案件配信(2)
続いてのクイズは――、
「ねえねえ、ちづるちゃん。この中で、一番、ダンジョンの罠に詳しいのはだあれ?」
「えっと……、私が行きます!」
おずおずと手を挙げる、ちづるちゃん。可愛い。
ちなみに質問は、ミミズクちゃん、ちづるちゃんがバランス良く回答することになるよう調整されている。
戦闘関連ならミミズクちゃん、それ以外はちづるちゃんといった塩梅だ。
「じゃあ、ちづるちゃん。ダンジョンで罠に引っかからないために、一番、気をつけないといけないことってなあに?」
「気をつける……、こと?」
きょとんと目をまんまるにするちづるちゃん。可愛い。
"これは難問w"
"罠に詳しい(回避できるとは言っていない)"
"お雑魚ですわ~!"
「えっと、念の為に倫理フィルターをオンにしておくこと?」
「答えが配信者すぎますわ!?」
うんうん、エロトラップとか引き当てたらBANされちゃうもんね。
大事、大事だけど――
"ち・づ・る・ち・ゃ・んww"
"引っかかった後のこと心配してて草"
"そういう企画だっけw"
「ハズレ、ですわ~! こんなことすら分からないなんて、お雑魚ですわ! お雑魚ですわ〜!!」
「お雑魚でしたわ~!」
不正解でも、楽しそうにケタケタ笑っているちづるちゃん。可愛い。
"バーニングお嬢様に煽られる!"
"煽られても嬉しそうなちづるちゃん!!"
"煽り力よわよわなのですわ~!"
"煽り力が絶望的にボキャ貧なのでしてよ~"
「うるさいですわね!? 私の煽り力は53万ですわ!」
文句なら、台本に言って欲しい。
クイズに間違えたら、アドリブで良い感じに煽って! なんて超難題が書いてあるのだ。私だって前もって、きちんと台本が用意してあれば、もっともっと、家で練習してくるのに……!
「……こほん、えっと。ミミズクちゃんなら分かりますか?」
「オレに分かると思うか?」
「――まったく思いませんが、一応、進行上のルールなのですわ」
"まったく思いませんw"
"ときどき出るナチュラルな毒すこ"
「オレは、罠の回避なんてみみっちいことはせずに、全部真正面から粉砕してきたからな……。回避の必要はない、でどうだ?」
「どうだ、じゃありませんわ!?
マナー動画の趣旨を全否定しないで下さいまし!?」
ぜえぜえ、と肩で息をする私。
(このメンバー、やっぱりダンジョンマナーの配信には絶望的に向かないんじゃないかなあ……)
私が、遠い目になっていると、
「ちなみに焔子ちゃんなら、どうするの?」
ちづるちゃんが、そんな話を私に振ってきた。
"こんな罠にかかるなんて、お雑魚ですわ~! お雑魚ですわ~!"
"罠ごとき、焼き払えないなら探索者なんてやめちまえ。ですわ~!"
"一人反省会のお時間ですわ~!"
"ヒャッハー、ですわ~!"
怒涛のように流れてくるコメント欄。
それは私の過去配信で、お雑魚ウォッチング配信With罠に嵌って身動き取れない探索者たちを煽りに行こう――の回で、私が口にした数々の言葉たちであり、
「ヒャッハー、ですわ~!」
「こほん、今は、あの配信のことは忘れて欲しいのですわ!? ……あと、ちづるちゃんはその言葉、今すぐ忘れなさい」
おい、私のリスナーこと下僕たち!?
ここには、まだ私のことを知らない初見のお客さんだって大勢いるんだぞ?
いきなり身内ネタを擦るのは、良くない癖だと思う。
えっと、ダンジョンで罠に引っかからないためにすること、だっけ。
「基礎的な問題ですわね。
まずは下調べをしっかり。探知スキル持ちとパーティーを組んで、看破できない罠が出現する階層には絶対に潜らない、ですわ!」
"教科書通りの回答すぎる、0点"
"そんなに都合良く探知スキル持ちなんて見つからないぞ、0点"
"回答がしごく真面目で面白くない。ー114514点"
"全ての罠を焼き払う、ぐらいのことは言って欲しい"
"辛辣すぎて草"
「ねえ!? この番組、リスナーのみなさまに煽られるに改名しませんこと!?」
しくしく。
間違ったことは言ってないのに。
「え~い、正解VTRを見るのですわ!」
私は、スタッフさんい正解VTRを流すようにお願いする。
「ダンジョンで罠に引っかからないために重要なことは――。
まずは、下調べをしっかりすること。探知スキル持ちとパーティーを組んで、看破できない罠が出現する階層には絶対に潜らないことが重要で――」
「ほら~、正解だったのですわ!! 正解だったのですわ!! ……あれ、私、煽られ損では?」
"クイズ番組で正解して怒られるダンチューバーがいるらしい"
"↑↑MCやぞ"
"八百長ヤメロw"
"ポンコツお嬢、可愛い!"
「お~っほっほっほ! 私の正解を悔しがる下僕の皆さま悲鳴が、心地よいのですわ~!」
そんなやり取りをしながら。
バーニングお嬢様に煽られる! の配信は、無事に進んでいくのであった。
***
そんなこんなで、配信の第1回が終了。
私としては、あまりに慣れず、不甲斐ない司会だったと反省しかないが、
「リスナーさん、いつになく多くて反応も上々でした!
マナー解説とは思えない同接です――やっぱりルナミアさんに頼んで正解でした!!」
そう優奈ちゃんは喜んでいたので、ヨシとするべきか。
「あれで、マナー解説になったのかな……?」
「良いんですよ。それで、少しでも興味を持ってもらえれば」
そうニコニコ笑う優奈ちゃん。
ふざけているようで、彼女とてダンジョンに潜る探索者。
きっと、誰より日本のダンジョン界の未来を真剣に考えているはずで――
「は~、バーニングお嬢様の生煽り。もっと聞きたい」
(…………考えてるよね!?)
ちょっぴり不安になる私。
その後は、次回に向けた簡単な打ち合わせと、改善点の話し合い。
「「「次回も、よろしくお願いします!」」」
ぺこりと頭を下げ、私たちは事務所に戻るのだった。
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