第11話 霊能力者、ニート生活を断念する。

 煌希がこの世界で住む家は一般人が住む第二エリアにあった。家は二階建てで部屋数は七部屋もあった。庭も十分に広く、煌希一人が住むには広すぎる家だった。


 しかも、蛇口のように水が出る魔道具や、火がなくても調理できる魔道具、トイレやお風呂も魔道具で出来ており自由に使える。その他の家具なども国が揃えてくれていた。


 最初見たとき、この世界はどの家もこんなものなのかと思ったが、周りの家は一回り小さく、庭もない家が多かった。聞くと、この家が特別らしい。家や設備は貴族やお金持ちが住むに匹敵するレベルなのだが、場所が場所だけに住む人が見つからなかった家らしい。


 貴族やお金持ちは第二エリアには住みたくない、一般人には高すぎて買えない。値段が高くなる原因の魔道具だけ取り出そうとしても特殊な魔法がかけられているらしく、魔法を解除できなく取り出せない。壊すのはもったいないのでずっと残っていたところを、煌希の住む家として用意したようだ。


 家で住む際に、メイドのハナをつけると言われたが、魔法を試すことが出来なくなるので煌希は断った。しかし、家の魔道具に定期的に魔力を注入しないと動かなくなると聞いて、一週間に一度、ハナが家に来て魔道具に魔力を注入するということになった。


 初日は魔道具の使い方を確認したり食料の買い出しに当て過ごした。夕食、魔物の肉で自作したハンバーグは日本で作った物より美味しかった。魔物の肉だが、お店で普通に売られていた。この世界では魔物は食材にもなるようだ。


「これからどうしようか」


 夕食を食べ終え片付けをした後、煌希はリビングでソファーに座って言う。煌希の前には栞がいる。


『魔法の事ですか?』


「そう。まさか水晶が非売品だなんて思ってもみなかった」


 煌希は食料の買い出しの時に、水晶も買おうとしたがどの店でも売ってなかった。さりげなく聞くと、水晶は神殿や学校にしかないらしい。理由を聞いて納得した。魔法の適正や魔力の量などは変わらないので、一回確かめれば事が足りる。一度しか使い道がないものを売っても売れないので仕入れすらしない。


『魔法を使って確かめられればいいんですけどね』


 城で本を読んた時知ったのだが、適正がない魔法を使おうとすると体調が悪くなったり、下手をすると死ぬこともあるらしい。ギリアンはそんなことを言ってなかったが、仁志は全属性使える、煌希は魔力がないので言わなかったのだろう。


「対策もないし、魔法については保留するしかないか」


『そうするしかないでしょうね』


「これからどうしようか」


『働く必要がないのだから、遊んで暮らせばいいじゃないですか』


「遊んで生活か……」


『煌希は今までずっと仕事をしてたのだから、これからは遊んで暮らしても罰は当たらないですよ』


 煌希は日本での暮らしを思い出す。栞の言うとおり、煌希は仕事があれば学校を休む程働いていた。友達と遊ぶのは一ヶ月に一度あるかないか。それを思えば、ここでは遊んでもいいのかもしれない。


「そうだな。よし! 明日から遊んで暮らすか!」


 煌希は立ち上がり、拳を上げて決意する。


*   *    *   *   *    *


「遊びがない……暇で死にそうなぐらいやることがない」


 煌希はソファーに座り、ぐったりとしている。遊ぶと決意した翌日、早くも煌希は心が折れた。

 この世界には、娯楽が圧倒的に少ない。午前中街に出て遊ぼうと思ったのだが、娯楽施設がなかった。というより、娯楽がなかった。あったのは酒と女とボードゲームだけだった。煌希は酒が好きという訳ではないし、女を買うのは好きじゃない。ボードゲームは一種類しかなく遊ぶには四人必要で、友達どころか知り合いすらいない煌希には縁がない代物。


「友達の作り方も分からないし」


 日本での煌希の友達は、同じ場所や仕事をやっている人たちだけしかいない。同じ学校に通っている人、同じ仕事をやっている人。

 学校も仕事もしていない煌希には友達の作り方すら分からない。


「しかも、図書館がないなんて」


 煌希はこれが一番驚いた。城には立派過ぎる図書室があったので、街にもあると思ったのだが、ない。見つけた本屋は一軒だけ。仕方がないから小説でも買おうとしたが、この世界にはフィクションがない。あるのは魔法書と歴史書と技術書。城ではそれらを読むのが目的だったので気にしてなかったが、小説がないとは思わなかった。


「どうしよう。初めて日本に帰りたいと思った」


『あの、煌希。それならまたしりとりでもしますか』


 栞が、気を利かせて言う。


「しりとりならさっきまで一時間ぶっ続けでやってたじゃん」


『ですよね。ならあっち向いてホイをしますか』


「しりとりの前に一時間ぶっ続けでやった」


『すいません。霊である私が出来るものと言ったらこれ位しかなくて』


「栞が謝る必要はない。謝るべきなのは娯楽を発達させて来なかったこの世界だ」


 煌希は肩を落とし項垂れる。


『これからどうしますか?』


 栞の言葉に、煌希は顔を上げる。


「仕方ない。働こう! 働いていれば暇はなくなる! 友達も出来る! 一石二鳥だ!」


『まあ、この状況なら仕事をするしかないでしょうね』


「それなら仕事を探そう!」

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