デッドウェイト2
「……いくぞ」
世界を地獄に塗り替えた張本人を前に、力を込めて足を踏み出す。
「合図など要らん。オレを殺したくば、奇襲や奇策の一つや二つ、あって然るべきだと思うが」
心底つまらなさそうに、此方を見下ろす奴を余所に、辺りに雷鳴が鳴り響く。正しく轟音、先までの、銃声、悲鳴の一切は掻き消され、薄暗い天を閃光が照らす。
「
開幕の一撃は、深く踏み込み、光速の一撃。
それを眼前の化物は、受けもせず、避けもせず腹に受けた。
「なるほど……疾い、重さも充分だろう。ただし、オレには効かん」
ファーストインプレッションは地球そのものだった。空に浮いている筈の、化物を蹴った感触ではなかった。そこに、もう一つの地面が広がっていると錯覚する程の圧倒的質量。
光速の蹴りをモノともせず、涼しげな顔で次を待っている。
「終わりか?」
「なワケあるか!」
勢いをそのままに、回転しながら蹴りを入れていく。並の生き物ならば、塵すらも残らぬであろう威力の打撃。
しかし、それは我が身を削る、愚かな選択になった。
蹴った方の左脚が、ぐちゃぐちゃになっている。これ以上の肉弾戦は無理だと判断し足早に距離を取る。
「なんつー硬さしてやがる……出鱈目もいいとこだろこんなもん」
「貴様、二度もオレを殺す機会を与えてやったのに期待外れも甚だしい」
化物は、変わらず、空から俺を心底つまらなそうに見下ろしている。
「随分と余裕そうで羨ましいもんだな」
かろうじて形を保っている脚を庇いながら、天高く鎮座するそれを見上げ、次の行動を考える。
そもそも、惑星並の質量を持つ相手に今の手札が通用するのかどうか、という判断材料を得る為の二撃だったが、そこはかとない希望は見えた。
「休憩は終わりか?待つのも飽きた、オレも楽しませてもらうぞ」
ゆっくりと首を擡げる化物、手の様な器官を突き出すと、光が結合、分裂を繰り返し、一つの球体となってゆく。
瞬間、全身の毛穴が逆立つ、本能が感じ取る恐怖と焦燥。
(これは掠るのもまずいヤツ!!!)
全身から吹き出す汗をきっかけに、壊れた左脚を即座に修復する。
「
言葉と共に、光は壊れた脚に集まり、再び機能を取り戻す。
それと同時に踏み出す右脚。本能は全力で生を掴もうとしている。
光速で化物の背後へと駆け込む、その刹那、球体は一筋の光となり、今まで俺のいた場所から後ろの全てが、目視できる限り無くなっていた。
瓦礫も屍も何もかも。
人の営みがあった痕跡を一欠片も残さない無慈悲な一撃。
チョコレートが半分掛かったドーナツの様に世界は二分されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます