伏兵
「いやー、出遅れちゃいましたねぇ、色々訊かなきゃ駄目なのに」
通話越しから、心底面倒臭そうに現状を呟く女の声が聞こえる。
「ガルガリオ・ガルガロッソとリサ・フォスベルについてはまだ分かる。あの子供はなんなんだよ一体」
ギリースーツのような物に身を包み、地に伏せながら通話先の女と概ね似た感想を悪態混じりに吐き出す男。
「こっちは終わったが、そっちはどうだ?」
んー、と少しわざとらしく考え込む女の声に少し苛立ちを感じる男。それを感じ取ってか、そそくさと返事を返す。
「こっちはまだかかりそうです……でもどうするんですか?都落ちの二人じゃなく、あの子供達とやり合うことになったら……私、嫌ですから!多分相性めちゃくちゃ悪いですよ!
通信機から大きな声が漏れ出す。うるせぇなぁと思いながら機械を耳から遠ざける男。
「あくまで目的はあの二人だ、子供に用事はない。できる限り無用な戦闘は避けたいが、どうしてもとなると少し厳しい。前半戦の段階なら余裕で勝てただろうが、あの意味のわからん成長スピードをみるに、今の装備じゃ結構キツイ感じがする。下っ端の辛いとこだぜ」
やってられるかよ、と言わんばかりの悪態をつきながら、用心深く観察する。一息つくまもなく、バカは動きはじめる。子供の動きというのは予想不可能なのだ。
「御影、腹の傷は大丈夫なのか?」
心底心配そうに傷を見つめ、不思議そうな顔を浮かべている蒼、「手当てぐらいはできると思うがどうする?」という問いに対して、そこまで深くないし別にいいかな〜と楽観的に考える御影。
「内臓は傷ついてないし、そこまで深くないから多分大丈夫だ。うさぎ達の所行ってくる」
振り向き、走り出そうとする御影に一声。
「菌とかが入るとダメだ。せめて消毒とガーゼぐらいはしていけ」
「確かにそうなんだけど、俺酒とか消毒液なんて持ってねぇぞ?」
そう返すと、蒼は少し自慢げに、虚空からボトルに入った水と綺麗そうな布とテープをぼたぼたと手のひらに落とす。
「ウッソだろ?それは流石に便利すぎる……どうなってんだよソレ」
蒼は傷口を水で流し、周りを消毒しながら返す。
「割と融通が効くらしい、聞けば出てきた。戦争の具現化とはそういうことなんだろうな」
傷口を布で押さえ、テープで貼り付け、ひと段落つける二人。途中御影が呻いていたような気もしたがスルーして終わらせた。
「ありがとう、じゃあ行ってくる。ここは任せた」
「あぁ、任された。気をつけて行ってこいよ」
ん、と拳を蒼の前に突き出す御影。すこし驚いて、意図を理解し拳を突き返す蒼。
「これ、やってみたかったんだ」
少し照れくさそうに笑う御影、珍しいものを見たようにニヤニヤと笑う蒼。
「俺でよければいくらでも付き合うよ」
そんな言葉を聞いて、とても嬉しそうに少年は駆け出した。
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