第12話 霊能力者、仕事を見つける。

 煌希がまずしたのは求人を探すことだった。この世界での仕事の探し方を知らない煌希は、とにかく歩いた。お店に行って働けないか聞く。それで分かったことは、この街には求人なんてないということだった。

 遊びもない、働き口もない、だが暇はある煌希が何をしているかというと、料理を作っていた。


「よし、今度はハンバーガーを作ろう!」


 煌希は冷蔵庫のような魔道具から必要な材料を出す。パンは朝の残り、肉は魔物、野菜は買いだめした物。野菜は色や形が違ったが、味は日本と同じだった。

 煌希は手際よく調理する。日本でお寺にいた時、朝昼晩の食事を煌希が作っていたので、手際は料理人並みだ。フライドポテトを揚げるついでにポテトチップスも作る。冷めないうちにハンバーガーを作る。後は、肉をパンに挟むだけという時に、チャイムが鳴った。


「誰だ?」


 煌希はこちらの世界に知り合いがいない。


『あのハナというメイドじゃないですか? 一週間経ちましたし』


「え! ハナさん! 一週間! もうそんなに経ったの」


『ええ。煌希は気づいてなかったんですか』


「うん。そうか、そんなに経ったのか」


『まあ、おでんを作るのに一日中寝ないで鍋を見ていたりしてましたからね』


「それなら死ぬまでずっと料理してようかな」


 煌希は遠い目をして言う。


『煌希がそれでいいならいいですけど。そうしたらずっと一人ですよ?』


「ハッ! ずっとぼっちは駄目だ! 寿命で死ぬ前に人として死ぬ気がする」


 煌希は我に返る。仕事をする目的の一つが友達を作るだ。それを忘れてはいけない。

 もう一度チャイムが鳴る。


「出ないと」


 来客を思い出して、煌希は玄関に向かう。ドアを開けるとメイド服を着たハナが立っていた。今日も肌を見せない服装だ。


「こんにちは、スギムラ様」


「こんにちは、ハナさん。すいません待たせちゃって。入ってください」


「おじゃまします」


 ハナを家に招き入れる。二人はリビングへと入る。


「おや、料理の途中だったんですか。お昼まだだったんですか?」


 ハナはリビングと繋がっているキッチンを見て言う。


「いや、これは暇つぶしに作ってたんです」


「暇つぶしですか?」


「この世界って娯楽が無いじゃないですか。で、暇だから料理してたんです」


「そうなんですか。何の料理作ってたんですか。見たことないですけど」


 ハナはテーブルに並べている物を見て首を傾げる。


「ハンバーガーとポテト、ポテチですけど」


「これはスギムラ様がいた世界の料理なんですか?」


「そうです。こちらにはこんな料理ないんですか?」


「私は初めてみました」


 ハナの言葉に、煌希は悟る。娯楽だけじゃなく、料理も発達してないのだと。思い返せば、城にいたときの肉料理はほとんどがステーキだった。それ以外は肉と野菜を炒めた物。


「食べてみますか?」


「え! いいんですか。あ、でも仕事中だから……」


 ハナは腕を組んでうなり声を発する。食べたい欲求と仕事中という立場がせめぎ合っているのだろう。うなっている間、料理の匂いをかいでいるのかハナの鼻がぴくぴく動いている。


「……食べさせてください」


 欲求が勝った。


「いいですよ。後は盛りつけるだけ何でちょっと待っててください」


「それじゃ、魔道具に魔力を注入してきますね」


 ハナは小走りで家の中の魔道具に魔力を注入していく。

 その間に、煌希はパンに乗せた肉にケチャップをかけ、ハンバーガーを完成させる。ちなみに、ケチャップは自作した物だ。栞に教わりながら作った。

 リビングのテーブルに並べ終わったとき、ハナが戻ってきた。


「ちょうど良かった。どうぞ、食べてください」


 ハナは、「失礼します」と言ってから椅子に座る。


「あの、ナイフやフォークはないんですか?」


「これは手づかみで食べるんですよ」


 ハナはハンバーガーを両手で持ち上げて、小さな口でかぶりつく。三回口を動かした後、飲み込む。


「美味しい! 何これ何これ何これ! すっごい美味しいです!」


 ハナはハンバーガーに再度かぶりつく。

 その様子を見て、煌希は笑顔になる。自分が作った物を食べて、美味しいと言ってもらえるのは嬉しいことだ。

 ハンバーガーを半分ほど食べ終わったとき、ハナはフライドポテトに手を伸ばす。一口食べて、ハナの顔が綻ぶ。ポテトチップスを食べると、後は無言で食べ続ける。


「そうだ。ハナさんに聞きたいことがあるんですけど、この街で仕事したいんですけど、雇ってくれる所ありますか?」


「仕事ですか。でもスギムラ様は働く必要ないじゃないですか」


 話している間も、ハナの手は止まらない。


「元の世界ではずっと働いてたんで、仕事をしてないと調子狂っちゃって」


 暇つぶしの為に、とは言えなかった。生活の為に働いている人の前で言えるほど、煌希は度胸があるわけではない。


「そうなんですか。でも、この街では学校を卒業してないと、仕事はないですね」


 聞くと、この街で仕事を得るには学校を卒業するしかない。周りにある村や町に行けば、卒業者じゃなくても雇ってくれるが、その場合は畑仕事や建築の材料運びなどしかない。


「そうなんですか」


 このまま引きこもって料理をするしかないのか、と煌希は落ち込む。


「それなら、冒険者ギルドに登録してみればどうでしょうか」


 ハナはフライドポテトを囓りながら言う。


「冒険者ですか。でも、あれって魔物を狩らなくちゃいけないんですよね」


「そうでもないですよ。街でやる仕事なんかも多くありますよ。店番とか、料理の仕込みの手伝いとか。子供や急にお金が必要になった人なんかが働いてますね」


「そうなんですか!」


 煌希に希望の光が差し込む。


「それじゃ、明日ギルドに行ってみます。教えてくれてありがとうございます!」


「メイドですから当然です」


 ハナは空っぽになったお皿を寂しそうに見続ける。

 その顔を見て、煌希は苦笑する。


「良かったら、追加で作りましょうか?」


「是非!」


 それから煌希はハンバーガーとポテトとポテチを作って、ハナに振る舞った。美味しそうに食べるハナを見て、今度も作ろう、と煌希は思った。

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