第16話 霊能力者、トレシアと話す。
部屋に入ると、天井に幽霊が消えていく所だった。
「栞、後を追ってくれ」
『分かりました』
煌希は部屋を出て二階に行く。
『ちょっと待ってください。こちらの話しを聞いてください』
階段の近くにある部屋から栞の声が聞こえる。煌希はドアを開けて部屋に入る。
悲鳴を上げながら逃げる幽霊を、栞が追いかけていた。
幽霊は煌希を見てさらに大きな悲鳴を上げる。あまりに大きな悲鳴に煌希は顔をしかめる。
栞は幽霊が壁を抜けてどこかに行かないように、上手く誘導している。煌希は栞の動きに合わせて、幽霊が逃げる方へ先回りする。
『ぎゃぁぁぁあああ! 人間がいる!』
正面にいる煌希に気づいた幽霊は、慌てて逃げる方向を変える。
煌希は、幽霊がスピードを落とした瞬間を見逃さない。煌希は右手を伸ばし、幽霊の腕を掴むと、全力で引っ張り、床に転がす。
『触られたぁぁぁあああ! 何で! 何で! なぁあんでー!』
煌希は、逃れようと暴れる幽霊の肩を押さえる。
「落ち着け!」
『殺される!』
「お前死んでるだろうが」
暴れる幽霊を押さえ続けること十五分。疲れたのか幽霊が大人しくなる。
「落ち着いたか?」
煌希の言葉に、幽霊は頷く。
「俺たちはお前が何もしなければ何もしない。じゃあ、放すぞ」
煌希は幽霊を押さえている手を離す。
幽霊はゆっくりと起きあがり、煌希と栞から距離を取る。
「俺は杉村煌希。隣にいるのが栞だ」
『栞です』
栞が礼をする。
『私はトレシア・セヴラン。あなた、生きてます?』
トレシアは、煌希の全身を凝視する。
「生きてるよ」
この手の質問は日本で何度も幽霊たちにされたので煌希は慣れている。
「俺が幽霊を見たり触れるのは能力のおかげだ。俺の世界では霊力と呼ばれていた」
『霊力? そんなの聞いたことがないけど。私が死んでいる間に出来た魔法?』
「違う。俺の世界ではそう言われている」
『俺の世界?』
「俺はこの世界とは違う世界から来たんだよ」
『は? 違う世界?』
トレシアは間抜けに口を開けている。
「そ。勇者召喚に巻き込まれたんだよ」
『異世界の勇者。そういえば、昔に異世界から勇者が来たことがあったと本に書いてあったな。あれって本当だったんだ』
トレシアは再度、煌希をじっくりと見る。
『異世界の割に私たちを姿は変わらないわね』
「まあね。それより、この屋敷で悲鳴や泣き声で人を驚かしている幽霊って君?」
『なにそれ。私、人を驚かしてなんかないわよ』
「それじゃ、ここに他の幽霊はいる?」
『いないわよ。ずっと私一人』
トレシアは俯く。
それを見た煌希は、彼女がぼっちだと思い出す。
「それじゃ、最近泣いたり悲鳴を上げたりしたことある?」
『……ある』
トレシアは顔をしかめる。
煌希はそれを聞いて頷く。
時々、幽霊の感情が高ぶると意志とは関係なく生きている人や物に影響を及ぼすことがある。今回もそれが原因だろう。
「きっとそれだな。俺たちが来たのは冒険者ギルドで依頼を受けたからなんだ。この屋敷の怪現象を解決してくれって」
『……ああ、だから』
トレシアは納得したように頷く。
「なんか心当たりあるの?」
『うん。前に男が一人来て一晩泊まって去っていったことがあったの。よく思えば彼は武器や防具を身につけてた』
『その人も煌希と同じように依頼を受けて来たんですね。それで解決できなかったから報酬も上がったんですよ』
栞の言葉に、煌希は依頼書の内容を思い出し、納得する。
「そういうことだから、今後は泣いたり悲鳴を上げたりしないで欲しいんだけど」
『……それは難しいかも』
トレシアは苦々しく言う。
「理由を聞いてもいい?」
『私は幽霊になってからずっと、この屋敷に住む人を見てきたの。人と話せないし物も触れないからそれが私の楽しみになったの』
『分かります』
栞は頷く。同じ幽霊なので思うところがあるのだろう。
『この屋敷で人が幸せそうに暮らしているのを見ているのが私の唯一の楽しみなんです。私だって悲鳴を上げたくてあげた訳じゃないんです』
「どいうこと?」
『実は最近、二人の男が来たんです。おそらく次の住人です』
トレシアは目をギュッと瞑り、口を閉じる。
「それで?」
『……その二人、絡み合ってたんです!』
意を決したようにトレシアは叫ぶ。
その言葉の意味が理解できず、煌希は首を傾げる。
煌希とは反対に、栞は目を輝かせる。
『その二人ってどんな人なんですか?』
『太った人と、禿げた人の中年の二人』
『なんて事! 理想は現実になり得ないのか!』
栞は肩を落とし嘆く。
勇者召喚に巻き込まれた霊能力者 国のお金で自由気ままにスローライフ 桜田 @nakanomichi
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