バーニングお嬢様と同期コラボ(2)
私たちは、ダンジョンを順調に進んでいく。
私はこの辺りの階層では苦戦しないし、ちづるちゃんとてそこはベテランのダンチューバー。
鞭を片手に、パシンパシンと敵をしばいて行く。
「焔子ちゃん、今日も絶好調だね!」
「お〜っほっほっほ! ちづるちゃんは、私とダンジョンに潜れて嬉しいんですわね!?」
「うん!」
「~~~ッ///」
"なぜ自分から撃退されに行ってしまうのかw"
"この子、これで煽り系やってたってマジ?"
"ぴゅあっぴゅあ!"
あー、もう!
ちづるちゃんが天使すぎて、全然、煽り系ができない……!
こほん。
私は咳払いして、強引にダンジョンを進んでいく。
「こんがり焼かれて消し炭になれ――バーニング、ショット……、ですわ~!」
「ヒャッハー、汚物は消毒ですわ〜!」
「!?」
ちづるちゃん!?
活き活きとした顔でヒャッハーなんて言い出す大天使。
"だいぶ染まってきてるw"
"ちづるちゃん、ずっとバーニング嬢の配信見てるって言ってたしな"
"ヒャッハー!"
「全国のちづりえるの皆さま、このたびはわたくしの不適切な表現により、ちづるちゃんを汚してしまって、大変、大変申し訳ございませんでした。この責は、腹を切ってお詫びさせていただきたく━━」
「あ〜!? 焔子ちゃん、キャラ……、キャラ! ━━て待って!? 本当に、どこからともなく日本刀を取り出さないで……!?」
"カオスw"
"ちょこちょこ見えるバーニング嬢の素、スコ"
"珍しく慌ててるちづるちゃん"
まさか自分のせいで、ちづるちゃんが変な言葉を覚えてしまったなんて。
どうしよう、もう親御さんに顔向けできない……。
「私が、バーニング嬢語録使うの、変、かな?」
「変、というか、その……、ほら、イメージってものが━━」
「じー……」
「イメージってものが━━━━」
「じー………………」
「……使っても良いと思う!」
「やった!」
はっ、しまった!?
"【悲報】バーニング嬢、イノセントアイの魔の手からは逃れられない"
"バーニング嬢語録ってなにw"
"説明しよう! バーニング嬢語録とは━━煽りワードが圧倒的ボキャ貧であらせられるバーニング嬢が、頑張って覚えたと思わしき、有志の方がまとめた煽りワードですぞ"
"ちづりえるの皆さんだ!?"
初耳なんですが!?
それにしても、ちづるちゃんが、本当に私の配信を見てくれてたのには驚きである。
もちろん、表立っての交流は控えていたけれど━━
しばらくダンジョンを進み、
カチッ
「……あれぇ?」
「わわわわっ!?」
ちづるちゃんが、何やら罠を踏み抜いた。
"出た!"
"今日のトラップはなんだろう"
"エロトラップきぼんぬ"
"おまいら、落ち着け!"
ちづるちゃんは、圧倒的不幸属性の持ち主。
ダンジョンの罠に、まあ引っかかる引っかかる。
直接見ているから分かる。別に探索が下手という訳ではない━━ただ、不幸にも隠蔽型の罠を踏み抜きがちなのである。
あっと思った時には手遅れ。
天井から大量の水が降ってきて、ずぶ濡れになるちづるちゃん。
"い・つ・も・の!"
"今日は早かったな()"
"ノルマ達成"
"この子、罠の対応能力、カンストしてそう"
"↑↑毎回、ストレートに嵌るんですがそれは……"
くちゅん。
ちづるちゃんが、くしゃみしながら立ち上がる。
「てへっ、やっちゃいました!」
「うわぁぁぁぁぁ、ちづるちゃん大丈夫!?」
反射的に駆け寄り、私はちづるちゃんの身体をあらためる。
「いつものことだから気にしないで?」
「そ、それは勿論知ってる……けど!」
どうやら降ってきたのは、ただの水。
なんとも無さそうで安心したけど……、ちづるちゃんとのコラボ、なかなか心臓に悪いかもしれない。
ホッとしている私に、ちづるちゃんがじーっと何かを期待するような目で私を見てきた。
それから、そっと口パク。ええっと……、
「今こそ、煽って?」
こくこく、と頷くちづるちゃん。
「ぇぇえええ!? この状況で煽るとか……、ひ、人の心とかないんか?」
「……え? ほら、だって、ちょうど良いし━━」
「ちづるちゃん! ダンジョンの罠を舐めたらいけません。一見、どうってことが無い罠でも、下手すると死んじゃうこともあるのに……!」
「ぇえ……?」
"注)自称、煽り系の発言です"
"バーニング嬢、オカン属性持ちだったかぁ"
"草"
"【悲報】バーニング嬢、同期からの煽りパスを華麗にスルーしてしまう"
あ……、やべっ。
コメント欄を見ながら、私はハッとする。
私は、世界一の煽り魔、焔子。私は、世界一の煽り魔、焔子。私は、世界一の煽り魔、焔子。……ヨシ。
「あ、足もとがお留守なのですわ~! それに、えーっと━━びしょ濡れでみすぼらしいのですわ~。…………おい、下僕ども。ちづるちゃんが透けてるか、とか、見るんじゃねぇぞ」
"ドスの利いた声、草"
"リスナーへの釘さしはトーンがガチなのよ"
"ちづりえるの方いわく、水着着てるから大丈夫だって"
"準備万端すぎて草"
私が、あたふたとしていると、
「え・ん・し・ゅ・つ、なのですわ~!」
ケロットした顔で舌を出すちづるちゃん。
可愛い。
"手玉に取られるバーニングお嬢様"
"役者が違う"
"かわいい"
"小悪魔系に覚醒しちゃった"
そんなアクシデントもありつつ、コラボも順調に進んでいたその時、突如としてダンジョン内に警報が鳴り響く。
続いて響き渡るのは、機械的なアナウンス音。
『大宮ダンジョン中層に、イレギュラーモンスターが出現中。付近の探索者は速やかに避難すること。繰り返す。大宮ダンジョンに━━』
なんですと!?
私は、ちづるちゃんと目を合せて頷き合う。
初コラボまで済ませた同期の私たちは、もはや一心同体といっても過言。もちろん、次に取る行動は━━
「イレギュラーモンスター!? ちづるちゃん、早く見に行くのですわ〜!」
「イレギュラーモンスター!? 焔子ちゃん、早く逃げないと……!」
……あれ?
訪れる沈黙。
"バーニング嬢!?"
"避難しろ言ってるのにw"
"危険を省みず、最新情報を届けようという配信者の鑑"
"無茶しないで!?"
コメント欄が、何やら騒がしいが、当然、そんな高尚なことは考えていない。
「お雑魚ウォッチング、withちづるちゃん、ですわ〜!」
「ですわ〜〜〜!!!!」
"ヤケクソなちづるちゃん可愛い"
"いや草"
そうして私たちは、ダンジョン奥に潜っていくのだった。
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