煽り系ダンジョン配信者、視聴者を煽るたびに強くなるので、無理して煽り散らかしてみるも、配信を切り忘れたままひとり反省会をしてしまいバズってしまう
アトハ
バーニングお嬢様、今日も今日とて煽り散らかす
ある日のこと。
私――
「おほほ。今日も配信で、ボス戦に苦しむお雑魚たちを、煽り散らかしに参りますわ~!」
私は、いわゆるダンジョンの中で配信を行うことを生業としている人間――ダンチューバーなどと呼ばれている――だ。
このエセお嬢様言葉は、その配信のキャラ付けのためのものである。
"また煽り配信始まった"
"なんやこいつ"
"エセお嬢様"
「お~っほっほっほ。今日も負け犬の遠吠えが気持ち良いですわ~!」
私は手を口に当てて、高笑い。
(この笑い方、毎日のように練習してきたからね)
(見よ、この堂に入った悪役っぷり!)
私の配信スタイルは、いわゆる煽り系と呼ばれるものである。
ダンジョン内では、ちょっとしたミスが命取り。
失敗して危機に陥った探索者を探し出し、助けながら全力で煽り散らかすのだ。
お嬢様言葉を使うのは、少しでも相手をイラッとさせるために有効だと思ったからである。
「こんがり焼かれて消し炭になれ――バーニング、ショット……、ですわ~!」
私は両手を前に突き出し、声高に魔法を詠唱。
すると巨大な火の玉が飛び出し、ダンジョン内を徘徊していた豚型モンスターを焼き払った。
「いっちょアガリ、ですわ~。ブヒブヒ言ってるだけで大した実力もない。まるで、うちのリスナーみたいですわ!」
"ブヒィィィィ!"
"あ?"
"いつか痛い目に遭えば良いのに・・・"
"分からせたいこの笑顔"
コメント欄は、いつもどおり非難轟々。
(うわ~ん。ごめんなさい、ごめんなさい!)
(でも煽らないと私、探索者続けられない……!)
私が、このような配信スタイルを取るのには理由があった。
ダンジョン内で、探索者は必ずスキルを1つ授かる。
私が手に入れたスキルは【大炎上】――リスナーを煽れば煽るほど強くなる、なんていう碌でもないスキルだった。
(大炎上、じゃないよ!)
手にした【大炎上】というスキルは、ふざけた名前に反して非常に強力だった。
読んで字のごとく、火魔法に特化したユニークスキルである。数多の魔法を取得し、威力を増大させる優れもの。さらには効率上昇のおまけつき。
まさしく、その性能は魔法使いであれば誰もが羨む代物であった。
(……リスナーを煽れば煽るほど性能アップって何!?)
(私に燃えろと!? 燃えろというの!?)
まさしくチート級の威力を誇る私のユニークスキル。
しかしその効力を最大限発揮しようとすると、私は常に誰かを煽り続けなければならなかったのである。
閑話休題。
「今日はフロアボスに挑む、お雑魚な探索者パーティを見に行きますわ~!」
私はそう宣言して、ボス部屋の前で待機。
ちなみにボスは、巨大な斧を持つ牛型モンスターである。
ミノタウロスという品種であり、その圧倒的巨体から繰り出される攻撃は、数多の初級探索者を地獄に叩き落してきた。
しばらくして……、
「来ましたわ~! 性懲りもなく背伸びしたおバカさんたちが、ノコノコとやってきましたわ~!」
やってきたのは、4人組のパーティーだ。
(いくら初心者用のダンジョンといっても……)
(なにも準備しないと、ボコボコにやられちゃうっていうのに……)
別にダンジョンの中で命を落としても、入り口に転送されるだけである。
それでも死ねば痛いし、下手すれば一生物のトラウマが残る可能性すらあった。
"メインイベント始まった"
"ボスにやられる初心者を見て、ニッコニコになるクズ系お嬢様"
"このエセ嬢がボスに返り討ちにあう日をお待ちしております^^"
「まずあの剣士。あれは駄目ですわね~、まず武器のサイズが合っていません。
それに盾士、ヘイト取る気が感じられません。なんで殴ってるんでしょうね~!
それに魔術師ちゃん、怯えすぎて詠唱かみっかみです。眠ってても呪文唱えられるぐらいに練習してきましょうね~!」
"他人のダメ出しするときだけ最高にイキイキとしてる女"
"↑↑なんだ俺らか!"
"全部正論だけどクソうぜぇwww"
さらに荒れだすコメント欄。
「キャッ」
「大丈夫か、裕介!?」
「ふぎゃっ……」
レベルが違いすぎる。
目の前で、ボスに挑んでいたパーティーが瓦解していく。
あと一振りでパーティーが全滅するというところで、
「フレア、ですわ~!」
私は、颯爽と割って入った。
巨大な火柱が、ボスモンスターに躍りかかる。
ジュワァアア……
一撃。
たったの一撃で、ボスモンスターは跡形もなく消し飛んだ。
"なんやこの火力・・・"
"戦闘力だけはバケモノなんよな、このエセお嬢様..."
"音声オフにするのが、この配信の楽しい楽しみ方やぞ"
「お~っほっほっほ。こんなお飾りボスに苦戦するなんて、お雑魚が過ぎますわ!」
そうして声高に笑い声をあげ、無様な敗北者たちをあざ笑う。
「むっ、そんな言い方をしなくたって……!」
「あ~らら、プライドだけは一丁前。最近の探索者は、助けられてもお礼すら言えないんですわね」
「うぐっ……」
パーティーのリーダーらしき男が、むっとした顔をしていたが、
「す、すまなかった…………」
ぎりりと歯ぎしりしながらも、そう頭を下げてくる。
「あ~、汚い。臭い。全身、ボロッボロでしてよ。
生まれが知れるというもの――さっさと帰って、反省会でもしてるとよろしいのですわ!」
(焔子式煽り法典━━第十七条!)
(負けて泥だらけになった相手は、臭いで追撃すべし――ここですわ!)
煽る。煽る!
少しでもスキルを強化するため。
そして、どんな形でも話題になり、ダンチューバーとしての知名度を上げるため。
(どんな悪名も、無名よりはマシ)
(私は、私にできることをやる……!)
それが【大炎上】なんて厄介なスキルを持つ私を、快く雇ってくれた事務所への恩返しとなるはずだ。
そんなこんなで私は、ボスに挑む初心者を何組か煽り散らかし……、
"なんで、こんな奴が実力あるんだ・・・"
"こんな屑が実力持ってるの、世の中不平等すぎるだろ!"
"わいはこのエセ嬢が負けるの見るために追っかけてるんや・・・"
「お~っほっほっほ。今日も才能のない下僕たちの嫉妬が心地よいですわ~!」
ついでにリスナーをも煽り散らかし。
配信を切るのであった。
「…………はあ。私、いつまで、こんなことやるんだろうな――」
スイッチがオフになり、ぽつりと溢れるのはそんな言葉。
始めたのは配信後の恒例行事。
そう、一人反省会の時間である……!
***
焔子は、ついぞ気が付かなかった。
切ったと思ったスマホが、ばっちりと録画中であったことを。
高性能のスマホは、ばっちりと独り言でも配信に乗せてしまうということを。
焔子の本性が知れ渡り、やがてはバズりにバズってしまうのだが……、
――そのときの焔子は、まだ知るよしもなかったのである。
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