バーニングお嬢様、ひとり反省会を始めてしまう

 ぶんぶんと首を振って、私は気持ちを入れ替える。



「お~っほっほっほ、ですわ〜!」


 う〜ん?


「なんかキレが足りない……?

 お~っほっほっほ、ですわ〜!!」


 笑顔の基本は、反復練習である。

 キレのある笑顔こそが、煽りの威力を最大限増大させるのである。


「お~っほっほっほ……、はぁ━━」


 無性に虚しくなり、私はため息をつく。




「今日もたくさん煽っちゃったなあ。今日会ったのは、全員初心者だったよね━━これで嫌になって、引退とかならないと良いんだけど……」


 思うのはそんなこと。

 ダンジョン探索の楽しさを知らぬまま、もし私のせいで引退なんてなったら何とお詫びすれば良いのやら。


 正直、準備不十分なままボスに突撃を繰り返す初心者さん達も悪いとは思うけど。

 その結果、私のような民度最悪のダンチューバーを引き当てるとは、つくづく運が無い人たちである。


「ううん、あの能天気さはやっぱり駄目。ダンジョンをただのお遊戯だと思ってたら、いつか心に深いトラウマを植え付けられることになっちゃうもん……」


 ダンジョンには、人間を苗床にし、一週間かけてじわりじわりと生き血をすすりながら、なぶり殺しにする恐ろしい怪物が居るという。

 蘇生するといっても、その精神まで無事であるとは限らないのだ。

 


(それに私みたいな配信者としては、無鉄砲な探索者は歓迎すべきなんだけどね!)


 そう、私のような配信スタイルの人間としては、無鉄砲なビギナーが居るからこそ、常に一定の撮れ高があってチャンネルが成り立っていると言える。


 ありがとう、無謀な初心者。

 ありがとう、初心者の関門ことミノタウロスくん。


「はぁぁぁぁ……。他人の不幸を喜んでる私、ぐう屑じゃん。我が事ながらドン引きだわ。地獄に落ちれば良いのに」


 こんな配信スタイルを繰り返した結果、私には大量のアンチがついている。

 中には面白いと言ってくれるファンも居るが、だいたい私を追っているのは、あまたの探索者を煽り散らかしたヤベエやつが、誰に最初に土を付けられるかという興味だと思う。



「はぁぁぁぁ……。私、なんでこんなスキルなんだろ━━友達は天使様! なんて愛されるスキルなのに」


 個人でダンチューバーやってる友達は、【皆のアイドル】なんてぶっ壊れスキルを持っていたっけ。

 効果は、同接数によってパーティーにバフがかかるというもの。笑顔も可愛らしく、どこのパーティーからも引っ張りだこ━━煽り系として、日々、悪評をばら撒く私とは別世界の人間になってしまわれた。

 


(な〜んて、不満を言っても仕方ないか)


 人間、持ってる手札で戦うことが寛容である。


「悩んでる暇があったら、焔子式煽り法典の復唱━━第一条! 健全な煽りは、相手への敬意を忘れるべからず、ですわ〜!」


 私が、ギュッと拳を突き上げていると、



 キューキュー!

 私の肩から、ひょっこりとペットのスラリンが顔を覗かせた。

 スラリンは、ぷるぷるとしたゼリー状の可愛らしいスライムである。

 ダンジョン入り口でテイムに成功した、世界でいちばん可愛らしいスライムなのである!


(まあ、煽り系配信者には似ても似つかない愛らしさだから、配信中は隠れてもらってるけど……)


「どったの、スラリン。あなたも、この世の不条理を一緒に嘆いてくれるの?」


 ……キュー?


 今の私は、さぞ、でれでれ〜っとした顔をしていることだろう。

 何言ってんだこいつ、と言わんばかりの表情で、スラリンがこちらを見返してきた。


「そうだよね、嘆くよりやれることをやる。私が参考にしてきた格好良い悪女たちも、決して挫けることが無かったもんね!」


 ちなみに、配信でのキャラを固めるにあたり参考にしたのは、数多ある小説やゲームである。

 特に、少女が王子様と結ばれる少女漫画━━のライバル役を主に参考にした。

 まるでストーカーのようにヒロインの近くに現れ、颯爽と嫌味を言って去っていく姿はまさにお手本。


 ことある毎に読者をイラつかせ、最後には気持ちよく倒される理想の悪役。

 その精神は、まさに煽り系の究極形態。

 そんな彼女たちを参考にして私は……、最後には理想の散り花を咲かせるのだ!


「そう! 煽り系配信者は、最後の最後にはギャフンと言わされて完成する。だからその時まで、頑張ってお雑魚たちを煽り散らかしていきますわ〜!」


 エンターテインメントは、そこまでやって完成する。

 時が来たら全てを受け入れ成敗されるべし━━そう焔子式煽り法典にも書いてある。


「お~っほっほっほ、ですわ〜!」

「お~っほっほっほ、ですわ〜!」

「お~っほっほっほ、ですわ〜!」


 立派な高笑い。

 もうこれで、エセお嬢様なんて言わせない。



「……ふぅ」


 ようやくダンジョン出口が見えてきた。


 思わず駆け出すと、立派な縦ロールがふさっふさと揺れた。

 衣装士さんが毎日一時間かけてセットしてくれる自慢の逸品である。

 この縦ロールの重さが、事務所の私への期待を感じさせて、私も身が引き締まる思いだ。



「目指せ、世界一の煽り系配信者。ですわ〜!」


 私は、ダンジョンから出ながら高らかにそう宣言するのだった。



===


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