来ない。前回異世界から来た勇者も、魔王を倒した後はこの世界で暮らした」


「そん、な……」


 煌希は肩を落とし、日本での生活を思い出す。お寺に軟禁され、友達も出来なかった子供時代。中学校に入ってからは借金を返すために仕事漬けの日々。

 あれ? 別に何の未練もないのか。っていうか借金もなくなるし、生活も保障してくれるのならこっちの方がいいのか。


「……帰れないのなら仕方ありませんね。でもいいのですか、俺は魔王を倒しませんよ」


「勝手に召喚してしまったのは申し訳ない。そのお詫びに二人の生活は一生国が保証する。元々、召喚された勇者とその家族には死ぬまで生活を保障するようにしているのだ。魔王を倒してくれるのだから、そのぐらいはさせてもらう」


「ありがとうございます」


 煌希は頭を下げる。


「二人には明日からこの世界の事や戦い方を学んでもらう。勇者はもちろんだが、スギムラ殿にも最低限のことは学んでもらいたい。休んでもらう前に、これから洗礼を受けてもらう」


「洗礼ですか?」


「この世界では洗礼を受けるとそれ以降その者が持つ力によってスキルを得る事が出来る。そのスキルによって特殊な能力を得たり力などを上げることが出来るのだ」


「スキルキタァァァアアアア!」


 仁志が絶叫する。

 マドリガル王は仁志の声に驚くが、すぐに元の顔に戻る。


「アンイ教皇、お願いする」


 右の列から白いローブを着た老人が歩いてくる。白いローブには金糸で精巧なデザインが刺繍されている。


「初めまして勇者様、スギムラ殿。これからお二人にはイアン様の祝福を受けて貰います。目を瞑ってください」


 煌希と仁志は目を瞑る。


「ここにいる者たちにイアン様の祝福あれ。終わりました」


 終わりかよ! 洗礼ってこんなもんなの。

 アンイ教皇は一礼して元の場所に戻る。


「では、ステータスと心の中で念じてみてくだされ」


 マドリガル王の言葉に、煌希はステータスと念じる。すると、目の前に青い半透明の画面が出てきた。


「おお! 画面が出てきた!」


 仁志が叫ぶ所を見ると、煌希と同じように画面が現れたのだろう。


「ステータスには名前年齢レベル、持っているスキルが表示されている。確認できるか」


「はい」


「ええ」


「そこに書かれているスキルだが、よほど信頼している人以外には教えない方がいい。スキルはその人物の能力を端的に表すものがほとんどだ。それをしればその人物の戦い方が分かってしまうからな。まあ、洗礼を受けたばかりなのでスキルはないと思うがな」


「確かに、スキルはないですね」


 仁志が視線を上下に動かして言う。


 煌希も画面を見る。上から、名前、年齢、レベル、スキルの順で表示されている。


*   *    *


名前:杉村煌希

年齢:16

レベル:10

スキル:魔力操作


*   *    *



 スキルを見ると、一つだけ表示されている。

 魔力操作。


「すいません。俺のスキルに魔力操作というものがあるんですが」


「なんと。スギムラ殿はスキルを持っているのか」


 マドリガル王は驚いた声を上げる。

 なぜか、仁志が煌希を見て悔しそうに唇を噛んでいる。

 なぜ、君は悔しそうな顔をしているんですか。


「希にだが、洗礼時にスキルを授かっている者がいる。スギムラ殿は運がいい。……のだが、魔力のないスギムラ殿に魔力操作か。残念だが、無駄スキルだな」


「そうですか」


「がっかりするな」


 仁志は煌希の肩を叩く。その顔は先ほどまでと違い、とても清々しい。


「では、今日は部屋を用意するからゆっくり休んでくれ。明日からさっそく学んで貰う」


 王との謁見は終わった。

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