第5話 霊能力者、メイドに起こされる。

 煌希は、風呂から出て水を飲んでいる。ハナが部屋から出て行く時に置いていった水だが、冷蔵庫から出した物の様に冷たい。煌希が今着ているのは、パジャマだった。肌触りの良い布でゆったりとしたサイズで着心地がよい。


「まだ冷たいのも、魔法なのかな」


 日本より異世界の方が進んでいるな。

 煌希はコップの水をすべて飲み干すと、トイレに行く。意外な事に、洋式で水洗だった。ちゃんと水を流すレバーもついていた。

 トイレから出るとベッドに乗っかる。中央までハイハイの様に進むと、枕に頭を埋める。

 凄い寝心地が良い。

 このまま寝てしまいそうになった時、声がかけられた。


『煌希、起きてますか?』


「栞か。起きてるよ」


 煌希は上半身を起こし、霊力を操作して栞の姿を見る。栞は、ベッドの横に立っている。


「お疲れ様。それで、どうだった?」


『王たちが話しているのを盗み聞きましたが、魔王を倒すと宣言した煌希は好印象なようです。早速、煌希のこれからの生活についても話してましたので、安全は保障されると思います』


「あれ、俺は全く関係ないんだけどな。まあ、それのおかげで助かったのか」


『そうですね。皆、煌希の事を勇気ある若者として褒めてました』


「それなら、この世界での安全は保障された様なものか。ありがとう栞。俺はもう寝るから、好きにしてて」


『それじゃ、この城の周りを見てきます』


「分かった。お休み」


『お休み、煌希』


 煌希は異世界生活初日を終えた。


*   *    *   *   *    *


「お時間になりました。起きてください」


 女性の声に、煌希は目を開ける。


「おはようございます。着替えの服は脱衣所にご用意しておりますので、そちらにお着替え下さい。桶には顔を洗うための水とタオルも用意しておりますのでお使いください」


 メイドのハナは柔らかく微笑む。昨日と同じでキッチリと肌を隠している。

 煌希は目をこすりながらベッドから這い出ると、大きく伸びをする。美人のメイドさんに起こされただけで気分がいい。


「おはようございますハナさん」


「スギムラ様は卵はどうしましょうか?」


「卵あるんだ。それじゃ、目玉焼きで」


「かしこまりました」


 ハナはテーブルの横にあるカートに行くと、フライパンに卵を割って落とす。ジュー、と音がして卵を熱する。


「ハナさん。火がないけど、それも魔法なの?」


「正確には魔道具です。このフライパンがそうです」


「へえ~。火が必要ないなんて便利だね」


「便利ですけど、魔道具は基本高いので、持っている人は限られてますね。このフライパンも、買うとなれば私の給料半年分しますね。お城勤めの私の給料でこれなので、一般の人はまず買うことすら考えもしないでしょうね」


「魔道具って高いんですね」


「安い物もありますが、それでもいい値段しますね。もう少しで出来上がるので、お待ちください」


「それじゃ、着替えてきます」


 煌希は脱衣所に入る。煌希はまず台の上に置いてある桶の水で顔を洗う。いつもの癖で髪を整えようとしたら、鏡がないのに気がついた。

 鏡はないのか、そういえば歯磨きもないな。しょうがないので桶の水で口をゆすぐ。

 煌希は手櫛で髪を整えると、着替え始める。脱いだ服は昨日と同じように入り口横の籠に入れる。籠には昨日入れた服はすでにない。

 着替えの服を手に取る。パジャマと同じように手触りがよい。広げてみると、以前見たロミオとジュリエットの劇で偉い人が着ていたような服だった。鏡がないので分からないが、日本人がこれを着ていたら似合わないと分かる。着替えがこれしかないので、どうしようもない。

 脱衣所を出ると、肉の焼けるいい匂いがした。


「よくお似合いですスギムラ様」


「ありがとう」


 ハナのお世辞に返事して、テーブルの前に座る。

 メニューは目玉焼きにベーコンにサラダ、パン。パンはロールパンだった。

 どれも美味しかったので、残さず食べる。


「この後の予定ですが、八時から勉強をしてもらいます」


 煌希が食べ終わったのを見計らって、ハナが予定を告げる。


「何の勉強をするんですか?」


「午前はこの世界について。午後はスキルと魔法について学んでいただきます」


「分かりました。もう行きます?」


 煌希は時計を見る。時刻は七時半。


「四十五分に出れば十分間に合いますので、時間になりましたら呼びに来ます」


 ハナは食器を片付けて、カートを押して部屋を出て行った。

 片付けるついでに送っていけばいいのに、と煌希は思ったがメイドも色々と仕事があるだろうから黙っていた。


『おはようございます、煌希』


「おはよう、栞」


 煌希は栞の姿を見る。幽霊だから昨日と全く同じ姿の女性がいた。


「城の周りはどうだった?」


『街を一通り見てきましたけど、日本と比べて遅れてますね。道路は整備されていますけど、街灯はなく、信号もありませんでした。馬車が沢山あったので、それが車の代わりになっていると思います。家の中は見ていないので分からないですね』


「へー、それじゃ歴史が残る海外みたいな所なんだ」


『街の外観はそんな感じでした。でも、魔法がある世界なので、どのような発達をしているか分からないですね』


「その辺はこれから勉強すればいいでしょ。その勉強は栞も聞いていてね」


『分かってます。この世界の事を知らないと煌希に危機が迫ってるかどうか分からないですからね』


 栞は煌希の体の中に入っていく。守護霊は守護する人の中が心地よいらしく、用がない時は守護する人の中に入っている。栞も例に漏れず、煌希の中が心地よいらしい。

 椅子に座ってのんびりしていると、ドアがノックされた。時計を見ると、時間になっていた。

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