第4話 霊能力者、守護霊と話す。
煌希はメイドに連れられて城の中を五分ほど歩いた所にある客室にいた。煌希がメイドで連想するのは秋葉のメイド喫茶のような格好だったが、この世界のメイドは地味だった。足下まで隠すスカートに、胸元はおろか腕さえも服で隠していた。
客室は、日本でホテルの除霊をした時泊まったスウィートルーム並みに豪華だった。二十畳ほどある部屋の天井には煌びやかなシャンデリアがあり、壁には城が書かれた絵画がかけてある。調度品も見ただけで品があるのが分かる。さらに、トイレとお風呂が完備されている。そして、天蓋付きベッド。
「なんかお姫様が寝るようなベッドだな」
思わず口に出る。
現在、部屋には煌希一人だ。ここまで案内してくれたメイドは食事を取りに行ってくれている。煌希のお腹の鳴る音を聞いて、気を利かせてくれた。部屋にかけられている時計を見ると、針は九時を指している。意外なことに、この世界の時間は地球と同じようだ。六十秒で一分、六十分で一時間、二十四時間で一日。
煌希は部屋の中央にあるソファーに座る。このソファーも程よい座り心地で、何時間座っても体が痛くなることはないだろう。
煌希は霊力を操作して、幽霊を見えるようにする。
「栞、いる?」
『ここにいます』
煌希の体の中から半透明の人物が現れた。肩まで伸びた黒髪に整った顔立ち。年齢は煌希よりやや年上に見える。来ている服は黒ずくめでどこか忍者を思わせる。実際、栞は生きている時は忍者だった。くノ一だ。
「よかった。栞も一緒に来たんだ」
『私は煌希の守護霊なので当然です』
煌希は霊力があるせいで物心付いたときから幽霊が見えていた。幽霊が見える煌希は親に捨てられ、寺に拾われた。寺では霊力を操る訓練をさせられていた。しかも、その訓練費を請求され、それを払うために寺にこき使われていた。異世界に巻き込まれたのも、寺の仕事帰りだった。
『これからどうするの?』
「まあ、地球に帰れないし、ここで生活するしかないでしょ。幸い、国が死ぬまで生活を保障してくれるし。それだけ見れば日本よりましだしね」
『煌希がそれでいいなら』
「付き合わせて悪いな」
『気にしないで。煌希がいる所が私の居場所です』
「ありがとう。それじゃ、早速で悪いんだけど、俺の安全がちゃんと保障されるか出来る範囲でいいから調査してきてくれない。斉藤君がいる間は安全だろうけど、彼が魔王を倒しに行った後、ちゃんと保障されるか知りたい」
『分かりました。その手のことは得意なので』
栞は空中を滑るように移動して、壁をすり抜けて出て行った。
見届けた後、煌希は霊力を体の奥深くにしまい、幽霊を見えなくする。
ドアがノックされた。
「お食事を持ってきました」
ドアが開き、煌希を案内してくれたメイドが中に入ってくる。ホテルなんかで見るようなカートを押していて、その上に食事が載せてある。
「すぐに準備しますのでお待ちください。解除」
メイドは煌希に言うと、カートの上に手をかざして呟く。
すると、部屋に料理の匂いが漂い、煌希の胃を刺激する。
「ねえ、急に匂いがしたけど、何かしたんですか?」
「料理を保護している魔法を解除したのです」
「料理に魔法? 何で?」
「料理が冷めないように、埃が入らないように魔法を使ってたのです」
「へえ~。便利だね」
「メイドの必須魔法です」
メイドは煌希の前にあるテーブルに料理を並べていく。
異世界なので不安だったが、料理は至って普通だった。サラダにスープにステーキ、デザートにシャーベットまであった。
「これ、何のシャーベットですか?」
「それはこちらの世界ではアイスと呼ばれている物です。アッポロという一般的な果物で作った物です。ジュースもアッポロで作っております。ステーキは牛の肉です。サラダは城が管理する畑で採れた物を使用しております」
メイドは、煌希が異世界から来たということを知っているようで、丁寧に説明している。
「何かお聞きしたいことはありますか?」
「今は大丈夫です。ありがとう、えっと……」
「ハナです」
「ありがとうハナさん」
「では、ごゆっくり。ご用でしたら、こちらのベルを鳴らしてください」
テーブルに置かれているベルを指差す。ハナは一礼して、部屋から出て行った。
煌希はハナが出て行くのを確認してから、料理を食べ始める。幸いにも、スプーンやフォークがあり、苦労しなくて済む。
料理は絶品だった。一度、仕事のお礼に連れて行って貰った高級料理店の味に匹敵する。ステーキは日本と同じで、野菜も特に変わらない味だった。アッポロはリンゴに似ていた。
もうアップルにすればいいのに!
「これなら食事は平気だな」
食べ終わって、アッポロのジュースを飲んでいると扉がノックされた。
「お皿を取りに来ました」
ハナが入ってきた。
「……よく、俺が食べ終わったって分かったね」
「メイドですから」
メイド凄い! ってかちょっと怖い! もしかして部屋監視されてる?
ハナはすべての食器をカートに乗せると、水差しとコップをテーブルに置く。
「お風呂はどうしましょうか。必要なら用意しますが」
「あ~、お願い出来ます」
「かしこまりました」
ハナは一礼してバスルームに入っていった。十数秒後、出てきた。
「ご用意出来ました。こちらへどうぞ」
「ずいぶん早いですね。さっき見たときは空っぽだったのに」
「これも魔法です。メイドの必須魔法です」
魔法って便利。
「着替えは、脱衣所にご用意させていただきました。脱いだお洋服は脱衣所入り口にある籠に入れていただければ明日、回収して洗濯して夕方にはお返しします」
「ありがとうございます。お風呂を出たら、そのままでいいんですか?」
「結構です。あのお風呂は一定時間人がいないとお湯を排出してくれるので」
異世界って凄い!
「お風呂の後は、このままお休みにされますか?」
「ええ」
「では、明日、七時に起こしに参ります」
ハナは一礼して部屋から出て行った。
食べてすぐお風呂に入るのはどうかと思ったが、まともに三日寝てないし、異世界に来るなど、色々と疲れがある。
とっとと風呂入って寝よう。
「その前に、持ち物のチェックだけするか」
煌希はポケットに入っている物を取り出す。煌希の場合、仕事に必要な持ち物はないので、必要な物だけをポケットに入れている。
テーブルの上に、財布、スマートフォン、ハンカチを置く。
財布の中身はお札に小銭、数枚の会員カードが入っている。こちらの世界では使い道がないだろう。
スマートフォンは動くが、電波は入らない。すぐにバッテリーが切れると思うのでこれも使い道がない。
ハンカチは使えるが、どうでもいい。
「異世界で役に立つ物がない」
当たり前か。異世界にくるなんて思ってなかったし。
煌希はとりあえず出した物をベッドのそばにある箱に入れておく。ダイアルの鍵がついているので、おそらく、荷物入れだろう。
脱衣所に入る。
「広い……」
煌希が住んでいる部屋より広い。右には棚があり、着替えが置いてある。正面には扉があり、お風呂場に繋がっているのだろう。
「なんか、虚しくなるな」
お風呂場に入ってさらに虚しくなった。
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