異変

 暁雨のお遣いをすませる為、片道五百kmの旅に出た四人。長い旅路になるかと思いきや思いの外進むスピードは速かった。

 

 「皆さまいいセンスです!二時間で大体半分ほど進んだので一時間ほど休憩を取りたいと思います」

 「ハァ…ハァ…長いこと力を維持するの普通に疲れるぜ…」

 「力で補助できるだけマシだろう。俺なんてフィジカルアップにしか頼れないんだぞ」

 「もうむり〜」

 「まぁあと半分ですし日没まで余裕もありますので少しゆっくりしましょう!」

 「もうちょっとペース落とせないの?」

 「これ以上はちょっと厳しいです…路銀自体は暁雨さまがかなりサポートしてくれたのですがうさぎ達には明日が掛かっているのです!」

 「おぉ?具体的には?」

 「生活費を稼がねばなりません…うさぎはてっきり召喚されるのは一人だと思っていたので…」

 「なるほどな、現状あとどれくらいで一文無しなんだ?」

 「良く見積もって五日程です…」

 「おぉ〜崖っぷち」

 「有名処や実力が共なってくるとギルドに合った依頼も舞い込んでくるのですが…今のうさぎには名前もないので過去の実績も使えませんし紹介所などで自分にできそうなお仕事をみつけてくるしかないのです」

 「大変なんだな…」

 「お仕事自体は多種多様にありますし普通に暮らす分には事足りるのですが今回は急なもので…」

 「いいよ、俺たちも手伝うから」

 「うぅ…ありがとうございます…うさぎは自分が情け無いのです」

 「そろそろ行こっか!くよくよしてても仕方ないし!」

 

 残り半分を人を超えた速度で進み出す。うさぎの足取りは少しだけ軽くなっていた。


 「しかし御影さん、よく暁雨さま相手に立ち回ってましたね。戯れとは言え、試練ゲーム初めてだったでしょう?」

 「ほんとだよねぇ速すぎてびっくりしちゃった」

 「師匠?先生?がいたんだよ。今思えばめちゃくちゃ権能ギフト使ってだんだろうな。俺には使い方は教えてくれなかったけど、戦い方や考え方なんかは結構教えてくれた。まぁ見て学んだという方が正しいけど」

 「存命なのか?」

 「めちゃくちゃピンピンしてるよ。そんなに老けてたわけでもないしな。アイツがいなきゃ白桜はくおう高校には入学してねぇし皆んなと出会うこともなかったってことだな」

 「じゃあ権能ギフトの使い方はどうしたんです?」

 「これは俺の力じゃない。見よう見まねだ、多分まだ別にあるはずなんだが全然わからん」

 「その方今どこにいらっしゃるんですか?」

 「妙にがっつくんだな」

 「かつてのメンバーに似たような力を持った方がいまして。八重紅葉やえいろはさん紅い髪に笑顔の素敵な方でした。ご存知ないですか?」

 「紅い髪かぁ、多分違うな。あいつが笑ってる時だいたい怖かったし」

 「そうですか…」

 「そう落ち込むなよ。ガーデン経験者かもしれないんだし、話聞いたらなんかわかるかもしれないだろ?」

 「それもそうですね!」


 そんな話をしている間に町が見えてきた。自分達のいた町とあまり見た目は変わらない町。着物を受け取り、一行は明日に向けて疲れた体をしっかりと休める為早めに就寝した。


 「皆さまおはようございます。今日は早めに出発して帰り次第今後のことについて考えたいと思うのですがよいでしょうか?」

 「「「はい」」」

 

 三人の声がよく響き渡るが、体はそうはいかないようだった。わずか半日足らずで五百キロメートルを走り切った三人の身体は至る所が筋肉痛で足は特にひどかった。


 「これ帰れるかなぁ」

 「皆さま昨日は力使い続きでしたからね。今日はあまり身体に負担かからないと思いますよ?」

 「本当か?正直かなり辛いが」

 「ある程度疲れや負担が掛かると適切なフォームで動けるようになることってあるでしょう?似たようなものです」

 「頑張ろう!」

 

 そういって四人は進み始める。驚くことに行きよりは負担がなかったので帰りの方がスピードが速かった。わずか2時間での帰郷。驚くうさぎバニーホップだった。


 「いやぁ、おもったより出ちゃったね。スピード」

 「うさぎも驚きです。流石にここまでとは」

 「それより暁雨に荷物を届けて終わりなんだよな?早く行こうぜ」

 「同感だ。はやく終わらせて少し休みたい」

 「そうですね」


 町を歩き出す。少しの違和感、ここに来た時とは明らかに違う敵意の刺さり方。

 

 「どうかしましたか?」

 「なんでもないよ。いこう」


 そうこうしているうちに暁雨の元にたどり着いた。

 

 「お〜、お主らはやかったのう。あと二時間程掛かると思うとったが流石じゃ」

 「なんとなく慣れたよ。これ約束の品だ」

 「特に問題もなし、良いね。申し訳ないんじゃがわらわ五層に用事ができてしまってね、このあたりで解散としようか」

 「随分と急だな。何かあったのか?」

 「ギルドが一つ潰れたんじゃと、そのヘルプに呼ばれたというわけじゃ」

 「そういうことですか。ならうさぎたちもお暇いたしましょう」


 帰路に着く四人。道中の敵意について考えていた。


 「帰ってきた時さ、なんか違和感なかったか?」

 「違和感ですか?」

 「少し町がヒリついている気がする」

 「心なしか笑顔が少なかった気もするね」

 「いわれてみればそうですね」

 「少し話でも聞いてみますか」

 「そうするか」


 初日にお昼ご飯を食べたレストランの前を通りがかり立っていたウェイターに少し話を聞くことにした。

 

 「お時間いいですか?」

 「いらっしゃいませ。またのご来店ですね」

 「今日は食べに来たんじゃないよ〜町で何かあった?」

 「そういうことですか。なんでも五層からやってきた肉食系の獣人が睨みを利かせているらしいんですよね。やってきたのはちょうど昨日の日が沈む前の時間帯でした。私にわかるのはここまでです」

 「ありがとうございます!またご飯食べにきますね」

 「それは嬉しいお言葉です」


 何気ない挨拶を交わし城へ向かう。違和感、此処に来てから初めて味わう純粋な悪意。町で感じたその不快感が城の目の前で話していた。


 「コレ欲しいなァ」

 「ダメだよガル。ちゃんと奪い取らないと」

 「どんな奴なのかなァ!楽しく奪えるとイイなァ」


 うさぎの居場所の前で品性のない会話を繰り広げる二人組。あまりの場違いな内容に怒りを覚える三人と状況がよく理解できていないうさぎ。一触即発の雰囲気の中あまり意味のない話し合いは幕を開けた。

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