白兎と名前

 「美味しかったねぇ〜」


 お腹をさすりながら満足そうに報酬のドリンクを飲んでいる日皆。


 「ほんとに全部食べたのか…」

 「いい食べっぷりでしたねぇ〜肉食系の獣人でも食べ切るのは珍しい量でした……」

 「シェフが悔しそうな顔してたな。見ていて面白かった」

 「ではそろそろ出ましょうか!」


 レストランを後にする一行、うさぎの少女はとても明るい表情で歩き出す。十分ほど歩いて町から外れると城のような大きな建物が見えてきた。


 「まだかかるのか?」

 「いえ、もうすぐそこです!ほとんど見えてます!」

 「これか?」

 「はい!大きいでしょう?」

 「わぁ〜!」

 「近づくとめちゃくちゃデカいな!テンション上がるぜ」


 うさぎの拠点に着いた一行、三人は荘厳ながらに遊び心ある外観に心を奪われる。中はうさぎ一人で管理しているとは思えないほど綺麗で、どこか寂しさを感じた。


 「立派でしょう!コレでも昔は凄かったのですよ!」

 「コレだけ広いと管理とか大変じゃないか?」

 「実は使える部屋がかなり少なくなってしまいまして…全盛期はどの部屋も活気があったのですが…」

 「そうか…」


 客室に案内される三人、うさぎがお茶を淹れて持ってきた。


 「「「ありがとうございます」」」

 「畏まらないでください!今からうさぎがお願いをする立場になるのですから、あまり気を遣わないで頂けるとありがたいのです…」

 「あんまり気にしないでよ〜」

 「何から何まで情けないです…」

 「いいよ、それより話の方聞かせてくれ」

 

 うさぎは明るい雰囲気で話し始めた。


 「うさぎのギルドは元々四層の強豪だったのです。名前は『自由な夜明けリベルアウローラ』ガーデンでもかなり有名だったと思います。少数精鋭で、皆さん単独で三層のギルドを相手取っても引けを取らない程のやり手でした。」

 「何故それが最下層まで落ちるハメになるんだ。」


 徐々にうさぎの声に自信がなくなっていく。耳もしなしなと垂れ始め、話の顛末が良くないことは明らかだった。


 「きっかけは10年前の終焉戦争レギオンレイドにあります。詳細は省きますがガーデン滅亡の危機でした。うさぎのギルドと多数の強豪ギルドで同盟を組み、ガーデンの終わりを阻止しようとしたのです。」

 

 声色に悲しみの色がさらに強くなる。


 「原因の封印には成功しました。しかしうさぎのギルドの皆さんは魔王の最後の抵抗に何処かへ飛ばされてしまったのです…うさぎが無事なのは同胞のクロウリーさんに助けられたからです。皆さんがガーデンに帰って来られないのはかなり強力な『縛り』があるのではないかと考えました」

 

 少し疑問そうな表情を浮かべる蒼、日皆は話の内容に喰らいつくかの如く真剣な表情だった。


 (クロウリー…どこかで聞いたことのある名前だ…どこだったか…)

真剣な表情で蒼は心当たりを探り始めた。

 

 「そこから一人になった『自由な夜明け』は六層に落ち着きます。うさぎが手伝って欲しいのはメンバーの皆さんを探すことです…」

 

 俯きながら話を続けるうさぎ、肩が震え涙が零れ落ちるのがわかった。


 「ギルドがここまで落ちた理由はわかった。俺はやってもいいぜ」

 「私も〜」

 「俺も手伝うが、あっちに帰る時はどうなるんだ?ガーデンと俺たちの世界の時の流れは同じなのか?」

 「その辺りは問題ないと思います。ガーデンは未来を観測し介入することは確定要素がないと難しいですが、確定している現在と過去にはかなり介入しやすいです。おそらくみなさんを呼び出す前の時系列にはお送りできると思います。」

 「そうか、ありがとう」

 

 ここに呼ばれた目的を知った三人に火が灯る。何よりこれ以上うさぎを悲しませたくなかった。


 「やることも決まったし!そろそろうさぎちゃんの名前教えてもらっていい?」

 「あ、そういえばそうだ」

 「随分とかかってしまったな」


 うさぎの少女の表情がさらに暗くなる


 「今のうさぎに名前はありません。六層に居た時、メンバーの一人の手がかりとうさぎの名前を賭けて試練ゲームをしたのですが、その際に負けてしまって…」

 「名乗る名すら持ち合わせていないのです…」

 「は?」「ふーん?」「ほう」


 あまりの状況にそれぞれ腑を煮え繰り返させる三人。


 「試練ゲームに負けたのはうさぎのせいですしこちらはあまり気にしなくても大丈夫ですよ!」


 空元気に振る舞ううさぎその姿は見ていてとても辛く痛々しいものだった。

 

 「最優先事項決まったなァ!オイ!」

 「だね」

 「その為に何から始めるべきか教えてくれ」


 よくわからない展開にキョトンとするうさぎ。首を傾げてワナワナしている。

 

 「これから仲間になるんだろ?一番大切な物取り返さなきゃじゃねぇか!」

 「そうだよぉ。私も名前知りたいな♪」

 「名には思い出も詰まっているはずだ。俺たちに最初に頼むならそちらの方が先だろう」

 

 状況を理解したうさぎから堰を切ったように涙が溢れる。

 

 「うざぎはぁ……お会いでぎだのが!みなざんでよがっだでず!!!!」


 ひっくひっくと涙の止まらなくなったうさぎを日皆が抱き止める。背中をさすっていると徐々に泣き止み始めた。


 「あんまり泣くなよ!これから名前取り返しに行くんだろ?前見れなきゃ困るじゃねぇか!」

 「すいません…でもこんなに優しくしてもらったのは久しぶりで…」

 

 涙を拭いながら話すうさぎ。涙でぐちゃぐちゃになりながら笑顔を見せるその表情はここに来てから一番輝いたものだった。


 

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