バーニングお嬢様と同期コラボ(1)
翌日のこと。
私はコラボ配信に向けて、自室で煽りデッキを作っていた。
(だって、ちづるちゃん天使すぎるし)
(油断したら、ずっとでれでれ~っとしちゃって……、今度こそキャラ崩壊しちゃう!)
なにせ相手は不人気ダンチューバーに、コラボを持ちかけてくれた大天使。
そんな良い子を、これでもかというほど煽り散らかせば!
一瞬にして、元の煽り系配信者の地位を確固たるものにできると思う。
――煽り系で売っていくには、若干、手遅れな気もするが、まだ間に合うと信じたい。
***
そんなこんなでコラボ配信当日。
私は、ちづるちゃんとダンジョン入り口で待ち合わせていた。
ダンチューバー同士のコラボ配信。
今回のコラボは、雑談しながらダンジョンに潜ろうという緩めの集まりである。
私は、配信を立ち上げると、
「お~っほっほっほ、下僕の皆さま御機嫌よう! 地獄星より舞い降りた焔子と――」
「殺伐としたダンジョン界隈に突如として舞い降りた見習い天使、ちづるです!」
私を見るなり、天使のような笑みを浮かべながら駆け寄ってくるちづるちゃん。
風になびくワンピースがひらりと揺れて、その愛らしさをより一層引き立てていた。
「あぁ。ちづるちゃん――今日もかわええなあ……」
"草"
"この笑顔、切り抜きで見たやつ"
"スライムちゃんと話してるときと同じ顔してる"
あっと、いかんいかん。
今の私は、煽り系ダンチューバー・焔子。
私は、頑張って構築した煽りデッキから1枚取り出し、先制攻撃を決める!
「お~っほっほっほ、随分とはしたない走り方ですこと。
わたくしとコラボできるのが、そんなに嬉しかったんですの!」
「うん!」
「~~~ッ///」
天使か……?
なんで返事1つ取っても、こんなに可愛いの。
私が先制攻撃を仕掛けて、華麗なるカウンターを喰らって悶絶していると、
"このちづるちゃんって子、すっごい性格悪そう"
"たしかに。今まで腫れ物扱いしてたのに、数字手にした途端すり寄ってくるのヤバイ"
"あの笑顔で、いっぱい男喰ってそう"
見過ごせないコメントが流れていく。
「ちょっと待てい、下僕ども。そのコメントは見過ごせませんわ!」
さすがは私の配信を見に来るリスナーたち――口の悪さは折り紙付き。
別に私相手なら良いけど、ちづるちゃん相手に、下品な噂を流そうとは何事か。
向こう様に迷惑をかけてはいけない。
「ちづるちゃんはね、わたくしと比べたら天使と悪魔、月とスッポン。
あまたのクソみたいな罠にもめげず――すべてを笑顔に変えるプロ中のプロ!
配信を見てきて、どれだけの元気をもらったことか。
疲れた体には、お酒とちづるちゃん。これ、鉄則!」
「ほ、焔ちゃん……?」
困惑するちづるちゃんを余所に、私は語る。語り倒す!
私の目が黒いうちは、ちづるちゃんの悪口は許さないという覚悟である。
「配信を全部チェックすれば分かりますわ!
見てないって人は、下僕失格。わたくしの配信なんて見てないで、全人類ちづるちゃんのアーカイブを全視聴するように。
決して侵してはいけない聖域のような尊い存在――それが大天使ちづるちゃん!」
「焔ちゃん、キャラ! キャラ!」
「……なのですわ~!」
"めっちゃ早口!"
"この子、ちづるちゃん好きすぎやろw"
"【悲報】下僕の権利、ちづるちゃんのアーカイブ全視聴"
"真っ赤になったちづるちゃん、可愛い"
"そら真正面からこれだけ好意ぶつけられたら・・・"
"てぇてぇ"
"天使x天使"
"煽り系 #とは"
"バーニングお嬢様は、煽り系はもうやめたゾ"
「あ――」
とんだ墓穴である。
でも大好きな同期を馬鹿にされて、黙ってるのは違うと思うし。
私が、どう反応しようか迷っていると、
「ぷ、ぷぎゃーですわ~!」
ちづるちゃんが、ガオーとポーズしながら煽ってきた。
煽ってきた…………!
可愛い。可愛い!
「わ、わたくしを煽ろうなんて良い度胸ですわ!
えーっと――、ぷ、ぷぎゃー……、ですわ~!」
"かわいい"
"なにこの幸せ空間"
"世界一煽りが似合わない2人"
"( ; ›ω‹ )プギャー!"
アカン、このままでだとリスナーにおもちゃにされてまう。
「…………こほん!
それではさっそくダンジョンに潜って行きますわ~!」
「ますわ~!」
気の抜けた声で、オーと気合いを入れるちづるちゃん。
そうして私たちは、赤くなった頬を隠すようにダンジョンに潜るのであった。
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