第10話 霊能力者、一週間で色々学ぶ。
日が暮れて、二つの夕陽が煌希たちを染め始めた頃、勉強は終わった。あれから、仁志は火、水、風、土の初級魔法を試していた。最初は上手くいかないのか首を傾げていたが、太陽が地平線に近づくにつれ満足できる出来になったようで、終わる頃には子供の様な笑顔をしていた。
その間、煌希はずっと仁志を見ていた。魔法を使う度に魔力が体から出て行った。その様子は、日本で見慣れた物だった。
仁志は終わった後も魔法の練習を楽しそうにしていた。煌希は部屋に戻り、夕食までソファーに座り休んでいた。考えていたのは、霊力のことだった。
「栞はどう思う? 霊力って魔力のことなのかな?」
煌希の体の中から栞が出てくる。
『私は魔力や霊力が見えないので分かりませんが、ギリアンさんの火の玉は、炎妃と同じでした。ただ、炎妃は呪文を行ってなかったので、同じかどうか私には分かりません。その目で見た煌希はどう思ったのですか?』
栞は顔をうつむかせて思い出すようにゆっくりと言う。栞が言う炎妃とは、日本でトップクラスの霊能力者の二つ名だ。
「火の玉が出来る過程は炎妃の火の玉と同じだった。魔力も霊力と同じように見えた」
『それじゃ、日本の霊能力者はこの世界の魔力を持っていたということなんですかね?』
「そうかもしれないな。これについてはあの適正が分かる水晶を使えばいいんだけど……」
『難しいですよね。煌希は魔力がないことになってるから貸してくれるとは思えないし、もし貸してもらって煌希が魔力持ちだと分かったら魔王を倒しに行かなくちゃいけなくなります』
「そこなんだよな。しかも役職に就ける程のスキルを持っている。霊力が魔力と同じかどうかは家に住んでからなんとか水晶を手に入れて確かめよう」
『それがいいと思います』
「あと、霊力が魔力なら、幽霊が見えるのも魔法からもしれないなからこれについても調べてみよう。あとは、他の霊能力者がやっていたことが出来るかも確かめてみよう」
煌希は霊能力者が起こす超常現象を、その人だけが使える奇跡の技と教えられた。炎妃は火の玉を出し、ある者は壁を通り抜け、ある者は霊を人に憑依させる。煌希は霊や霊力が見える。これらはその人だけしか出来ないとされていて、煌希もマネをしようと思ってなかったが、それらが魔法なら出来ることになる。
『危ないのは止めてくださいね。特に、霊を憑依させるのとか』
栞が釘を刺す。
「あれは危険だからやんないよ。憑依された人は死ぬかもしれないしな。まあ、これらは家をもらってからだな。それまでは勉強しよう。あと、レベルの上乗せがどの位なのか試してみるか」
煌希は立ち上がった。洗礼から体の力が上がったとは思えない程、今までと変わらない。煌希は、思いっきりジャンプした。
「!」
四メートルはある天井近くまで、煌希の体が上がる。近づく天井に、思わず腕を出して顔を庇う。その直後、浮遊感と共に落下する。煌希はバランスを崩さないように注意して着地する。
「……レベルって凄いな」
煌希は、思わず上を見る。自分が今までそこにいたとは思えないほど高い天井。日本ではあり得ない跳躍力。これが、レベルによる身体能力の上乗せ。
『だ、大丈夫ですか煌希!』
栞が慌てて煌希の元へやってくる。どこか異常がないかじっくりと煌希の体を見る。
「大丈夫。あの高さから着地しても痛くない」
『確かに、怪我とかしてなさそうですね』
栞は胸に手を当て安堵する。
煌希は、今度は日本にいた時のようにジャンプしてみる。すると、普通のジャンプになった。どうやら、意識しないとレベルの恩恵が受けられないようだ。
そう結論が出たところで、ハナが来た。夕食の時間だ。今日の夕食は王様たちと一緒に取るということになった。突然の事に煌希は緊張して、ガチガチになりながら王と夕食を食べた。他にも、王妃、第一王女のフラニー、王子、第二王女がいた。王子は煌希と同じ年、第二王女は煌希より二、三歳年下だ。どの人も気さくに煌希と仁志に話しかけ、食事が終わる頃には煌希の緊張はなくなっていた。仁志はフラニーと第二王女と仲良くなり三人で話しをするということで食事が終わったら仁志の部屋へ行った。煌希は王子と部屋でがっつり男同士思春期特有の話しをした。
* * * * * *
煌希と仁志は一緒に色々と学んだ。二日目からは新しい教師から剣術を学び始めたが、剣術は仁志だけ。煌希は素手での護身術を学んだ。
四日目からは煌希と仁志は別々に学んだ。煌希は街に住む時の常識や法律。法律については、人を殴らない殺さない攫わない、物を盗まない壊さない、といったもので、特に異世界特有のものはなかった。それと実際に街に出た。もちろん、ギリアンが教師兼護衛となっている。
街は、城が中心にあり、それを囲うように貴族やお金持ちが住む第一エリアがあり、その外側に一般人が住む第二エリア、さらに外側に宿や冒険者ギルドや商業ギルドなどの施設がある第三エリアと分かれている。煌希が実際に住む家も見に行ったりした。
仁志はレベルを上げに行っていた。初めてレベル上げから帰ってきた時はなにやら落ち込んでいたが、次の日は元気になっていた。
煌希は空いた時間があると、城内にある図書室に行って本を読んでいた。指輪のおかげで文字が読めるので難なく読める。主に読んでいたのは魔法についてだ。各属性の呪文や、どんな魔法なのかを暗記した。これらは家に住んでから試す予定だ。
そして、一週間が経った。
仁志はお供を連れて旅に出て、煌希は一人暮らしを始める。
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