指輪と力
「目的は決まったが、俺たちは何から始めればいいんだ?」
「指輪を作りにいきましょうか!」
うさぎは右手の人差し指にある指輪を三人に見せた。指輪には小さいが吸い込まれそうな程深く紅い、綺麗な宝石の様なものがあしらってあった。
「綺麗だけどコレがなんで必要になるんだ?」
「ふふ。内緒なのです!アポはうさぎが取っておくので今日はここまでとしましょう!」
わけもわからず互いの顔を見合わせる三人。外から入る夕焼けは少し目に染みる様だった。
ぐう〜とお腹を鳴らせる日皆の音に笑顔になるうさぎ、寂しかった城はかつての活気を少しだけ取り戻していた。
「ん〜よく寝たねぇ」
「なかなか寝心地のいいベッドだった」
「皆さまおはようございます!」
朝から元気いっぱいのうさぎとかなりすっきりとした顔つきをしている二人に比べて、少し眠そうにあくびをしている御影、夜中にゴソゴソと図書室で何かをしていた様だった。
「満足に本を読めた感じがしないし眠てぇ、やっぱ慣れなきゃダメか」
「寝なかったの?予定入れるってうさぎも言ってたじゃん!」
日皆の少し咎め気味の声色に、不穏な雰囲気を感じてオロオロし始めるうさぎ。そんな彼女をよそに目を輝かせながら御影は話し始める。
「せっかく異世界に来たんだぜ?好奇心も知識欲も刺激されるだろうが!」
「それはそうだな」
「そんなもんなの?」
「ロマンがあるだろ異世界」
むう、と口を尖らせながら同意せざるを得なかった日皆は素直に次の話に向かうことにした。
「で、今日はどこ行くの?」
「はい!町の方にガーデン三層、蒼天慈雨というギルドの支店があるのでそちらにお邪魔しようと思っています!」
「支店ってなんだ?商売でもしてるのか?」
「ギルドには色々ありますからねぇ、戦闘系や生産系、今回お邪魔するのは商業系になりますね!」
「商業で3桁って凄いのか凄くないのかよくわかんねぇな」
「会えばわかりますよ」
それぞれ支度を済ませ、城を出る一向。道中町の人々と挨拶を交わしながら軽やかな道なりになるのだった。
「皆さま!今からお会いするのはこの十層の
「こわ〜い感じの人なの?」
「いえ、怖さはないのですか思いつきでとんでもないことを言いだしたりする方なので…」
過去を思い出しているのかトホホという顔をするうさぎ。面白そうなので少し話を掘り下げようとしたが「実際に会ってから話を聞いた方が面白いのですよ」とはぐらかされた。
「やっぱり気になるな、どんな人なんだ?」
「会ってみてのお楽しみです」
「楽しみだねぇ〜」
「三層のギルドマスターか、どれだけの差があるのか楽しみだ」
「そろそろ見えてきましたよ」
店の前までやってきた一行、高級感のある店の佇まいは、自分達が場違いであるかの様な錯覚を覚える。いや、学生風情には勿体無い店であることは確かだ。中に入るとスーツをきっちりと着こなした、凛々しく体格の良い男性に迎え入れられた。
「うさぎ様ですね、マスターから通すよう仰せつかっております。このまま奥までお進みください」
「ありがとうございます」
見知らぬ顔に少し堅くなるうさぎ、その後ろで三人はコソコソ話し始めた。
「なぁ、手土産とか持ってきた方が良かったんじゃないか?」
「私ちゃんとしたお店初めてだから緊張するなぁ〜」
「自然体でいればいいだろ。手土産に関しては俺も同感だが…」
「みなさま〜こちらですよ〜」
うさぎが扉の前で待っている。三人は気合を入れて中に入ることにした。
「お久しぶりです!
「おぉうさぎよ!随分と久しぶりではないか!もっと気軽に顔を出して欲しいものだが…」
目を奪われる三人、うさぎにふわふわと小動物の様な可愛らしさがあるとしたら彼女は真逆だった。清流の様な美しさの中に氷山の様な鋭さと冷たさがあるかと思えば雨上がりの陽の光の様な優しさを併せ持つ不思議な人だった。
「其方らがうさぎに呼び出されたという三人か?ガーデン三層『
「型置日皆です!」
「南雲蒼」
「園守御影だ」
「皆元気が良くて大変よろしい!そう畏まらんでよいよ。うさぎのこと、しかと支えてくれな」
海の底の様な深い青色の綺麗な長髪とそれに合う様仕立てられている着物がゆらゆらと揺れるのがよく似合っている。三人はその姿に見惚れながら話は本題に入っていく。
「今日は指輪の件でお邪魔させて頂いたのですが…」
「わかっておるよ。サイズだけ計ればいつでも渡せるが…」
先ほどの男性が後ろからやってきて慣れた手つきでテンポよく指を採寸してはけていった。
「お主ら、
「フィジカルって言ったってすぐ身につくもんじゃないだろ?地道にやれってことか?」
「それでも良いがの。うさぎ、今の最高時速どれくらいじゃ?」
「うさぎですか?そうですねぇ時速210キロから60ぐらいは出ると思います」
衝撃の事実に驚愕する三人。暁雨は特に驚く
驚く様子もなく話は進んでいく。
「
「うさぎ、そんなに凄かったんだ…」
「俺たちは人間だ。そこまでのスピードで走れるとは到底思えないが…」
「まぁここはガーデンじゃし、やり方はいくらでもある。指輪は其方らにやるから、ちと遣いを頼まれてくれんか?」
「貰えるというならかなりありがたいのですが、具体的に何をすれば良いのでしょう?」
「なに、簡単じゃ。ここからちょうど南に500キロほどの場所に町があるじゃろう?そこでわらわの着物を取ってきてもらうだけじゃ」
提案に固まる一同。石になったかの様に動かない口をどうにか動かして蒼が質問する。
「足でか?」
「足でじゃ」
四人の間に流れる重い沈黙。流れを断ち切ってうさぎが話し始めた。
「うさぎ1人でというならおそらく今日中に戻れると思いますが皆さまと一緒となると十日、運が悪ければ十五日程かかりますがそれでも大丈夫ですか?」
「待つよ。それにそうかかるとは思わんなぁ、動きを身体に覚えさせればいいんじゃ」
状況を飲み込めない三人。うさぎはそうですかという顔をしながら何かを考えている様子でこちらをみている。
「いくの?本当に?」
「待て、東京から徳島ぐらいの距離はあるぞ」
「引けねぇだろ。やるしかない流れじゃねかよ」
「ものわかりがよくてよろしい。それに最低限うさぎぐらい動ける様にならんとお主らすぐ死んでしまうぞ」
「マジかよ」
指輪を手渡され覚悟を決める三人。
「けどよ、この指輪何に使うんだ?」
「うさぎお主何も話しとらんのか?」
「詳しい人に訊くのが一番かと思いまして…」
「お主は…」
「よかろう、説明してやる。少しかかるから座るとよい」
こうして暁雨による指輪講座が始まった。
「まずこの指輪にできることは
「ほれ、指輪の石もお主らの色になっとるじゃろ」
は?という表情で自分の指輪を見る三人。マジックの様に色が変わっていた。御影は髪の色と同じ輝く金色に、蒼は深い青色に、日皆は日のさす緑になっていた。
「面白いじゃろ?一人ずつ
「どうやって知るんだ?」
「意識を向けて感じ取るんじゃ」
「なるほど」
集中する三人。はじめに反応したのは日皆だった。
「
「俺のは、現代の
最後に御影が残ったが複雑そうな顔をしている。
「なんかよくわからん。色々あるみたいだけど今わかるのは、未来の
「未来がつくか、珍しいタイプじゃの。ガーデンでは未来は観測しにくいという話はきいたか?」
「あぁ訊いたよ、あっちに帰るときに必要な情報だったからな。」
「ガーデンで未来を予期する情報はあまり出ることはないんじゃが…お主に関してはこれから作り上げていくタイプなのかもしれんな。一つ一つの出会いを大切にするんじゃよ」
「わかった。ありがとう」
「皆さまかなりのものをお持ちですね〜うさぎは頼もしいです!」
「なかなか見込みのあるものを連れてきたんじゃなぁうさぎよ」
カカと笑う暁雨、うさぎは少し複雑そうだった。
「実は…うさぎは対象を選んでいないのです」
「まことか?夜明けに負けぬほどの素質があるものを三人偶然召喚されるとは信じ難いが…」
「クロウリーさんが飛ばされる前に「もしも本当に困った事があったら使いなさい」とうさぎに魔法書を残してくださったのです。」
「ヤツの差金か…ならば夜明けのメンバーを呼び戻す類の召喚術にすると思うが…」
「嫌味とかじゃなく話聞いてるとそっちの方が良かったんじゃねぇの?」
「わらわもそう思うたが、意味のないことはせん女じゃったからな…お主らである必要があるんじゃろう。何かはわからんがな」
「話はこの辺りか、指輪の使い方は慣れていくとよい。困ったことがあったらうさぎに訊きなさい」
「「「はい」」」
「良い返事じゃ!気をつけて行ってくるんじゃぞ」
「その前に二ついいか?」
「何じゃ?」
かなり真面目な顔をしている蒼。日皆と御影もなんとなく質問を察した。
「まず一つ目だ、俺たちの中で今一番実績のあるやつは誰だ?アンタの主観で構わない教えてくれ」
「そして二つ目だ、俺たちは上を目指さなきゃならない。今の俺たち三人とアンタ一人なら俺たちはどこまでやれる?」
「フフ、威勢のいいガキは嫌いじゃないぞ。まず一つ目に答えてやろう。今一番実績があるのは蒼、お前じゃ。御影と日皆も現段階で四層レベルはあるが三層レベルなのはお前だけじゃ、あっちで何かやらかしてきたのではないか?」
「悪いが、俺には救世主と呼ばれるだけの行動に思い当たりがない」
「二つ目はどうなんだ?」
「どこまでという話じゃったな。現時点で
「暁雨様!?本気ですか!?」
「わらわはやってもよい。そうじゃな〜指一本でもわらわに触れられれば勝ちという条件でどうじゃ?勝てればなんでもいうことを聞いてやるぞ」
「随分と舐められたもんだなぁ」
「わたしちょっとやってみたいなぁ〜」
「じゃあ受けようか」
「いい心構えじゃ、立会人はうさぎで良いか」
「皆さま!?本気ですか!?危険を感じたらうさぎすぐに止めますからね!?」
「決まりじゃの、始めようか」
指をパチンと鳴らす暁雨。刹那、部屋にいた四人の世界は息も出来ない大豪雨と荒れ狂う大河に入れ替わった。大河の上流で浮かんでいる暁雨とは反対に世界が変わったことに気がつく間もない三人は荒れ狂う大河に流される。
(は!?嘘だろ?いくらなんでもスケールが違いすぎる!!どうするどうするどうするどうする!?!?)
行動が速かったのは日皆だった。驚くことに日皆の頭にはうさ耳が生え、人とは思えないほどのスピードで暁雨に突撃していく。
「やるじゃないか、でもそれじゃダメじゃね」
暁雨が再びパチンと指を鳴らすと日皆はどこかに飛ばされた。
(日皆がやられたか、うさぎの動き方を見る機会は少なかったがやれるか?やるしかないか)
蒼は冷静だった、何もなかった空間からゲートのようなものが現れ、手にはいつのまにかミリタリーナイフが握られている。ゲートを足場にして大河からあがった蒼はうさぎの身体能力を想像して空を駆け上がっていった。
「ォオォォオオォッ!!」
「自身が何を為したか思い出せ。それが力になるはずじゃ」
三度指を鳴らす暁雨、それを聞いて蒼はニヤリと口角を上げて飛ばされた。
「置き土産だ」
暁雨の視界から消える蒼。自らの背にあいたゲートから飛んできたナイフも何処かへ飛ばし抵抗虚しく無傷で立っている彼女。残る御影はどうにかして活路を見出そうとしていた。
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