スカベンジャー

 実のところうさぎは混乱していた。この城が欲しいなどと言い出す者は今まで出会ったことがなかったし、ここは今までとこれからを紡ぐ大切な居場所だった。うさぎだけの居場所ではなく皆の帰るべき場所だと考え護り続けてきた彼女にとってこの城を譲ると言う選択肢は毛頭なかった。


 「あんたらがこの城の持ち主?ガキばっかりじゃん。この城欲しいんだよね」

 「いきなり何言ってんだコイツ」

 「コイツ?生意気な口きくんだね。オマエさぁどっちが上か、ちゃんと理解した方がいいよ」

 

 怒髪天を衝くと形容してもいいほど感情を取り乱しているのはうさぎだった。この場の誰よりも悲しみ、怒りに狂っていた。


 「この城を寄越せですって!?うさぎにはもう何もないと言うのに!!!この城まで失ってしまえば皆様との思い出まで!お待ちする場所さえも失ってしまいます!!今すぐお帰りくださいっ!!!」

 「あのさぁ…バカなの?あんたらは交渉できる立場にないの。大人しくこの城を明け渡してくんない?それが嫌なら試練ゲームでもなんでもアタシら追い払いなよ。できるならの話だけどね〜アハッ!」

 

 うさぎをバカにするかの様な卑下た笑みだった。この城が自分たちの物になると信じて疑わない悪辣な態度。


 「姿勢はわかった、受けよう。でもただ俺たちの前から消えるだけじゃダメだ。しっかりとうさぎに謝罪してから消えてもらう。これでどうだ?」

 「蒼さん!?受けるんですか!?」

 「どうせあっちも退かないんだし俺はいいと思うけどなぁ。何よりうさぎを泣かせたのが許せない」

 「負けたらどうするんです!?」

 「負けないと思うよ?人から奪うなんて選択肢、話し合いができないなんて動物と同じじゃん?」


 相手を挑発するように笑みを張り付ける日皆。相手の自尊心を傷つけるには十分な煽り文句だった。

 

 「ガァァッ!」


 日皆の喉元に毛むくじゃらの剛腕を突き立てようとする狼の獣人。それを止めたのは側にいた狐の耳の生えた人に近いフォルムの仲間だった。


 「ダメだよガル。今手を出したらそいつの言うことが正しくなっちゃう。抑えて」

 「だってよォ!リサ!」

 「だってじゃない。抑えられる?」

 「あァ悪かったよ…」

 「アイツらムカつくけど頭は回るみたい。冷めちゃった。今日は帰ろう」

 

 思わぬ展開に、呆気に取られる四人。二人組の獣人は城を背にして道を戻ろうとする。


 「この町のはずれに森があるだろ。明日の夕方そこで待つ。試練ゲームの内容と決着はそこで決めよう。逃げたらここぶっ壊しにくるからそのつもりでヨロシク」

 「勝手に話を進めんじゃねぇよ!帰るのか!?」

 「そうだよバカタレ。行こう、ガル」

 「リサがそれでいいってんなら…」

 

 道を戻っていく獣人たち。喧嘩を売られたはずのうさぎですら怒涛の展開で頭上にはてなを浮かべている。


 「パラベラムのゼロドーンが潰れなきゃ今頃三層だったってのによ〜」

 「原因すら特定不明なんだからしょうがねぇよリサ」


 あまり耳馴染みのない会話を繰り広げながら背が見えなくなっていく二人組。表情の歪む蒼。ひとまず争いの火種は遠ざけられた。


 「なんだったんだよアイツら…」 

 「アレが此処に落ちてきた理由、俺にあるかもしれん」

 「蒼の知り合い?」

 「顔は知らん。ひとまず休もう。後で話す」

 「ほらうさぎ〜帰ろ!」

 「はい」


 四人はひとまず休むことにした。蒼はここに呼ばれた実績を深く考え込んだものの、疲れには抗えなかった。意識は浅い暗闇の中に落ちてゆく。遠い昔の記憶の蓋を緩めていくように。

 

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